剣や魔法の世界での冒険を繰り広げる登場人物であるプレイヤー・キャラクター(PC)を用意しました。そのデータに沿って、彼らがどのような危機に立ち向かい、どう振舞い、活躍したのかがあればストーリーとして動画に仕立てられるでしょう。
テーブルトークRPGは、その「どのように行動したか」をプレイする遊びなので、PCたちの行動という情報はゲームをプレイして作り出します。テーブルトークRPGをプレイすることは、複数の遊ぶ人が協同して成り立たせることから "セッション" と呼ばれます。
テーブルトークRPGのセッションを、ほかの人が観賞できるメディアに仕立て直したものとして、小説やリプレイという形式のものがあります。
小説は、PCの行動や起きた出来事を小説として語り直し、ストーリーや人物により説得力を持たせて読んで面白いノベルとしたものです。特に大きくヒットした作品として、D&Dのノベライズの世界的な金字塔『ドラゴンランス戦記』や、日本の作品では小説版『ロードス島戦記』があります。数あるノベライズの中には、異世界が接触したという設定で、ふたつのTRPG(D&Dとルーンクエスト)でのセッションを接続した『リフトウォー・サーガ』もあります。
"文章のリプレイ" は、セッション参加者の説明や会話を、主にPCのセリフを中心に書き出して読み物としたものです。参加者とPCと両方がわかるように書かれるので、ルールの説明なども並記できます。なかにはセッション内でルールを間違ったのを補足、説明したり、少ないながら目的や任務に失敗した内容の作品もあります。物語を経験する遊びである面を小説より強く示しているといえるでしょう。アドベンチャーの進行からは脱線した会話が面白かったり、裏話が開陳されたりもあったりする作品もあり、小説とは異なる読み物になっています。
PCのデータから、PCを動かして物語を形作ってしまう剛腕な著者もいないわけではありません。ですが、ダイスやPCの行動によって生み出される予想外のドラマがセッションの醍醐味のひとつですから、予定調和に閉じてしまわないストーリーを期待して、セッションを実際に遊ぶことをお勧めします。
そのような「一回性」のため、アトベンチャー・シナリオにある舞台は同じでも、参加者とその時々の行動や出目によってセッションごとに異なった内容になります。もちろんダンジョン・マスターが違えば、遊び心地も違ってきます。謎解きやNPCの動機やアリバイ、ダンジョンのギミックといったものは、一度遊べばあからさまになってしまいますが、ひとつのアトベンチャーを繰り返し使用する遊び方もあるのです。
前回からお勧めしている「腐敗の影」は話の流れもほとんど決めてあり、ダンジョンも片手で足りる数の部屋しかありません。ですがルールやプレイ・フィールがわかるほか、DMやPCのクラスの担当を交代して複数回セッションを遊ぶことで、その回ごとの一回性の面白さも実感してもらえると思います。
ですから、動画向けのセッションのアドベンチャーの選択において、新しいものや自作の未公開作品が必須ではありません。一度遊んだことのあるアトベンチャーを、動画の材料収録に別建ててプレイする方が勝手が良く、動画化を意識してプレイすることで、動画にしやすくなる可能性もあります。前述の「ロードス島戦記」は、雑誌掲載の「D&D誌上ライブ」というリプレイ形式が初出ですが、その後の「ロードス島戦記」のリプレイは「ロードス島戦記コンパニオン」で別にセッションを行って収録し、書籍で刊行されています。
アトベンチャーのセッションを動画化することはテーブルトークRPGという遊びの性格から許されていることで、ネタバレしていることを断って公式のアトベンチャー・シナリオ製品のセッションを動画化している動画もあります(アトベンチャー・シナリオの記述やデータをそのまま開示していくようなものはダメです)。
オンラインでセッションを行うのにも、Webベースのキャラクター・シート、オンライン・セッション・ツールも複数あり、セッション自体をデジタルで記録しておくことで動画化の素材情報の確保も可能な環境があります。
低いレベル帯向けのダンジョンの作り方は、「D&Dのはじめかた」第26回・第27回・第28回「1レベル向けアドベンチャーを作ってみよう」でご案内していますので、参考にしてください。