「にゃん・にゃん・にゃん」の語呂合わせで、一度聞いたらすんなりと覚えてしまいますね。
猫の日は、「猫と一緒に暮らせる幸せへの感謝、そして猫と一緒にその喜びを噛みしめる」そんな趣旨のもとに、愛猫家で知られる学者や文化人たちの手により1987年に制定されました。愛猫家の猫への思いが伝わるエピソードですね。
『猫の神話』(池上正太 著)には人のよき友として、また畏怖と信仰の対象ともなった猫の伝説や逸話が収録されています。
楽しく時にちょっぴり切なくもある猫の物語の中から、猫の日に読みたい日本に伝わるちょっと不思議な「猫の恩返し」のお話をご紹介いたします。
目次
猫の日:病気を患う人のため、猫の運んだ金二両
平安時代においては貴人の愛玩動物であった猫も、江戸時代に入ると一般庶民の身近な隣人として広まっていくようになりました。それを境に、「猫」の情愛を示す物語もフィクションを織り交ぜながら多く語られるようになっていきます。1862年に発行された『宮川舎漫筆(きゅうせんしゃまんぴつ)』に登場する猫の話もそのひとつです。
両替商の喜三郎の家に出入りしていた、魚屋の話です。この魚屋は猫好きで、喜三郎の家に飼われている猫によく魚を与えてかわいがっていました。
ところがある時、魚屋が病気で寝込むことになってしまいました。
江戸時代の多くの庶民がそうであったように、働かずに生きていける貯えは魚屋にはありません。たちまち生活に困るようになりましたが、ある日魚屋のもとに紙に包まれた2両の金子が届けられました。魚屋はこれを不審に思いましたが、困窮していたためありがたくその金を使い、どうにか働けるまでに回復することができたのです。
しかし、魚屋が馴染みの喜三郎の家に行くと猫がいません。なぜかと尋ねると、なんと喜三郎はこのように語ったのです。
「先日二両の金がなくなり、その犯人を探していた折、猫が金を咥えて持ち出そうとするのを見つけたので捕らえて金を取り戻した。ところが、また金を持ち出そうとするので、前の二両もこの猫がやったに違いないと思い、打ち殺したのだ」
これを聞いた魚屋は涙を流し、自分が病に伏していた折に二両の金が届けられたことを語りました。喜三郎は猫の志を不憫に思い、その二両は魚屋に与えたということです。魚屋は猫の亡骸を貰い受け、本所回向院に墓を建ててもらったといいます。
丸くなって眠る小さな猫の像が乗った墓碑は、今も東京都墨田区の本所回向院に残されていて「小判猫」と呼ばれているのだそうです。
◎関連記事
猫の日:医療より効く薬? 飼い主の身代わりになった猫
青葱堂冬圃(せいそうどうとうほ)の記した『真佐喜のかつら』の猫の恩返しは一風変わっています。江戸に住む大工の話です。妻に先立たれた彼は一匹の猫を家族としていて、その溺愛ぶりは甲斐甲斐しく餌の用意をするだけでなく、たびたび仕事帰りに猫の好物を土産に持ち帰るほどだったといいます。
猫と楽しく暮らしていた大工でしたが、ある時目に病気をしてしまいます。医者もさじを投げた大工の病は日に日に悪化し、ついに働くことさえできなくなりました。弱り切った大工は猫に語りかけました。
「病気が治る見込みがなく、可愛がってきたお前に餌をやることもできない。どうしたものか」
すると猫は、その日から朝晩問わずしきりに大工の両目を舐めるようになったのです。
猫が舐め続けるに従い眼病は快方に向かい、ついには大工の目は片目だけながら、ものが見えるまでに回復しました。
しかし、猫は大工の身代わりのように片目を失ってしまい、そしてそのまま姿を消すと二度と大工のもとに戻ることはありませんでした。
大工はそれを悲しみ、いなくなったその日を命日と定め、懇ろに弔ったといわれています。
◎関連記事
猫は薬にもなる? 魔術や呪術にも使われる猫たち
人語を喋り神通力を使う 妖怪猫又、誕生の背景とは
猫の日:お伊勢参りで大変身、猫と人の異類婚姻譚
北陸地方には、こんな猫の話が残されています。ある貧乏な若者の住まいの近くを、ちいさな三毛の子猫がさまよっていました。一度は長者に拾われたものの、哀れにもすぐに捨てられてしまいます。
かわいそうに思った若者は子猫を拾ってミケと名付け、食べ物を噛み砕いて与え、魚が手に入ればいの一番にミケに与えてかわいがりました。それに応えるように、子猫は賢く美しい猫に成長していったのです。
ある日、若者は冗談で「お前が人間なら麦を挽いてくれるのに」といいました。
すると猫は返事をするように鳴き、翌日には石臼で麦を挽いて若者を助けるようになったのです。若者は驚きましたが、そのことを喜び毎日仕事に精を出し、次第にお金も貯められるようになりました。
若者は働き者の猫と協力して楽しく暮らしていましたが、ある時「ミケが人間になってしまえばいいのに」とポツリとこぼしました。
するとミケは驚くべきことに、次のようにしゃべったのです。
「では、お伊勢様にお参りして人間になれるようお願いしてきます」
若者は、猫との生活で貯めたお金をその首に下げてやり、ミケを送り出しました。
二ヶ月ほどたったある日、目の大きな色白の可愛らしい娘が訪ねてきました。あの賢く美しいミケが、お伊勢参りを終えて人間になって帰ってきたのです。
若者と働き者の猫の嫁は、幸せに暮らしたと伝えられています。
◎猫好きにおすすめ!
>新紀元社
>Amazon
>新紀元社
>Amazon