「サクラメント」ってご存じですか? 名前は聞いたことがあるけれど、具体的には何も思い浮かばないという方も多いのではないでしょうか。
サクラメントはキリスト教の儀式で、洗礼や結婚、懺悔など、私たちが「それなら知ってる!」というものも多く含まれています。今回は知っているようで知らないサクラメントについてお話しましょう。
目次
7種類のサクラメント
「サクラメント」(秘跡、聖礼典)はキリスト教の中で最も重要な儀式です。イエス・キリストが定めたものとされ、人生で重要な節目を迎える時に”神の恩寵を言葉としるしによって受ける儀式”です。
カトリックではサクラメントは7種類あるとされています。
*7種類の「サクラメント」とは*
①洗礼 ②堅信 ③聖餐 ④告解 ⑤叙品 ⑥婚姻 ⑦終油
一方、プロテスタントでは、サクラメントは洗礼と聖餐のふたつのみが認められています。
このように宗派によってもサクラメントの内容は少々異なっていますが、今回はカトリックのものを中心に、次項からはどんな内容なのか順番にご紹介しましょう。
7つのサクラメント①天国へのパスポート「洗礼」
欧米のニュースや映画などで、生まれたばかりの赤ちゃんが洗礼を受けているシーンを見たことはありませんか? 洗礼もサクラメントのひとつです。
「洗礼」は教会に入門するための儀式で、カトリックでは出生後1ヶ月以内に受けることが推奨されています。人は皆、生まれながらにして罪を背負っていますが(これを原罪といいます)、洗礼を受けることで原罪を贖い、天国へのパスポートを手に入れられると考えられているからです。もし洗礼を受けないまま亡くなってしまうと、魂が天国に行けなくなってしまうといわれています。
洗礼はイエスが洗礼者ヨハネから受けた洗礼の儀式を基にしています。12世紀頃までは全身を水に浸していましたが、現在では頭に少量の水を注いだり(注水といいます)、身体全体に水を振りかける(撒水といいます)のが一般的です。
また、洗礼の際には聖人暦や聖書から選ばれた洗礼名が与えられます。
7つのサクラメント②7歳頃に受ける「堅信」
「堅信」はキリスト者としての自覚を高めるための儀式で、13世紀以降、西欧では一般的に7歳で受けるものとされています。雰囲気としては、日本の七五三を思い浮かべればわかりやすいかもしれません。
堅信の儀式ではまず司祭が信徒の頭に手を置き、上智、聡明、賢慮、剛毅、知識、敬畏などの徳のために祈ります。その後、聖香油(香入りのオリーブ油)で額に十字を印し、「父の賜物である聖霊のしるしを受けなさい」と唱えます。
7つのサクラメント③「最後の晩餐」がもとの「聖餐」
「聖餐」は「聖体拝領」とも呼ばれ、洗礼と同様に重要な儀式とされています。「聖餐」とはイエス・キリストが逮捕される直前に使徒たちと行った”最後の晩餐”のことで、「聖体」とはイエス・キリストの肉と血を意味します。
最後の晩餐の席で、イエスはパンが自身の身体、ぶどう酒が自身の血、契約の血だと述べました。そこで聖餐の儀式では、イエスの肉(パン)を食べ、血(ぶどう酒)を飲むことで、すべての人々の罪を贖うために生け贄となったイエスを思い、自らの罪を再認識します。
聖餐の儀式では、まず信徒は祭壇にひざまずき手を合わせます。次に司祭が、聖杯のぶどう酒に浸してあるパンのかけらを信徒の口に含ませます。
信徒は毎日、それが無理な場合は毎日曜日にこの儀式を受けるよう勧められています。神に捧げられた生け贄を食べるという行為には、神と契約を交わすという意味があります。キリスト教では、人は繰り返し罪を犯す生き物とされているので、神に捧げられた生け贄を食べることで、神との契約も繰り返し行う必要があると考えられているのです。
7つのサクラメント④罪を告白する「告解」
映画などで、キリスト教徒が教会の司祭に懺悔しているシーンを見たことはありませんか? あの懺悔もサクラメントのひとつで、他に「告解」「回心」「改悛」「赦しの秘跡」などの名前で呼ばれています(ここでは告解と表記します)。
キリスト教徒たちは生まれてすぐに受ける洗礼で原罪を贖っていますが、告解はそれよりも後に犯した罪について許しを得るための秘跡です。罪とは「信徒の掟を破ること」で、たとえば初期教会の頃には、姦淫、呪い、酩酊、復讐心や党派心を持ってしまった時、偶像に供えられたものを食べた時、不信者の前で信徒間の訴訟を起こした場合などに告解が行われました。
告解の具体的な手順は次の通りです。
①告解を行いたい信徒はまず教会に行き、司祭に告解を行いたい旨を告げます。
②教会の側廊の左右に更衣室のような仕切られた場所(聴聞室)が並んでいますので、中に入ってひざまずきます。
③内部には小さな窓があります。その向こうに司祭がいますので、そちらに向かって罪を告白し、許しを求めます。
②教会の側廊の左右に更衣室のような仕切られた場所(聴聞室)が並んでいますので、中に入ってひざまずきます。
③内部には小さな窓があります。その向こうに司祭がいますので、そちらに向かって罪を告白し、許しを求めます。
司祭は告解で聞いた内容を他の者に漏らすことを禁じられています。そのため、誰にも言えない大きな秘密も安心して告白することができるのです。
7つのサクラメント⑤聖職者を任命する「叙品」
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カトリックでは、聖職者には「司教」「司祭」「助祭」という位階が設けられています。叙品は聖職者をこれらの位階に任命することです。
聖職者たちはミサを行いこの秘跡を受けることで、聖職者としての権能を授かり、務めを果たすための恩寵を与えられます。叙品は地区ごとに行われており、信徒以外でもニュースなどで日程を知ることができます。
7つのサクラメント⑥司祭が結婚を祝福する「婚姻」
カトリックでは、「婚姻」、いわゆる結婚もまたサクラメントのひとつとされています。この秘跡は、カトリックの信徒同士が結婚契約する時に男女相互に授けられます。
結婚には教会を代表して司祭が立ち会い、公に承認し、ふたりに祝福を授けます。
カトリックでは、『マタイによる福音書』の中でイエスが述べた言葉をもとに、一夫一婦制を採っています。また一度結婚したら生涯にわたって離婚は認められていません。
7つのサクラメント⑦「終油」
キリスト(Christos)という言葉には”油を注がれた者”という意味があります。古代から油を注ぐ・塗るという行為には”聖別””浄化”といった意味がありました。
イエスは信仰による祈りで多くの者の病気を癒したといいます。そのことから、病者に油を塗ることがサクラメントのひとつとなりました。これを「終油」「病者の塗油」などと呼びます。
現在では、終油は亡くなる間際の信徒に対して行われることが多いといいます。儀式の中では聖書を朗読し、祈りを捧げる他、次のような方法で塗油が行われます。
①司祭は聖油で信徒の目、耳、鼻、手足に十字をしるし、「この聖なる塗油と慈悲により、主が汝の犯したる罪を許したまわんことを」と唱えます。
②信徒は今までに犯してしまった全ての罪を告白し、神のもとへ向かう準備をします。
②信徒は今までに犯してしまった全ての罪を告白し、神のもとへ向かう準備をします。
この秘跡を授かることで、最後の審判で復活することができると考えられているのです。
知っているようであまり詳しく知らない人も多い「サクラメント」。欧米の文化を知りたい時は、こうしたキリスト教関連の知識も身に付けておくと理解が深まりそうですね。
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