文:斜線堂有紀
「幻想キネマ倶楽部」とは?
毎月28日にお届けする、小説家の斜線堂有紀先生による映画コラムです。
月ごとにテーマを決めて、読者の皆さんからテーマに沿ったオススメの映画を募集します。
コラムでは、投稿いただいた映画を紹介しつつさらにディープな(?)斜線堂先生のオススメ映画や作品の楽しみかたについて語っていただきます!
今月は「一番好きなファンタジー映画」を観てみない?
長らく続けさせて頂いた「幻想キネマ倶楽部」も今回で最終回。思えば沢山の映画を紹介させて頂いた。最後のテーマはベストファンタジー映画! ということで、ある意味原点回帰的なテーマを語っていこうと思う。
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もしかするとこの映画のおかげでボードゲームが好きになったかもしれない。続編なんかもでてますが、やっぱり1作目がすばらしい。ファンタジーはこんなにも夢を与えてくれるものなんだな、と実感しますね。(ソリティア)
ジュマンジ
ジュマンジ(1995)
監督:ジョー・ジョンストン
製作国:アメリカ
監督:ジョー・ジョンストン
製作国:アメリカ
ゲームに入ってしまう系フィクションの先駆けとも言える『ジュマンジ』である。奇遇なことに『ジュマンジ/ネクスト・レベル』が公開中だ。あのお祭り映画感は唯一無二で、否応なくテンションが上がる。私も仕事を納められたらレイトで観に行こうと思っているのだが、全く終わる気配がないので一体どうなることやら……。テレビで予告を観る度、ジュマンジに呼ばれている気がするのに……。
なんてことを言ってはいるものの、実はこの『ジュマンジ』は、予告が怖くて子供の時は恐怖の対象だった映画でもある。割と静かな導入、ゆっくりと落ちるサイコロのカット、そしていきなり始まる動物パニック! 今思うとそこまで怖くないが、その頃は恐怖の対象だった。そもそもあのドラムの音で人間を引き寄せるジュマンジの生態? も怖い。キングの「猿とシンバル」(シンバルを鳴らすサルの玩具をテーマにした短編。その音を聞いたものは死ぬ。強すぎる)を思わせる。
結局『ジュマンジ』の精神的続編である『ザスーラ』を子供会主催の映画鑑賞会で観せられて、ようやく『ジュマンジ』の恐怖から解き放たれ、普通に楽しめるようになった。ああいうオチのものが当時は斬新だったので、その意味でも印象深い。
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ファンタジーといえば魔法! だと思っています。まず色が綺麗。かわいい。初見は小学生の頃で、私にとって初めての「原作を先に知っている、映画化されたもの」でした。自分の想像とは全然違っていてそれでいて別物として素晴らしい。初めて他人の描く世界というものを意識した作品だった気がします。初見時は街並み、次は色彩、その次は描かれる恋、見るたびに最高だったポイントが発見されていくのが楽しくて年に1回くらいのペースでずっと見ています。(紅葉)
ハウルの動く城
ハウルの動く城(2004)
監督:宮崎駿
製作国:日本
監督:宮崎駿
製作国:日本
触れずにはいられないジブリの名作、『ハウルの動く城』! 不気味で美しく、なおかつジュートな動く城! 陰鬱な戦争の影から美しい星の光まで、映画を彩るあの色彩は唯一無二で、私も何度も観直している。細かいところの造形がたまらない。あのドア脇のくるくる回る円表に憧れた。行き先を変えられる扉の描写の中でも随一のお洒落さだ。
紅葉さんの言う通り、観る度に色々なものが発見されていく映画だと思う。初めて観た時はソフィーの年齢がどうしてあんなにも変動するのか、ハウルが戦い続けた理由は何なのか、この映画のメッセージは何だったのかが分からなかった覚えがある。それでも面白いのがこの映画の凄いところなのだが、何度も観て少しずつ自分の解釈を深めていくのは楽しかった。おばあちゃんになった後のソフィーが何から解放されて、何故あんなに元気になったのかも、色々と考えてみた覚えがある。
あとは「未来で待ってて」の台詞回しを思い出す度に心に漣が立つので、要するにああいうシチュエーションが好きなのだと思う。極上のファンタジーかつ、ストレートなラブストーリーだ。
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そして、今回の斜線堂有紀セレクト映画なのだが、ベストなファンタジー映画というお題に悩まされた。『パコと魔法の絵本』も好きだし『魔法に掛けられて』も何度も観ているし、シリーズ全部を映画館で観たハリー・ポッターシリーズにも触れたい。だが、最後ということもあって、私は是枝監督の『ワンダフルライフ』を推す。
ワンダフルライフ(1999)
監督:是枝裕和
製作国:日本
監督:是枝裕和
製作国:日本
この映画の筋立てはシンプルだ。人生を終えた死者は、天国に行く際に自分の人生の中で忘れたくない記憶を一つだけ選ぶことが出来る。死者が選んだ人生で一番の想い出は〝映画〟として再構成され、天国に行く前の上映会で流される。そして、死者はその思い出と共に旅立っていくのだ。天国の手前の映画館、とも言うべきこの施設には、五名の職員が働き、今日も死者を送っている。しかし、ここで働く彼らは全員、人生の一番の思い出を選べなかった人間達なのだった──。
この「死者の想い出を上映する映画館」という設定と全体的に淡々とした静かな雰囲気と滲むエモーショナルが好きなのだが(Blu-ray版のジャケットを見て頂ければこの映画の持つ得体の知れない寂しさが伝わるかと思う。あの水色は喪失の水色なのだ)それだけでなく、この映画に込められたメッセージは底知れないほど優しい。
当然ながら人生には終わりがある。自分が死ぬことを知ってしまった人間に与えられた慰めの一つが走馬燈だ。その概念を知ってから、私は何か印象深いことが起こる度に、これは走馬燈に現れるだろうかと思うようになった。この物語風に言うなら、自分が上映できる思い出は何だろう? だ。
これは意外と難問だった。自分の人生を振り返ってみても、天国に持って行くものなんてそうそうない。それは人生にどんな意味を与えるか、ということと同義だからだ。その問いに対し、この映画が出した結論は酷く優しい。是枝監督は現在まで長く活躍されている監督だが、彼は基本的に人間というものが好きなのだろうと思う。
この「幻想キネマ倶楽部」も、私の大切な思い出の一つだ。たった一人で映画を観続けてきた私にとって、この場は人生を遡って人と思い出を共有できる映画館のようだった。少し大げさな言い方になるかもしれないが、私の人生を変えてくださった皆さんに感謝申し上げる。ありがとうございました。また何処かでお会い出来れば嬉しいです。
*作者紹介*
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻、『私が大好きな小説家を殺すまで』『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』がメディアワークス文庫から発売中。他の著作に、『コールミー・バイ・ノーネーム』(星海社FICTIONS)『死体埋め部の悔恨と青春』(ポルタ文庫)などがある。
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻、『私が大好きな小説家を殺すまで』『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』がメディアワークス文庫から発売中。他の著作に、『コールミー・バイ・ノーネーム』(星海社FICTIONS)『死体埋め部の悔恨と青春』(ポルタ文庫)などがある。
シリーズ名:ポルタ文庫
著者:斜線堂 有紀
イラスト:とろっち
定価:本体650円(税別)