執筆:共食いゾンビ(@MOGUMOGU_shark)
ゾンビ映画。これまで「ゾンビ」というテーマを主軸に、個性ある作品が数十作品、いや数百と出てきた。しっかり怖さを引き出した作品から笑いを含ませたコメディ、さらにゾンビと恋する恋愛ものまで、その勢いはもはや天井知らず。そして、それは現在進行形で続いている。
今では私たち映画を好む者、特にホラー好きには欠かせないジャンル、それがゾンビ映画だ。今年も人気ゾンビコメディ『ゾンビランド』(2009)の続編である『ゾンビランド ダブル・タップ』(2019)が公開されたばかり。
そこで今回は、ゾンビ映画の歴史、そして最も重要な登場人物であるゾンビの変化について語っていきたいと思う。
遡ること51 年前、ヴードゥー教によって死者が蘇る恐怖を描いたジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)が公開され、その10年後に続編となる『ゾンビ』(1978)が公開された。
この2 作品以前にもゾンビ映画は数多く公開されているが、「人の肉を喰う」「噛まれればゾンビ化」「頭を撃たなければ死なない」「ノロノロ歩く」等のゾンビにおける定義やいろは、様式美を確立させ、ゾンビの原型を作り出した火付け役にしてビッグウェーブを巻き起こした偉大なる生みの親は、この2 作品、と言っても過言ではないだろう。
ロメロ監督の影響を受け、ゾンビ映画は瞬く間に各国で製作された。と同時に、ゾンビの種類、生態から特徴まで個々のオリジナル要素が加わりゾンビはより面白く、よりパワフルに恐ろしい存在へと開拓されていった。
『サンゲリア』(1979)ではゾンビの腐った肉体を濃く映し出し臓物をぶち撒けることで、生ける屍の恐ろしさを一枚厚くさせた。スプラッター映画がブームとなった80 年代では、サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(1981)が公開され、なんと『死霊のえじき』(1985)には考えて行動することの出来る知能の発達したゾンビが現れた。
程良いコミカルさと勢いのあるスプラッター要素が加わったことで観客の支持を集めた『バタリアン』(1985)では、「〜リビング・デッド」へのオマージュを捧げつつ笑えるゾンビ映画を一気に確立させた。『ゾンビ・コップ』(1988)ではとうとうゾンビとバディを組み悪を討つというこれまでにない異色のゾンビ映画が作り出され、『ブレインデッド』(1992)では画面を埋め尽くさん限りの血糊を使い、人々をドン引きさせたことだろう。このようにしてゾンビ映画は、ゾンビにおける定義や様式美を大切にしながらも、独自の調味料を加えて進化を遂げていった。
そして時代は21世紀へと突入する。ゾンビブームの勢いは冷めるどころか増す一方で、ゾンビはさらに進化を遂げて厄介な存在へとバージョンアップされていく。
『28日後…』(2002)でゾンビはついにノロノロ歩くのをやめて走ることを知り、人間たちを逃げ場の無い恐怖へと追いやった。ゾンビたちに激しい動きが加わり人々を熱狂させた超大作『バイオハザード』(2002~2017)シリーズは記憶にまだ新しいと思う。この作品によって、再びゾンビ映画というジャンルが大きく世に広まったのではないだろうか。
エドガー・ライト監督の『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)は危機感皆無なコメディを披露し、なんだか賑やかで楽しそうな世紀末がこの作品からは見受けられ、笑えておつまみ程度に楽しめるB級ゾンビ映画を定着させてくれた作品だ。
『ゾンビーノ』(2006)では発想の転換により、なんとゾンビをペットとして扱う世界となり、そしてヒトラー率いるナチス軍団がゾンビとなって蘇る『処刑山 デッド・スノウ』(2009)を経て、ゾンビたちは武器を使って戦うことを覚えた。
今年続編が公開された『ゾンビランド』(2009)はこれまでに公開された数え切れないほどのゾンビ映画から学んだ「ゾンビから生き残る32のルール」を観客に教え、『ウォーム・ボディーズ』(2013)や『ゾンビ・ガール』(2014)でついにゾンビは愛と温かい心を取り戻した。これまで対峙していた人間とゾンビによる恋を描き、ホラーとは真逆に位置するラブストーリーを作り上げたのだ。
『ワールド・ウォー・Z』(2013)になるとゾンビたちはさらに疾走感が増し、何百ものゾンビが数の暴力で攻めて来るようになった。その数の暴力によって形成される巨大なゾンビ組体操が文字通り立ちはだかる壁となり、人間を絶望へと追い込んだ。
ゾンビの感染源はやがて人間から動物へと変化していく。『ゾンビーバー』(2014)ではゾンビとなったビーバーが人間を襲い、『ズーンビ』(2016)では動物園の動物たちがゾンビとなり人間たちの血肉を求め牙を剥いた。
先代が作り上げてきた遺産は私たちが住む日本や隣国の韓国まで広まり傑作を生みだした。『アイ・アム・ア・ヒーロー』(2016)と『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)だ。何でもない日常からパンデミックが起こるまでのスピード感や独自のストーリー、これまでに無かったゾンビの特徴は世界から注目を浴び、見るものを震撼させた。
今年の2019年にはまた新たな試みである、歌って踊りながら終末世界を生き残るゾンビミュージカル『アナと世界の終わり』(2019)が公開された。画面いっぱいに溢れる楽しさを伝えたこのゾンビミュージカルは革命だった。終末をミュージカルで、この楽天的で爽快ともとれる組み合わせは見事に成功。傑作だ。
今の時代、もはや人類に必要不可欠となったゾンビ映画。いつでも現実世界にゾンビが現れてもいいように、ゾンビから逃げ切るための適切な武器や行動などを真面目にまとめた対策本『ゾンビサバイバルガイド』(エンターブレイン)なるガチすぎる書籍まで登場し、映画(フィクション)は現実(リアル)をも侵食してきた。
お金の掛かったものから低予算のB級ものまで、私たちの成長と共に今もなお作られ愛され続けられるゾンビ映画。毎年「今年はどんなゾンビ映画が出るのかな」と楽しみさえ与え、公開された作品たちは私たちに恐怖、感動、笑いを届け、やがて思い出となっていく。これはゾンビの魅力と同時に映画というコンテンツの素晴らしさに繋がっているのではないだろうか。私たちの人生を盛り上げてくれるゾンビ映画の成長をこれからも見守っていきたいと思う。来年は一体どんな作品が出てくるのかな……
profile:共食いゾンビ
Twitterで8.9万ものフォロワーがいるゾンビ(?)。ホラー映画の情報中心に、映画についてコメントすることが多い。ブログ「共に食ってく?」にて記事を執筆中。
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