天界の美しい天使ルシファー(ルシフェル)が堕天使となり、悪魔サタンと呼ばれるようになったという話を聞いたことはありませんか?
ダンテの名作『神曲』には、この地獄の悪魔サタンも登場しますが、その姿は私たちの想像の斜め上をいく強烈なものです。
そこで今回は『神曲』に登場する悪魔サタンの姿をご紹介しましょう。
目次
地獄、煉獄、天国を旅する話! ダンテの『神曲』あらすじ
『神曲』という名前は有名ですが、実際に読んだことがあるという方は多くはないのではないでしょうか。どんな作品なのか、まずは簡単にあらすじをご紹介しましょう(注意:結末のネタバレも含みます)。
*2行でわかる! ダンテの『神曲』あらすじ*
①主人公は作者でもあるダンテ。
②地獄、煉獄、天国を旅してまわり、最後に神の愛を見る。
『神曲』のあらすじはとても簡単。作者でもある主人公のダンテが、地獄・煉獄・天国を旅するという内容です。
とはいえこれだけでは簡潔すぎますので、地獄・煉獄・天国がどんな場所かも含め、もう少し詳しくご紹介しましょう。
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ユリウス暦1300年の聖金曜日(復活祭前の金曜日)、主人公のダンテは暗闇に包まれた森の中へ迷い込み、脱出不能のピンチに陥ってしまいます。そこへ永遠の淑女ベアトリーチェらの導きで古代ローマの詩人ウェルギリウスが助けに現れ、彼を道案内してくれることになりました。ダンテが迷い込んだ暗闇の森は、実は地獄の一部だったのです。
こうしてダンテはウェルギリウスとともに地獄、煉獄、天国を巡る旅に出ます。
地獄はロート状の深い谷になっていて、その最深部は地球の中心にまで達しています。ダンテはこの最深部で醜い悪魔サタンの恐ろしい姿を見ました。
何とか地獄を脱した後、ふたりは煉獄を旅します。煉獄は山になっていて、死者たちはここで罪を清めることができれば天国に行けるとされていました。ダンテが山を登っていくと、彼の抱えていた7つの大罪もひとつずつ浄化されていきました。
煉獄山の山頂で、ダンテはベアトリーチェと再会します。ウェルギリウスと別れた彼は、ベアトリーチェに導かれ天国を昇っていきました。
天国は10層構造になっており、ダンテはここで聖者たちの魂とふれ合ったり口頭試問を受けたりしつつ、第10層まで到達します。そこで彼は、この世を動かすものが神の愛であると知ったのでした。こうしてダンテの長い長い旅は終わりを迎えたのです。
『神曲』に登場する地獄の悪魔サタンとは?
『神曲』は文学作品として優れているだけでなく、悪魔史の中でも重要な位置を占める作品です。ギリシア神話の怪物をもとにした悪魔や独特な悪魔など、数多くの悪魔が登場しているのです。
ここでは地獄篇に登場する悪魔の中から、恐るべき地獄の皇帝サタンをご紹介しましょう。
*恐るべき地獄の皇帝サタン*
・もとの姿は天界で最も美しい天使ルシファー。高慢すぎて天界を追放され、醜い悪魔サタンとなって地球に落ちてきた。
・地球の裂け目の最深部(=地獄の最下層)にある氷の世界ジュデッカで、腰まで地中に埋まっている。
・毛むくじゃらの身体で頭は3つあり、3つの口それぞれにひとりずつ罪人をくわえている。
・コウモリのような翼が6枚あり、風であたりを凍りつかせる。
サタンは恐ろしい悪魔として知られていますが、実はもとの姿は天界で最も美しい天使ルシファーでした。あまりに高慢な態度を取りすぎたため天界を追放され、醜い悪魔サタンとなって地球に落ちてきたのです。
サタンが落ちてきた時、地球はサタンに触れるのを嫌い身をよじりました。しかし、この時できた地球の裂け目にサタンは刺さってしまいます。
この巨大な裂け目は9層の地獄になっていて、サタンが刺さっているのはそのうちの最深部にあり、最悪の罪人が落ちるという「反逆地獄」です。サタンはこの地獄の真ん中にある氷の世界ジュデッカに腰まで埋まり、上半身を地上に突き出しています。
サタンの身体は毛むくじゃらで、背中にはコウモリの翼が6枚生えており、この翼がつくる風であたりを凍りつかせることができます。赤ら顔をした頭が3つあり、それぞれの口に罪人をくわえています。キリストを裏切ったイスカリオテのユダと、カエサルを裏切ったブルートゥス、カッシウスです。
『神曲』にも影響を与えた タンデールの悪魔ルシファー
ダンテはどうやってこの強烈な悪魔サタンを思いついたのでしょう? 実は、12世紀に書かれた傑作『タンデールの幻』の影響を受けたのではないかといわれています。
『タンデールの幻』は1149年にアイルランドの僧によって書かれた物語です。罪人として処刑された騎士タンデールが死にかけた時、守護天使が現れ、彼の魂を地獄と天国を巡る旅へと誘うというストーリーです。
この物語には何体もの悪魔の姿が描かれています。中でも魔王ルシファーの姿が、ダンテの『神曲』に大きな影響を与えました。
*『タンデールの幻』に登場する魔王ルシファー*
・人間のような身体をしているが、真っ黒で巨大。長くて鋭い釘の生えた尾を持つ。
・腕は何千本もあり、1本の長さは100キュビト(約45m)、太さは10キュビト(約4.5m)。
・手にはそれぞれ20本の指があり、1本の長さは100バーム(約7.5m)、幅は10バーム(約0.75m)。
・手足の爪は騎士の槍より長い。
・長くて厚いクチバシがあり、亡者の霊魂を吐き出したり吸い込んだりする。口の中では硫黄が燃えている。
魔王ルシファーは巨大な人間に似た姿をしていますが、腕は何千本もあり、さらにひとつひとつの手には指が20本も生えています。口の中では硫黄が燃え、亡者の霊魂を吸ったり吐いたりしていました。長い尾には釘が生え、亡者の霊魂を傷つけています。
この魔王は鉄と青銅の鎖で手足を縛られ、燃える石炭の上の格子に寝かされ焼かれています。周りではデーモンたちがふいごで風を送っていました。
この悪魔の姿はダンテ以外にも多くの者に刺激を与え、その後のルシファー像のパターンのひとつとなったのです。
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