H.P.ラヴクラフトと彼の仲間たちが創作したSFホラー作品群「クトゥルフ神話」。最近はテレビやソーシャルゲームでも取り上げられ、知名度が上がっています。
しかし、どの作品から読めばいいか分からない人も多いのでは? 今回は、H.P.ラヴクラフトが綴ったクトゥルフ神話作品の中から、代表的な物語5篇を10行くらいで一気にご紹介します。
目次
まずはここから! 海に沈んだ恐怖が目覚める『クトゥルフの呼び声』
1928年発表の『クトゥルフの呼び声』(The Call of Cthulhu)は、海に沈んだ超古代遺跡に眠る「クトゥルフ」をめぐる物語です。
古代碑文研究の権威であり言語学者のエインジェル教授が急死し、その相続人となったサーストンは、教授の遺品から書類箱を発見します。書類箱には新聞記事の切り抜きと、「クトゥルフ教団」という題の草稿、そして蛸と竜と人間を掛け合わせたような怪物が描かれた粘土板が入っていました。
教授の草稿によれば、ある芸術家の青年が夢に着想を得てこの粘土板を作成したのだそう。夢の内容を熱心に教授に語った芸術家は、ある日突然錯乱し、正気に戻ると夢のことをすべて忘れてしまっていました。
さらに草稿には、教授が学会で出会った奇怪な黒い小像と、それをカルト教団から押収した警察官の談話が綴られます。そのときカルト教団員が供述したのは「大いなる古きものども」と呼ばれる神々と、神々の司祭たるクトゥルフの存在。
調査を進めるサーストンは、やがて一連の出来事をつなぐ恐るべき真実に気づき……
TRPGのタイトルにもなっている『クトゥルフの呼び声』は、壮大なスケールが垣間見られるクトゥルフ神話の代表的な物語です。
あの人気キャラも登場! 異形が住む呪われた街『インスマウスの影』
1931年作の『インスマウスの影』(The Shadow Over Innsmouth)は『ラヴクラフト全集』(大西尹明 訳)1巻の冒頭に収録されていますので、読んだことのある人も多いのではないでしょうか。
語り手の青年は、旅行で母方の家系の出身地である街アーカムへ向かうところ。旅費を節約したい彼は、インスマウスという港町を通るバスを教えてもらいます。インスマウスには奇怪な噂があって近隣から忌み嫌われていると聞き、好奇心をおぼえた青年は途中下車することに。
インスマウスの街は荒廃し、住民は皆まばたきをしない目をした異様な外見をしていました。
語り手の青年は地元の老人から、インスマウスの街と「古きものども」のおぞましい物語を聞かされます。早々に街を出ようとする青年ですが、バスの故障を告げられ宿泊を余儀なくされてしまいます。
深夜、青年の泊まった部屋にインスマウスの住民が殺到し、彼は住民に追い回されて街を逃げ惑うことに。そして逃走の途中、魚類の頭を持ち体に鱗が生えた異形の生物が街の通りを埋め尽くす様子を目撃します。
青年はからくも街から逃げ出しますが、アーカムで自身の家系に関する資料を手に入れた彼は、あることを知るのです――
活劇要素もあり、クトゥルフ神話の特徴のひとつ「遺伝の恐怖」が味わえる『インスマウスの影』は、初めて読むにも相応しい一篇といえるでしょう。
ラヴクラフトから後輩作家への愛が溢れる『闇の跳梁者』
『闇の跳梁者』(『闇にさまようもの』)は、一風変わった成り立ちの作品です。
怪奇作家ロバート・ブロックが、ラヴクラフトをモデルにした作家を自作に登場させ殺害する許可を求めてきたため、ラヴクラフトは快諾。そうして書かれたブロックの『妖蛆の秘密』(Mysteries of the Worm)に対するラヴクラフトからの返礼が『闇の跳梁者』(The Haunter of the Dark)なのです。
プロヴィデンスの街に引っ越してきたロバート・ブレイクは、下宿の西の窓から見えるフェデラル・ヒルの廃教会に惹かれ毎日眺めていました。
ある日ブレイクは廃教会を訪ねることにしますが、フェデラル・ヒルの住民に教会のことを訊くと、皆恐れたように口をつぐみます。
廃教会に侵入したブレイクは、ここがかつて邪悪なカルトの拠点であった痕跡を見つけ、塔の中の光を遮断した小部屋で奇怪な鉱物に触れてしまいます。
ブレイクは廃教会から持ち帰った資料を解読し、例の鉱物が異界の物体「輝くトラペゾヘドロン」であることを知ります。やがて彼は、自分が毎晩眠っている間に廃教会を訪れては、壊れた窓を塞いで暗闇を作り出す作業をしていることに気づきます。
そして雷雨の夜、プロヴィデンスは落雷で停電。翌朝ブレイクの無残な姿が発見される……というのが、『闇の跳梁者』の物語。
「輝くトラペゾヘドロン」「ニャルラトホテプ」「アザトース」などの魅力的な設定が登場し、クトゥルフ神話を読むならぜひ押さえておくべき作品です。
登場人物モデルはラヴクラフト自身!?『ランドルフ・カーターの陳述』
ランドルフ・カーターはラヴクラフト自身をモデルにした人物で、クトゥルフ神話作品のいくつかに登場し奇怪な出来事に遭遇しています。1919年の『ランドルフ・カーターの陳述』(The Statement of Randolph Carter)は、そんなカーターの初登場作品。
ハーリー・ウォーリンは禁断の書物の収集と研究を行っており、友人のランドルフ・カーターはそれを手伝っていました。ふたりの最近の研究対象は、ウォーリンがインドから入手したという書物。
ある夜、彼らは沼地の古代遺跡へ向かい、地下墓所への入り口を発掘。同行を申し出るカーターですが、ウォーリンはひとりで地下墓所へ降りていきます。
やがて地下へ持ち込んだ電話でウォーリンからカーターへ連絡が入りますが、その内容は異様でした。ウォーリンは途方もないもの見たと繰り返し、早くここから逃げろとカーターに言うのですが……
翌朝カーターは沼地のほとりで発見され、ウォーリンの姿はどこにもありませんでした。
カーターの一人称で語られる『ランドルフ・カーターの陳述』は、短いながら恐怖の描写に圧倒される、ラヴクラフトらしい作品です。
ニコラス・ケイジ出演の映画原作!『宇宙からの色』
1927年発表の『宇宙からの色』(または『異次元の色彩』/The Colour Out of Space)は、SF色の濃い作品。
アーカム郊外にあるネイハム・ガードナーの農園の井戸の脇に、隕石が落下。ミスカトニック大学の学者が隕石の標本を採集すると、隕石の断面は見たこともない異常な色をしていました。大学に持ち帰られた標本は未知の性質を示して数日後に保存容器ごと消え、ネイハムの農園の隕石も徐々に小さくなり消滅してしまいます。
その後、ネイハムの農園の果実は不快な味がするようになり、変異した動植物が近隣で目撃され始めます。やがてネイハムと妻、3人の息子たちは心身ともに衰弱し始め、世間との関わりを持たなくなっていきます。
隕石の落下から1年半が経過した晩秋、隣人のアミ・ピアスがネイハムの農園を訪ねると、植物は枯れ家畜も死に絶えて、灰色になりぼろぼろに崩れていました。
アミは農園の屋根裏部屋で、ネイハムの妻の残骸を見つけます。ネイハムは「井戸の中で生きている……色が燃やす」と言い残し、アミの前で崩れ去りました。
アミが呼んだアーカムの警官たちにより、農園の井戸からネイハムの息子たちとおぼしき灰色の塊が発見されます。その夜、井戸が異様な色の光を発して農園中が光り輝き、アミと警官たちはその場から逃げ出しますが――
『宇宙からの色』は何度も映像化されており、2019年1月には新作映画『宇宙からの色』にニコラス・ケイジが出演することが発表されています。発表から90年以上が経過しても、新鮮な恐怖が味わえる作品といえるでしょう。
今回は5篇をご紹介しましたが、クトゥルフ神話の世界を感じ取れたでしょうか。気になった作品は、ぜひ実際に読んでみてください。
名状しがたき暗黒神話の世界へ、ようこそ!
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【第1回:前編】クトゥルフ様が めっちゃ雑に教えてくれる クトゥルフ神話用語辞典
有名すぎるクトゥルフ神話作品を1ページの漫画で読む「ダンウィッチの怪」※ネタバレ
参考文献
- 『ラヴクラフト全集 1~3、4、6』東京創元社
- 『クトゥルーの呼び声 新訳クトゥルー神話コレクション』星海社FICTIONS
- 『這い寄る混沌 新訳クトゥルー神話コレクション3』星海社FICTIONS
- 『未知なるカダスを夢に求めて 新訳クトゥルー神話コレクション4』星海社FICTIONS