RPGなどのモチーフとしてよく使われ、人気のある北欧神話。北欧神話を信仰していた人々はどんな暮らしを送っていたのでしょう?
今回は神話がひろく信仰されていた頃の北欧の習俗について、争いの調停方法や結婚、埋葬文化などをご紹介します。
目次
北欧神話が信仰されていた頃の時代と習俗とは?
*「異教時代」の北欧ってどんな時代?*
・時期:~紀元後1000年頃まで。・場所:デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、グリーンランド(植民地)
・特徴:キリスト教が浸透する前の時代であり、北欧神話の神々が信仰されていた。
決して野蛮ではなく、高度な政治・経済システムを持っていた。
「異教時代」とは、紀元後1000年頃、北欧にキリスト教が広まるまでの時代をいいます。といっても北欧の中でも少し違いがあり、たとえばデンマークなどでは1100年頃まで異教時代が続いていました。
意外かもしれませんが、北欧神話は実は北欧全体で信仰されていたわけではありません。北欧神話の神々を信仰していたのは主にデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドなどゲルマン系の人々で、アジア系の文化圏に属していたフィンランドでは別の神々が信じられていました。
異教時代の北欧の習俗①「血誓兄弟」とその儀式
では、当時の北欧はどんな社会だったのでしょう? ここからは具体的に、異教時代の北欧の習俗をご紹介しましょう。
異教時代の北欧では、人と人との結び付きが非常に重視されていました。家族はもちろんのこと、男性たちの間では、実際の家族かそれ以上に強い絆で結ばれる「血誓兄弟」という関係が大切にされています。
*「血誓兄弟」になるとどうなるの?*
・本当の家族のように強い絆で結ばれ、互いに援助し合う。・血誓兄弟の誰かが侮辱されたり殺されたりしたら、復讐を果たす。
血誓兄弟になった者たちは、何か困ったことがあると家族同様に助け合います。誰かが侮辱されたり殺害されたりすると、復讐を行うことすらありました。
血誓兄弟になるためには、「フォーストブレーズララグ」という儀式を行います。
*血誓兄弟の儀式*
①芝土を半円形に切り取ったもの2つをアーチ状に組み、穂先に波模様のある槍をその中央に据える。
②儀式を行うメンバーはアーチの下に入る。
③互いの体を傷つけ、流れ出た血を地面の上で混ぜ合わせる。
④神々に宣誓する。
⑤固めの握手をして儀式終了!
血誓兄弟の儀式には血が欠かせません。『ギースリのサガ』には上記のような、アーチの下で互いの体を傷つけ、流れ出た血を地面の上で混ぜ合わせて神に宣誓するという方法が記されています。
この他、互いの手を動物の血に浸したり、互いの血を啜るといった方法も行われていました。
異教時代の北欧の習俗②紛争解決の3つの方法
異教時代の北欧には「民会」と呼ばれる集会や、そこで制定された法律、一種の慣習法のような法律があり、人々の生活を保護していました。
しかしそれでも様々な紛争が持ち上がることがあります。そんな時、人々は次のような方法で解決を図っていました。
……最も穏便な手段。第三者の仲介の下、互いに納得した形で賠償を行う。
○良い点:名誉を汚さずに済む。血も流れない。
×悪い点:相手が納得しなければ成立しない。
……相手を殺害する。当時の人々に好まれていた。
○良い点:名誉ある解決方法だと考えられていた。
×悪い点:復讐に次ぐ復讐で一族郎党が全滅する可能性がある。
……当時一般的だった解決方法。
○良い点:ルールに則り解決できる。復讐に次ぐ復讐で一族郎党が全滅することもない。
×悪い点:勝利のためには人脈と話術、事前の根回しが必要。
異教時代の北欧では、血の復讐が名誉ある方法として好まれましたが、実際には民会に告訴するという方法がよく用いられていました。
「民会」は武装した自由民の成人男子たちが開く集会で、ここで行われる裁判に勝つためには、民会の出席者への事前の根回しや、自分に正当性があることを認めてもらうための話術が欠かせません。
民会での裁判に負けた者には、賠償金の支払いや追放刑といった処罰が行われました。莫大な賠償金を請求され、一族もろとも破産する者もいたといいます。
追放刑になった者は「森の人」「狼」などと呼ばれて蔑まれ、財産を没収され、あらゆる社会的保護を失いました。追放者を攻撃することも認められていたため、生き残ることは難しかったといわれています。
異教時代の北欧の習俗③基本は政略結婚だった
北欧社会での結婚は政治的な側面が強く、恋愛感情よりも、出身身分や地位、財力、名声などがつり合うことが重要視されていました。
*異教時代の北欧で結婚する理由とは?*
・政治力を増すため。
・財力を増すため。
・血族間の絆を強めるため。
・血族間の争いの調停のため。
結婚相手が決まると、証人の立ち会いの下、男性・女性双方から金銭などの条件提示が行われます。
・女性側:結婚生活中2人の共有財産となる持参金(ヘイマンフルギャ)を提示する。
・男性側:女性が提示した持参金に見合うだけの贈与金を花嫁に支払う。
さらに、彼女が寡婦になった時のために生活保障金(ムンド)も提示する。
こうした条件確認が全て終わると、1~3年の待機期間の後に、花婿の家の居間で3日間にわたり婚礼の宴ブルーズヴェイスラが行われました。
宴が終わると花嫁は晴れて主婦フースフレイアとなります。法的な権限はありませんが、家庭内の地位は絶大で、亡くなるまで尊敬され続けました。
異教時代の北欧の習俗④船も使った埋葬
最後に、当時の弔いの方法もご紹介しましょう。
異教時代、人々は亡くなると次のような手順で弔われました。
*埋葬までの手順*
①死者の後ろから近づき、布などで視線を封じる(死者の視線は有害だと考えられていた)。
②死者の首、手を洗い、髪をとかし、爪を切る。
③靴を履かせ、金貨などを持たせる。
④藁の上に安置し、通夜を行う。
⑤死者が戻って来られないよう、通常とは違う出入り口から遺体を運び出す。
こうして運び出された遺体は埋葬されますが、主に次のような3つの方法がありました。これらの方法は人間だけでなく、北欧神話の中で神々が亡くなった際にも用いられています。
・地域:スウェーデン、ノルウェーなど
・神話:主神オーディン、ニョルズ、竜殺しのシグルズ
・焼かれた死者が天に召されるという信仰に基づく埋葬方法。火葬後の灰は海に撒いたり、壺に収めて墓に埋めたりした。
・地域:デンマーク、アイスランド
・神話:フレイ
・副葬品を納めた塚に埋葬する。塚の中の死者は生き続けるとされ、塚の持ち主が誰かわからなくなると、妖精として扱われるようになった。
・地域:スウェーデン、ノルウェー
・神話:バルドル
・船ごと海上で焼く、または船ごと地中に埋める、というふたつの方法があった。初期は本物の船を使っていたが、やがて船をかたどった石組みを使うようになった。
いずれの方法でも、亡くなった者は丁寧に埋葬されています。しかし、犯罪者や仇敵など関わりたくない相手の場合は別です。彼らは石積みの下に隠され、放置されてしまいました。
今から1000年以上も昔の人々の暮らしぶりは想像通りでしたでしょうか? 当時と現代とでは価値観が異なる部分もありますが、仲間との友情や大切な人への想いなど、変わらない部分も多そうです。時代や場所を越えて普遍的な価値観というものもあるのかもしれません。
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