【本気編】として、コア・ルールでキャラクターを作成し、公式アドベンチャーのいずれかを選ぶか、アドベンチャーの自作もご紹介してきました。そろそろ "はじめかた" は脱してきたかと思います。『ソード・コースト冒険者ガイド』を柱として、剣と魔法のヨーロピアン・ファンタジーというテーブルトークRPGの王道を進んでいただけているかと思います。
それとは違う、モダンな世界設定として『エベロン冒険者ガイド 最終戦争を越えて』もあります。「エベロン」は、D&D第3.5版において新たに設定された後発の世界設定です。呪文が技術として人々の生活のなかに定着し、大型エレメンタルをエンジンに利用した飛空船や大陸鉄道がある、スチーム・パンクのイメージにエネルギー源は魔法といった近世をも感じさせる世界です。
『エベロン冒険者ガイド』で詳しく紹介され、D&D第5版で遊ぶのに主な舞台となる「コーヴェア大陸」は、大陸全域を巻き込む五か国のあいだで100年に渡り戦われた大戦争が終結して2年、という社会的背景が設けられています。新設された魔法の力「ドラゴンマーク」により、通信や銀行といった社会のインフラを牛耳る「ドラゴンマーク氏族」があり、王国や都市国家てきなものが多い伝統的な剣と魔法のファンタジーとは、一線を画す世界が用意されました。
それらを反映したプレイヤー・キャラクターを作るデータはもちろんあり、いままでの種族のエベロンにおける様子やデータに加え、種族では「ウォーフォージド」、クラスでは「アーティフィサー」が追加され、PCを作り、エベロンらしい活躍ができます。
『エベロン冒険者ガイド』での紹介を見てみましょう。
P.17戦うために産み出された人造の種族が、戦場ではない場所でどう生きるか ― そんなPCを正面から作り、プレイできます。ウォーフォージドはクラスの選択に制限なく、ファイターのウォーフォージドも、ウィザードのウォーフォージドも可能で、彼が戦争中どうしていたか、というドラマを考える余地が広くあります。
ウォーフォージド
「ピアースは設計をもとにして作られましたが、あなたは偶然の産物です。大切なのは魂であって、器が何でできているかではないのです」
「あいつに魂があるって、どうしてわかるんだ?」
「あなたに魂があるという証拠は?」
―キース・ベイカー『砕かれた大地』、
渡部・矢野・鵜江西・田畑・辻川訳
ウォーフォージドは最終戦争で戦うために造られた。最初のウォーフォージドは心なき自動人形に過ぎなかったが、カニス氏族はこの鋼の兵士を改良するために莫大なリソースをつぎ込んだ。こうして予想外の飛躍的進歩によって誕生した知性ある兵士は、新たな種族として受け入れられた(一部の者は嫌々ながら認めた)。ウォーフォージドは木材と金属で造られているにもかかわらず、痛みや感情を感じることができる。兵器として生み出された彼らは、今や戦争以外の目的を見つける必要がある。ウォーフォージドは頼もしい味方にも、冷酷な殺人機械にも、生きる意味を探す夢想家にもなりうる。
またコーヴェア大陸では、「権利」という概念が確立していて、それを啓蒙する新聞があったり、劣悪労働に従事するオークやゴブリン類の権利が取りざたされたりもする社会です。一方で、コーヴェア大陸の片隅には、モンスター種族を国民とする国家があったり、隣の大陸では、密林の中で野性的なエルフや、ダークエルフであるドラウが勢力を張っていたり、コーヴェアの近世に比べ、力が支配する場所、もっと魔法的なクリーチャーたちがすむ場所も用意されています。
クラスのアーティフィサーは呪文を使うクラスですが、その使い方は独特で自由なイメージを持ち込むことができるものです。コラム「技術の魔法」が、それを紹介しています。コミックやアニメ、映画で、「あれみたいなことができそう」と思えるのではないでしょうか。
P.54
クラス:アーティフィサー
アーティフィサー(魔法技師)はありふれた物体を魔法のアイテムとして目覚めさせる技術を体得した天才的発明家だ。彼らにとって魔法とは、解読し制御すべき複雑なシステムである。アーティフィサーは職人が使うような道具を使って秘術エネルギーの流れを操作し、魔法の品を創り上げる。呪文を発動する際にも、錬金術用品を使って効能豊かな霊薬を作ったり、書道用品を使って味方の鎧に力ある印形を描いたり、よろず修理屋道具を使って当座のお守りをこしらえたりする。アーティフィサーの魔法は彼らの道具や才能と一体不可分だ。
P.56 コラム
技術の魔法
アーティフィサーである君は道具を使って呪文を発動する。君の呪文発動を描写する際には、道具をどのように使って呪文の効果を生み出しているのかを考えてみよう。錬金術用品を使ってキュア・ウーンズを発動しているなら、軟膏を高速調合しているのかもしれない。同じ呪文をよろず修理屋道具で発動しているなら、傷口を縫い合わせる微小なクモ型ロボットを使っているのかもしれない。ポイズン・スプレーを発動する際には、悪臭漂う化学薬品を投げつけているのか、ワンドから毒を噴射しているのか。呪文の効果自体は他のクラスの術者が使った場合とまったく同じだが、君の発動のしかたは特別だ。
君が呪文を準備する際にも同じことが言える。アーティフィサーである君は、呪文を準備するために呪文書を研究したり祈ったりはしない。君は道具を使って、所期の効果を発生させることに特化したアイテムを作っておくのだ。君がキュア・ウーンズの代わりにヒート・メタルを準備する時、君は治療用に使っていた装置を改造して、癒しのエネルギーの代わりに熱を発生するようにしているのかもしれない。
以上の描写は、君の呪文に何らかの制約を加えたり、呪文の通常の効果以外の利益を与えるようなものではない。君が道具をどのように使って呪文を発動しているのか、納得のゆく演出を考える義務はない。だが、君の呪文発動の様子を創造性豊かに描写すれば、他の術者とはまったく違った個性を演出できるだろう。
『エベロン冒険者ガイド 最終戦争を越えて』は、320ページの大書で、ウォーフォージドとアーティフィサー以外の設定、データも大変魅力的です。「指輪物語」を祖とする伝統的な剣と魔法の世界から、後年の新しい作品も取り入れたモダンな世界での冒険に飛び込みましょう。
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次回は10月3日(土)に公開予定!
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