「フリーメイソンリー」という団体をご存じですか? 名前は知っているけれど、どんな組織なのかは知らないという方も多いのではないでしょうか。秘密組織であり、何やら怪しげな儀式を執り行っていたという噂もありますが、本当でしょうか?
今回はフリーメイソンリーがどんな団体なのか、その謎に迫ります!
目次
フリーメイソンリーってどんな団体?
フリーメイソンリーという名前はご存じでも、どんな組織なのかは詳しくないという方も多いのではないでしょうか。まずはどんな団体なのか、概略をお話しましょう。
*「フリーメイソンリー」とは?*
・経済的に余裕のある人々の親睦団体。・「フリーメイソンリー」=団体としてのフリーメイソン、「フリーメイソン」=その会員のこと。
・基本理念は「相互扶助」「平等」「博愛」、それらにより生じた「寛容」の精神など。
「フリーメイソンリー」は、経済的に余裕のある人々の親睦団体で、先進国では慈善活動などを行う団体として知られています。世界各国や地方毎にグランド・ロッジ(ロッジ=支部)があり、ロッジによって多少異なりますが、「相互扶助」「平等」「博愛」や「寛容」の精神などを基本理念としています。
現在は親睦団体ですが、元々「フリーメイソンリー」とは「自営(free)の石工ギルド(masonry)」のことでした。その始祖は『旧約聖書』に登場するソロモン神殿建設者のヒラムだとされています。
中世ヨーロッパの時代、石工ギルドは大規模な工事を行う際に現代のゼネコンのような役割を果たしていました。工事を請け負い、作業分担や賃金を決め、採石職人や一膳飯屋といった関連業者を手配したり、話し合いの取りまとめを行ったりしていたのです。
926年にはイングランドのヨークで石工職人たちが会合を開いており、フリーメイソンリーはここから誕生したと考える人もいます。フリーメイソンリーは元々、実務的な要素の強い石工ギルドのことだったのです。
フリーメイソンリーは破門されたことがある?
中世の時代に石工ギルドだったフリーメイソンリーですが、どうして現代では親睦団体になったのでしょう? ここからはフリーメイソンリーの歴史をご紹介します。
中世ヨーロッパで石工ギルドだったフリーメイソンリーですが、18世紀になると大きく意味合いを変えることとなります。
当時のイギリスでは、ロンドンを中心にコーヒーハウスやクラブに文化人や知識人、趣味人、話好きな人々などが集まり、政治経済から哲学、数学、化学、芸術まで幅広い議論を行っていました。フリーメイソンリーは石工ギルド時代の実務的な要素を失い、こうした人々のサロンのような団体となります。1717年にはロンドンの4つの団体が統合され、グランド・ロッジが設立されました。
その後フランスやドイツにもロッジ(支部)が設立されると、「薔薇十字団」の関連団体(を名乗る錬金術団体)のメンバーがフリーメイソンリーに加入するようになります。彼らは神秘思想に基づいた非公開の儀式を頻繁に行うようになりました。
ところがカトリック教会はこれを胡散臭いものとして、異端であると判断します。こうして1738年、教皇クレメンス12世によって「フリーメイソン破門回勅」が公布されました。しかしカトリック教徒の間でもすでにフリーメイソンリーの会員は増えていたため、この回勅は無視されることとなります。
ともあれ、フリーメイソンリーはこのような歴史から、石工ギルド時代の実務的組織ではなく、会員たちが議論を行い親睦を深める場所へと変化しました。ですがその一方で、怪しげな秘密結社だとか、秘密の儀式を行っているなどと言う人も現れるようになったのです。
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フランス革命はフリーメイソンリーの謀略だった?!
「フランス革命はフリーメイソンリーが起こした謀略だ」と唱える人がいます。
1789年にフランス革命が始まった時、フランス国内と植民地にはフリーメイソンリーのロッジが600以上もあり、会員数は合計で2~3万人にも達していました。革命直後の共和制議会議員の3分の2がフリーメイソンリーの会員だったといわれています。「フランス革命はフリーメイソンリーが起こした謀略だ」といわれるのはこのためです。
しかし革命が進むと、革命政権の指導者ロベスピエールによって多くのフリーメイソンリー会員が断頭台で処刑されてしまいます。その中にはグランド・マスターであるオルレアン公など、位階の高い者も含まれていました。
もしフリーメイソンリーがフランス革命を起こしたというのなら、会員が処刑されるという事態にはならないはずです。「謀略説」はただの憶測といえるのではないでしょうか。
アメリカはフリーメイソンリーによって作られた?
フリーメイソンリーはアメリカ独立戦争でも大きな役割を果たしました。
フリーメイソンリーは新大陸アメリカにも伝播し、大商人や政治家、軍人、地主、知識人など中上流階級の人々が次々と会員になっていきます。
当時のアメリカはまだヨーロッパ各国の植民地の寄せ集めにすぎず、ひとつのまとまった国ではありませんでした。そんな中、フリーメイソンリーたちがロッジで行った集会は、彼らの中に「北米大陸の市民」だという意識を緩やかに醸成し、やがて独立戦争へと結びついていきました。
1773年、経営破綻していた東インド会社を救済すべく、イギリスは茶税法を制定し、東インド会社に植民地での茶の独占販売権を与えます。
これに反対する者たちがボストン港に停泊していたイギリスの貨物船上に集まり、東インド会社の茶342箱を次々と海へと投げ捨てるという「ボストン茶会事件」が起こります。
実はこの事件のきっかけは、ボストンの富裕商人でありフリーメイソンリーの会員でもあるジョン・ローの「お茶を海水で淹れたらどうなるだろう?」という言葉だったといわれています。
「ボストン茶会事件」をきっかけに、イギリスとアメリカ植民地とは対立を深め、ついにはアメリカ独立戦争へと発展します。この戦争でもフリーメイソンリーの会員が大いに活躍しました。
1776年7月4日に採択された独立宣言は、ジョン・アダムズ、ベンジャミン・フランクリンの協力のもと、トマス・ジェファーソンによって起草されたものです。この3人は皆フリーメイソンリーの会員でした。
また1789年にジョージ・ワシントンがアメリカ初代大統領に就任した際、宣誓で使用された聖書はフリーメイソンリーのロッジのひとつ「セント・ジョンズ・ロッジ・ナンバー1」から借り出されたものです。
ホワイトハウスを建築したアイルランド人建築家ジョームズ・ホーバンもフリーメイソンリーの会員だったといわれています。
このように、アメリカ独立戦争にはフリーメイソンリーが大きな役割を果たしています。フリーメイソンリーのロッジで行われた集会が、植民地の会員の間に「アメリカ市民」という意識を醸成し、ついには独立にまで発展したのです。
現在でも、アメリカでは多くのフリーメイソンリーが活動しています。アメリカのロッジの多くは福祉団体や慈善団体として法人化されており、会員たちは病院や福祉施設に多額の寄付を行ったり、バザーやフェスタを開催して地域住民と交流するなどしています。
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フリーメイソンリーがモデルになった芸術作品がある?
欧米各国に広まったフリーメイソンリーは、文学や芸術作品にも多大な影響を与えました。代表的なものをご紹介しましょう。
ドイツの詩人・作家であるヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、フリーメイソンリーの会員としても知られています。
彼の代表作『ヴィルヘルム・マイスターの徒弟時代』『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』に登場する秘密結社「塔の結社」は、フリーメイソンリーがモデルだといわれています。
ロシアの文豪レーヴ・ニコラエヴィッチ・トルストイの代表作『戦争と平和』には、主人公がフリーメイソンリーに参入するというシーンが描かれています。この場面から、当時のロシアのフリーメイソンリー入会儀礼がどんなものだったのかを知ることができます。
フリーメイソンリーは文学だけでなく、音楽にも影響を与えました。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのオペラ『魔笛』には、フリーメイソンリーの秘儀参入儀礼を基にした場面が登場します。儀礼で行われる問答とほぼ同じやり取りが作中で描かれているのです。
この他、トマス・マン『魔の山』、アーサー・コナン・ドイル『赤毛連盟』などの作品にもフリーメイソンリーの影響をみることができます。フリーメイソンリーは政治だけでなく、文学や芸術作品にも大きな影響を与えたのです。
GHQのマッカーサー長官もフリーメイソンリーだった
フリーメイソンリーの活動は日本国内でも行われています。
日本初のロッジは、1862年、イギリスの第20連隊が横浜駐留中に設立した「スフィンクス・ロッジ・ナンバー263」です。
その後、1866年には横浜在住の外国人たちによって「横浜ロッジ・ナンバー1092」が設立されましたが、明治政府はフリーメイソンリーの活動を許可する代わりに「日本人を会員としないこと」などの条件を定めます。
太平洋戦争後、日本でのフリーメイソンリーの活動は新たな局面を迎えました。GHQ司令官であり「マニラ・ロッジ・ナンバー1」のマスターだったダグラス・マッカーサーがフリーメイソンリーの活動を支持した結果、フリーメイソンリーに日本人の加入が認められるようになったのです。
さらに1957年(昭和32年)には国内で活動していたフィリピン・グランド・ロッジ参加の15のロッジが合同で日本グランド・ロッジを設立しました。
このような経緯から、日本国内ではフィリピン・グランド・ロッジに由来するフリーメイソンリー・ロッジが多いとされています。
イギリス王室やベルギー、スウェーデンの王族、アメリカ議会議員など、フリーメイソンリーの会員は欧米を中心に世界に広がっています。
日本でもフリーメイソンリーの活動は各地で行われていますので、お近くのロッジで行われるイベントを訪ねてみるのも面白そうですね。
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◎参考文献