コース料理を食べている時、「アントルメ」といって、口直しのシャーベットや、甘い菓子や果物などの食後のデザートが出てくることがあります。このアントルメ、実は中世ヨーロッパでは現代とは違い、ミニチュアの城やイノシシの頭といった一風変わった演し物料理のことを意味していました。
そこで今回は、一風変わった中世ヨーロッパのアントルメについてご紹介します。
目次
14世紀~初期のアントルメは軽めの追加料理
ヨーロッパの宮廷でアントルメが供されるようになったのは14世紀頃からです。その後、アントルメは時代とともに少しずつ内容を変えていきました。どんな内容だったのか、具体的なメニューとともにご紹介しましょう。
まずご紹介するのは、14世紀頃からの初期のアントルメです。
【特徴】
- 上座にいる者だけに出される追加料理。
- 肉料理の合間に出される軽いメニューだった。
【メニュー例】
・色や香りを付けた小麦
・豆粥
・ゆでた臓物
・煮こごり
・色や香りを付けた小麦
・豆粥
・ゆでた臓物
・煮こごり
中世初期の頃は、館の領主も使用人も皆同じメニューを食べていました。しかし次第に身分の高い者だけが追加料理を食べるようになります。アントルメとはこの追加料理のことで、肉料理の合間に供される軽いメニューを意味していました。
変化したアントルメ①見世物・縁起物
アントルメはそれ程時を経ずに、少しずつ違った内容へと姿を変えていきます。
【特徴】
- 客を喜ばせるための余興・縁起物。
- 見て楽しむための料理で、目立つ場所に置かれた。
【メニュー例】
・イノシシの頭
・孔雀、鶴、白鳥の丸焼き(金箔や紅白の飾り付き)
・イノシシの頭
・孔雀、鶴、白鳥の丸焼き(金箔や紅白の飾り付き)
アントルメは身分が高い者のための追加料理から、客を喜ばせるための見世物・縁起物へと内容を変えます。もはや食べられるものではなく、見て楽しむための料理で、貴賓席から少し離れた目立つ場所に置かれました。
アントルメとしてよく出されたのが孔雀料理です。孔雀は不死の象徴とされ、17世紀まで王侯貴族たちの食卓に出され続けました。ガチョウに孔雀の羽や皮を移植して孔雀料理に見せかけることもあったといいます。
*孔雀料理の作り方*
①孔雀の皮を剥ぎ、ローストして中に挽き肉や小鳥の肉を詰める。
②串や針金を使ってポーズを取らせ、翼を広げさせる。
③頭や脚は取っておき、後で肉に付ける。
④クチバシや脚に金粉を塗ったら完成!
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変化したアントルメ②もはやアトラクション
時代が下るにつれ、アントルメはどんどん大がかりな見世物へと変化していきました。アントルメはもはや料理ではなく、部品に食材を使ったアトラクションとなったのです。
【特徴】
- さらに大がかりな見世物となる。料理ではなく、部品に食材を使ったアトラクション。
- 富や権力を見せつけたり、政治的な効果を得るために使われた。
【メニュー例】
・城のミニチュア
・船に乗った騎士の像
・ワインが噴き出す噴水
・生きた鳥を詰めた硬いパイ生地の鍋
・城のミニチュア
・船に乗った騎士の像
・ワインが噴き出す噴水
・生きた鳥を詰めた硬いパイ生地の鍋
こうした大がかりな見世物のアントルメは、富や権力を誇示するためや、政治的な効果を狙うための道具、名家の結婚式の演し物などとして使われました。たとえばブルゴーニュ宮廷で提供されたアントルメは、十字軍の参加者を集めるために作られています。
インスタ映えしそう?! 豪華で変わったアントルメ
アントルメとして供された具体的なメニューをさらにご紹介しましょう。
・ローストされた豚の上に、同じくローストされた鶏をまたがらせる。
・ロースト鶏には詰め物をし、紙製のヘルメットを被らせ、槍を持たせて金銀、白、赤、緑色で彩る。
このアントルメは、ローストした鶏を金銀などさまざまな色に塗り、ヘルメットを被せて槍を持たせるという演し物です。実際に食べられたかどうかは分かっていません。
・1本の円柱に5つの吹き出し口を設け、5種類のワインが噴水のように飛び出る。
続いてご紹介するのは1343年、フランスのアヴィニョン郊外に時の法皇クレメンス6世が招かれた時に供されたアントルメです。噴水を模した円柱から5種類のワインが噴き出るようになっていました。
・船の模型の上に、白鳥を抱いた騎士が乗っている。
・模型には人が入っており、船を動かすことも可能。
・白鳥や騎士、船は羊皮紙、羽毛、動物の毛、木材などでできていた。
こちらは1453年に貴族の婚礼の席で出されたアントルメです。白鳥を抱いた騎士が船の上に乗っているという仕掛けですが、材料は羊皮紙や毛、木材などで、もはや食べられるアントルメではありませんでした。
・4つの塔を持つ巨大な城の模型。神輿のように担ぐことができる。
・城の中央には「愛の泉」があり、ローズウォーターとワインが噴き出している。
・城の台座には調理済の孔雀や白鳥、ドラゴンの模型などがある。火を噴く仕掛け付き。
・動物を模した挽き肉料理、カワカマス、ケーキなど食べられるものもあった。
・塔は灰色の布製で、中には明かりが灯り、武装兵の模型が置かれている。
最後にご紹介するのは15世紀末、ドイツのヒルデスハイム市長の宴会で披露されたアントルメです。
巨大な城の模型で、台座には垂れ幕がかけられており、中に4人の人が入って担ぐことができます。台座部分には数人の子どもも隠れていて、笛やハープを奏でたり歌ったりしていました。
城の中央にはワインが噴き出す「愛の泉」や、ローストした後に皮を被せて生きているように見せかけた孔雀や白鳥、樟脳(しょうのう)を使い火を噴く仕掛けのドラゴンの模型などが置かれています。さらに、大きなカワカマス、挽き肉料理、ケーキなど、食べられる料理も並んでいました。
ちょっとした追加料理から巨大なアトラクションへと姿を変えたアントルメ。現代人なら写真に撮ってSNSにアップしたくなるかもしれません。当時の人々がどんな反応をしたのか想像してしまいます。
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