カンパリ、カルーア、オレンジ・キュラソー、コアントロー……カクテルの素材としてよく使われるリキュール類は、お酒が好きな方ならきっと1度は飲んだことがあるのではないでしょうか。
このリキュール、昔は「不死の霊薬エリクシール」(エリクサー)などと呼ばれていたことはご存じですか? そう、RPGゲームなどに登場するあの”エリクサー”です。
今回はそんなリキュールにまつわるエピソードをご紹介しましょう。
目次
黒死病に効く?! リキュールの原型「リケファケレ」
リキュールはスピリッツにハーブ(薬草)やフルーツ、ナッツ、卵などや糖分を加えて造られます。
酒に薬草を混ぜて飲むことは古代ギリシアの時代からすでに行われていました。医聖ヒポクラテスは医療用の薬草をワインに混ぜて患者に飲ませていたといいます。
リキュールが現在のような姿に近づいたのは、12~13世紀初頭のことです。ローマ教皇の侍医を務めていたスペイン人のアルノー・ド・ヴィルヌーヴとその弟子ラモン・ルルは、スピリッツにレモン、ローズ、オレンジの花とスパイス類を加えた薬酒を造り、「リケファケレ」(溶け込んだ液体)と名付けました。これが現在のリキュールの原型だといわれています(異説あり)。
その後、ヨーロッパ全土で黒死病(ペスト)が猛威を振るうと、リキュールやスピリッツは黒死病に効果があると信じられ、多くの修道院で製造されるようになりました(当時の修道院は医療やワイン醸造も担っていました)。リケファケレも患者の苦しみを和らげる効果があるとされ、盛んに造られます。こうして、リキュールはヨーロッパ各地で愛飲されるようになったのです。
不死の霊薬?! フランスのリキュール「エリクシール」
中世ヨーロッパでのリキュールのエピソードをもうひとつご紹介しましょう。
中世ヨーロッパの修道院ではリケファケレ以外にも、蒸留酒に薬草を漬け込み独自のリキュール開発が行われていました。リキュールは強壮剤として珍重され、「不死の霊薬エリクシール」(エリクサー)などと呼ばれるようになります。
フランス王アンリ4世(1553年~1610年)はイタリアからこのエリクシールのレシピを入手します。ところがその内容は130種類もの薬草をグレープ・スピリッツとともに蒸溜し、さらに数年間も熟成させるというもので、当時のパリでは製造不可能な代物でした。
しかしこのレシピが宮廷人を通してグルノーブルのシャルトリューズ修道院に伝わると、1764年、修道士ジェローム・モーベックの手によってついに製造に成功します。こうして誕生したリキュールは、現在でもフランスを代表するハーブ・リキュールのひとつ「シャルトリューズ」の原型となりました。
ちなみに、初期のオリジナル・レシピに従って造られたシャルトリューズ「エリクシール」は現在でも楽しむことができます。71度のアルコールを使用しており、直接飲むには強すぎるため角砂糖に1~2適たらしてかじるのですが、薬草の強い香りが刺激的なリキュールです。
悲鳴がする? スペインのリキュール「マンドラゴラ」
ファンタジー世界に登場してもおかしくなさそうなリキュールがあります。スペイン・ナバーラ地方で飲まれている「マンドラゴラ」です。
マンドラゴラ(マンドレイク)といえば、ファンタジー好きの方は伝説上の恐ろしい植物を想像するのではないでしょうか。根っこが人間のような形をしていて、引き抜こうとすると耳をつんざくような悲鳴をあげるので、その声を聞いた者は死んでしまうなどといわれている植物です。
このマンドラゴラ、地中海から中国西部にかけて実在している植物でもあります。ナス科の植物で、伝説のように悲鳴をあげることはありませんが、根っこにアルカロイド成分が含まれているため取り扱いに気を付けなくてはいけません。
リキュールの「マンドラゴラ」は、このマンドラゴラなど多数の薬草を、砂糖大根の糖分がベースのお酒に漬け込んだものです。機会があれば一度飲んでみるのも面白そうですね。
実はリキュールも販売! ゴディバの社名の由来とは
最後に、有名メーカーとリキュールの意外なつながりについてお話しましょう。
チョコレートで有名なゴディバがリキュールも出していることはご存じですか?
1926年にベルギーで創業した老舗チョコレートメーカー「ゴディバ」ですが、実は「ゴディバ・チョコレート・リキュール」というリキュールも販売しています。厳選されたカカオを原料に造られ、チョコレートの濃厚な味わいを楽しめるお酒です。50mlのミニボトルもありますので、お酒は得意でないという方や少しだけ試してみたいという方にもぴったりですね。
ちなみに、ゴディバ社の社名はイギリスに住んでいたひとりの女性の名前が由来です。
11世紀、イギリスのコベントリーでは領主レオフリック伯爵の課す重税に人々が苦しんでいました。領主の妻ゴディバは税を軽くするよう夫に進言しますが、聞き入れてもらえません。それどころか伯爵は、「おまえが一糸まとわぬ姿で町中を歩くなら、税を軽くしてもよい」などと言う始末です。
当時のイギリスでは、高貴な女性にとって家族以外の者に肌を見せるなどもっての外であり、死にたくなるほど恥ずかしい行為とされていました。ゴディバは悩みますが、聖霊降臨祭の次の金曜日に裸になり、白馬に乗って町を回ることを決意します。これを聞いた住民たちは心を打たれ、当日は窓を閉ざして彼女の裸を見ないようにしました。
ゴディバ社の創業者はこの逸話に心を打たれ、社名に彼女の名前を冠したのです。
リキュールにまつわるエピソードあれこれをご紹介しました。お酒を飲む時にはこうしたエピソードもひとつの肴になりそうですね。
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