田植えやお祭り、お遍路に行く時などにかぶる「笠」。時代劇でよく見る「烏帽子」や「冠」、「頭巾」。現代ではかぶる機会も少なくなりましたが、日本には昔から伝わる帽子がたくさんあります。
そこで今回は冠や烏帽子、笠など、日本伝統の帽子をまとめてご紹介します。
目次
日本伝統の帽子①礼装の時にかぶる「冠」
最初にご紹介するのは、肖像画の中で聖徳太子や源頼朝がかぶっている「冠」です。冠は礼装の時に頭部を飾るもので、地位の象徴とされていました。
冠には時代によって様々な種類があります。
・頭部の周囲を覆うもの
・額のみを覆うもの
古墳時代の冠は金属製のものが多く、頭頂部は覆わないことが特徴です。
・礼服用の金属製の冠
例:天皇の冕冠(べんかん)、皇后の宝冠、礼服の礼冠(らいかん)
・朝服や制服用の布製の頭巾
例:皂羅頭巾(くりのうすはたのときん)、皂縵頭巾(くりのかとりのときん)
飛鳥時代以降になると、唐風の冠が取り入れられるようになります。当初はかぶる者の等級によって色が異なっていましたが、奈良時代に入ると、礼服用の冠と、朝服や制服用の頭巾冠の2種類に変化します。どちらも身分などによってさらに細かく種類が分かれていました。
平安時代以降になると、奈良時代の頭巾冠が発展し、いわゆる「冠」が用いられるようになります。
時代によって少し異なりますが、冠は次のようなパーツで構成されています。
・冠本体
・巾子(こじ):髻(もとどり=頭上に束ねた髪の毛)を納める部分。
・纓(えい):後ろに垂らす2本の紐。
・上緒(あげお):冠が脱げないよう、冠の左右に付けて髻のところで結ぶ紐。
・簪(かんざし)
また、武官の冠には緌(おいかけ=馬の毛で作った扇型の飾り)が付けられました。
日本伝統の帽子②烏帽子
日本伝統の帽子といえば、烏帽子を思い浮かべる方も多いかもしれません。中世の公家がかぶるものというイメージですが、実際にはもっと様々な人が烏帽子を使用しています。
*烏帽子ってどんな帽子?*
・男性がかぶる日常用の帽子。
・室町時代頃まで公家も庶民も被っていた。
・黒色で、漆で塗り固められている。
・身分などにより、形状が異なる様々な種類があった。
・かぶる者の年齢によって、塗り固められた皺(さび)の部分も異なる。
室町時代頃までの日本では、頭頂部を露出することは恥ずかしい行為だとされていました。特に公家の間ではそうした意識が強く、入浴の時も寝る時も烏帽子を被っていたといいます。
烏帽子は黒色で、材質は様々ですが、漆で塗り固められています。塗り固めた皺(さび)の部分は柳皺、小皺、大皺といった種類に分かれており、被る者の年齢を表していました。
烏帽子には身分などにより様々な種類があります。
・立烏帽子(たてえぼし):六位以上の公家が用いる正式なもの。正面中央に「敬」と呼ばれる凹みを作ることが特徴。
・平礼烏帽子(へいらいえぼし):身分の低い者が被る略儀のもの。敬は作らない。
・風折烏帽子(かざおりえぼし):立烏帽子の峰(頂上部)を折り曲げたもの。上皇は右折、それ以外の人々は左折。室町時代以降は武家の礼装となった。
・侍烏帽子(さむらいえぼし):武家が好んで用いた。立烏帽子を複雑に折り曲げて作る。
・梨子打烏帽子(なしうちえぼし):兜の下につける。漆で塗り固めないため柔らかい。
日本伝統の帽子③笠と頭巾
最後にその他の帽子をご紹介しましょう。
・平安時代~:市女笠、綾蘭笠(あやいがさ)
・江戸時代~明治時代:熊谷笠(くまがいかさ)、眼せき(めせき)笠、菅(すげ)笠、天蓋(てんがい)
実用的な帽子として、昔から笠もよく使われてきました。笠をかぶれば風雨や埃、寒さなどを防ぐことができます。材料には菅(すげ)、竹、藺(いぐさ)などが用いられていました。
江戸時代初期には不逞浪人取り締りのために禁止されたこともありましたが、最終的に明治時代まで盛んに用いられています。
頭巾は防寒や埃除けとして使われていましたが、江戸時代に大変なブームとなり、様々な種類が考案されるようになります。大きく分けると角型、丸型、袖型の3種類に分けられます。
・角型:角頭巾、宗十郎頭巾
・丸型:丸頭巾、焙烙(ほうろく)頭巾
・袖型:袖頭巾
この他、手拭いを頭巾としてかぶることもあり、粋なかぶり方ができるかどうか競われていました。
烏帽子をかぶったままお風呂に入る――想像するとちょっとクスッと笑ってしまいそうです。教科書では習わないこうした歴史のこぼれ話を知ると、当時の人々のことも身近に感じられそうです。
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