猫や鼠、蛇、牛、狐。身近で親しみやすい動物たちの中には、神様として崇められ、伝説上の中国皇帝になったものもいます。今回は中国の動物の神様をご紹介しましょう。
目次
中国に伝わる動物の神①猫将軍
最初にご紹介するのは、知恵があって神秘的、それでいて身近な存在の「猫」にまつわる神様です。
*「猫将軍」*
・安南(ベトナム)に祀られていた、予言が得意な神様。
・頭は猫、身体は人間の姿をしている。
・元は毛(mao)尚書という将軍が祀られていたが、いつの間にか発音が同じ猫(mao)になってしまった。
猫将軍は14~15世紀頃の安南(ベトナムのこと。当時は中国の領地でした)の廟に祀られていたという、人間の身体に猫の頭を持つ神様です。
元々この廟には毛尚書という名前の将軍が祀られていました。それがどうして猫将軍に代わったかというと、毛将軍の「毛(mao)」の発音が「猫(mao)」と同じため、地元の人々が間違えて祀ってしまったというのです。
何はともあれ、猫将軍は予言が得意な神様として信仰されるようなりました。人々は何か悩み事ができると、猫将軍のお告げを頼りにしたということです。
面白いことに、同様の理由で猫がご神体になってしまった廟が他にもあります。天津の造船所にある廟では、古い錨がたくさん奉納されており、「錨(mao)」と「猫(mao)」の発音が同じこと、また古い錨には霊的な力が宿るという伝説があることから、いつしか”猫鉄将軍”として祀られるようになりました。
中国に伝わる動物の神②五家之神
続いては一気に5種類の神様をご紹介しましょう。
*「五家之神」*
・天津など中国北部で信仰されていた5種類の動物(狐、いたち、針鼠、蛇、鼠)。
・大切に崇めると福財をもたらすが、粗末に扱うと禍いをなす。
天津を中心に、中国の北部では狐、いたち、針鼠、蛇、鼠の5種類の動物を神として大切に扱ってきました。これらの動物は大切に信仰すれば福財をもたらしますが、粗末に扱うと恐ろしい禍いを呼ぶと信じられています。そのため人々は五家之神の名前をそのまま呼ぶことをはばかり、次のような別名で呼ぶことにしました。
・狐=胡仙
・いたち=黄仙
・針鼠=白仙
・蛇=柳仙
・鼠=灰仙
中国の動物の神「五家之家」の伝説
『捜神記』の中から、五家之神にまつわるエピソードをご紹介しましょう。
安徽省の夏候藻(かこうそう)という男は、母親が重い病気になったので、山東省に住む学者の淳于智(じゅんうち)を訪ね、占ってもらうことにしました。淳于智は占いの権威でもあり、ひろく人々の相談に乗ることで知られていたのです。
さて夏候藻が家を出ると、1匹の狐が現れて彼の家に向かって鳴きました。驚いてこのことを淳于智に話すと、智はこう言います。
「すぐに家に帰りなさい。狐が鳴いていた場所に行き、自分の胸を叩きながら泣くのです。そうすれば家の者は皆驚いて出てくるでしょう。女中や下男も含め全員が家から出られれば、禍いを回避できますよ」
藻は村へ帰ると、言われた通りに胸を叩いて泣きました。病気の母親を含め、家族全員が何事かと驚き、家を出て彼の様子を見に来ます。するとその途端に、彼の屋敷は突然崩れてしまいました。
あの時鳴いていた狐はこの禍いを予知して鳴いたのであり、淳于智はそのサインを理解して夏候藻に伝えたというわけです。
四川省でひとり暮らしをしている老婆の家に、頭に角がある蛇が度々現れるようになります。老婆は貧しい暮らしをしていましたが、この蛇を哀れに思い、食事を分け与えます。蛇は成長し、胴まわりが数メートルもある大蛇になりました。
ところがある日、この大蛇は知事の大切な馬を食べてしまいます。怒った知事は老婆に蛇を差し出すよう命じました。老婆は仕方なくベッドの下に蛇がいることを話しますが、知事がいくらベッドの下を掘っても蛇は出てきません。知事はさらに怒り、老婆を殺してしまいました。
蛇は怒り狂い、人間に乗り移ると「彼女は私の母親だ。母の敵を討ってやるから覚悟しろ」と知事を怒鳴りつけます。
それからしばらくの間、町では夜になると雷や風の音が聞こえるようになりました。そうして40日程が経ったある晩、町は陥没して湖の下に沈んでしまいます。しかし老婆の家だけは沈まず、湖に風が出て波が荒れた時でもこの家の周囲だけは安泰だったため、いつしか漁師たちが漁の時に泊まる場所となりました。
水が澄んだ日には、湖の底に今でも町並みが見えるということです。
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中国に伝わる動物の神③神農
最後にご紹介するのは牛の頭をした神様ですが、なんと伝説上では中国の皇帝だったとされています。
*「神農」*
・神話時代の中国の皇帝で、農業と医薬の神様。
・首から上は牛、身体は人間の姿をしている。
・365種類の薬を発明し、400種類以上の病気の治療を可能にした。
→その成果は『神農本草』にまとめられ、中国医学の起源となった。
「神農」は中国神話に登場する伝説の皇帝で、頭は牛、身体は人間の姿をしています。身長が3m程の大男で、生まれて3日目に言葉を覚え、5日目に歩き、7日目には歯が生えたという逸話の持ち主です。
神農は人々に農耕を教えた農業の神様であり、さまざまな薬を発明した医薬の神でもあります。あらゆる草木を自ら舐めて効果を確かめ、毒草を組み合わせて365種類の薬を発明し、400種類以上もの病気の治療を可能にしました。その成果は『神農本草』という書物にまとめられましたが、残念ながら現存していません。
『神農本草』はその後、科学者の陶弘景(456~536年)に引き継がれて『神農本草経』にまとめられ、中国医学の起源となりました。中国医学はその後発展し続け、明代の書物『本草綱目』では1,892種類の薬物が分類され、61,739通りもの処方箋が記されるまでになります。
神農の人気は高く、かつて中国の漢方薬局では神農の絵が掲げられていた程でした。
身近な存在であり、親しみやすい動物の神様たち。猫や鼠を見たら「もし神様だったら……」と想像してみるのも楽しそうですね。
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◉参考書籍
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著者:真野 隆也
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