どこまでも続く朱塗りの鳥居に狐の像。京都にある伏見稲荷大社は今や海外から来る観光客にも人気のスポットです。
伏見稲荷をはじめとする稲荷神社は日本全国に約4万社もあるといわれていますが、お稲荷様はどうしてこんなに人気なのでしょう? また、なぜ狐とつながりがあるのでしょうか?
今回はお稲荷様と狐の深い関係をご紹介します。
目次
お稲荷様の総本山・伏見稲荷大社の成り立ち
お稲荷様といえば有名なのは、伏見(京都府)にある伏見稲荷大社。まずはその成り立ちからご紹介しましょう。
*伏見稲荷大社が造られるまで*
①秦伊呂倶が餅を的にして弓を射る。
②餅は白い鳥になって山の峰へと飛び去る。
③山の峰に伊禰(稲)が生えてきた!
④伊禰が生えてきたので伊禰奈利(稲なり)→伊奈利(稲荷)という神社が造られた。
『山城国風土記逸文』によると、和銅4年(西暦711年)、京都地方に住んでいた秦伊呂倶(はたのいろぐ)という帰化人が餅を的にして弓を射ったところ、餅は白い鳥となって山の峰へと飛び去り、そこから伊禰(稲)が生えてきたといいます。
そこで伊禰奈利(稲なり)から伊奈利(稲荷)という神社が造られ、秦氏一族の氏神様として祀られるようになりました。これが伏見稲荷大社のはじまりです。
お稲荷様の使いはどうして狐なの?
伏見稲荷にたくさんの狐の像があるように、お稲荷様といえば私たちは狐を連想しますが、実は稲荷神は狐ではありません。
稲荷神は「
狐はこの稲荷神の使いとされる霊獣で、人々に稲荷神の意思を伝えたり、時には神に代わって人にご利益を授けるなどの仕事をしているのです。
では、お稲荷様の使いはどうして狐になったのでしょう? 諸説ありますが、よく知られている説をご紹介しましょう。
狐は山に暮らす生き物で、冬から春にかけて里に下りてくると穀物を食い荒らすネズミを捕って食べたりします。
一方、日本の民俗信仰で古くから親しまれていた山の神は、春になると山を下りて田の神となり、秋になって収穫が終わると再び山に帰ると考えられていました。この山の神の信仰が狐の習性と結びつき、いつしか狐は神の使いだと考えられるようになったというのです。
熊野神の烏、日枝神の猿など日本には他にも動物の神使がたくさんいますが、お稲荷様と結びついた狐はなかでも働きもので、多忙な稲荷神に代わってせっせと人々にご利益を授けています。
ご利益の内容も仏教の現世利益信仰に基づいているため、元々稲荷神が守護していた農業や工業・商業に関わることだけでなく、お金、病気、子宝、受験合格などとにかく幅広いのです。
こうした点も稲荷信仰が流行った理由であり、また「お稲荷様といえば狐」というイメージが広まるきっかけとなりました。
お稲荷様はどうして全国的に有名になったの?
では、京都の豪族・秦氏の氏神様だった稲荷神が、どうして全国的に知られるようになったのでしょう? その理由は仏教と結びついたことにありました。
平安時代、真言宗の開祖・空海(弘法大師)は唐で厳しい修業を積み日本に帰国すると、嵯峨天皇に認められ、建設途中だった東寺(教王護国寺)を与えられました。
空海はこの東寺に講堂を建立するなどしますが、その際に稲荷山から木材を切り出し提供したのが秦一族だったのです。
これがきっかけで稲荷神は仏教と結びつきを深め、東寺の守護神として祀られるようになります。時代が下り庶民の間にも仏教が広まると、稲荷神も全国各地へと伝わることとなりました。
ちなみに仏教には
やがて中世から近世へと時代が進むと工業や商業が発展し、仏教的な現世利益の思想の影響で、稲荷神の神格は農耕の神から工業や商業の守護神へと変化します。こうして、稲荷神は商業が盛んな都市部でも広く信仰されるようになりました。
江戸時代の俗言には「伊勢屋 稲荷に 犬の糞」というものがあります。これは「どこででも見られるもの」という意味で、当時、このような俗言が生まれるほど稲荷神は人々の暮らしに浸透していたというわけです。
お稲荷様に会いに行こう! 全国にある稲荷神社
最後に、お稲荷様が祀られている有名な神社仏閣をご紹介しましょう。
稲荷神社の総本社であり、「
境内には大小の朱塗りの鳥居が立ち並び、数多くの狐塚が設けられています。伏見稲荷大社では狐は神の使いであるだけでなく、命婦神という神様そのものとして大切にされているのです。
http://inari.jp/
伏見稲荷は神道系の稲荷ですが、こちらは仏教系の稲荷です。今川義元、織田信長、豊臣秀吉ら戦国武将からあつく信仰され、江戸時代には全国的に信奉されるようになりました。
山門の守護神として祀られている
https://www.toyokawainari.jp/
7世紀中頃に創建され、五穀豊穣、殖産興業、火防などさまざまなご利益があるとされています。ご祭神は「宇迦之御魂神」で、東京(中央区日本橋)にも別社があります。
http://www.kasama.or.jp/
古くから日本で信仰され続けてきたお稲荷様。稲荷神社では一般的に、狛犬の代わりに狐の像が置かれています。神社によってさまざまなしぐさや表情のものがありますので、見比べてみるのも楽しいですよ!
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