作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる、聞きかじり防具コラムが連載スタート!
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
防具の存在意義と大まかな変遷
――防具は本来、毛皮を被るなど『多少は身を守れるかも』程度の防御力しかありませんでした。
精霊や動物の加護があるという信仰の影響が強かったこともありますが、主に“想定される攻撃が弱い”からです。
実際、武器の攻撃力が上がるにつれて、防具の強度やカバーする範囲が変化しています。
――槍や棍棒を使い少人数同士で争う時代を経て、弓矢が登場すると、大きく進歩することになります。
遠距離から飛来する弓矢は、一対一で相手の攻撃を避けたり自分の武器で受けたりという感覚とは違って不意に攻撃が届くわけですし、身体のどこに当たるか、いくつの矢が飛んでくるかはわかりませんから、身体の重要な部位を守る必要が出たわけです。
――命を守るための防具は、戦闘の規模が大きくなるにつれて進歩していきます。
軽装であった古代の戦いから、指揮官と一般の兵士に分かれ、戦闘を指揮する高級士官の存在が確立されると、防具のデザインは信仰を示す内容を保ちながらも、それぞれの階級を表すことへと目的がシフトしていくのです。
――集団戦闘が進歩するにつれて、個人の戦闘や護身のための防具と集団で使用する防具との差異が出てきました。
日常で犯罪者などから身を守るための武装は軽装で衣服の延長でしたが、戦争では防御性能がエスカレートすることになります。
それは弓矢への対応から始まり、鋭利な刃物や初めて経験する戦法への対応へと進歩します。
――目的によって進化した防具として、最も顕著なものが鎧です。
斬撃の対応にチェーン・メイルが開発されて長く主流だったものが、打撃や刺突に特化した武器が広まったことで金属鎧へと移行しましたが、その中でも競技や戦闘内容、武器で防御する範囲や場所が変わるため、様々な種類が作られました。
騎馬の騎士たちが頑丈で華美な全身鎧を着た一方で、弓兵が軽装であったように。
――戦場だけでなく、個人同士の決闘や、人物や財産などを守るための護衛など、防具が必要になるシーンは多々あります。
そのため、一度登場した防具は完全に無くなることはありません。
例えば全身鎧が発達してもチェーン・メイルが全く失われてしまったわけではなく、歩兵たちはチェーン・メイルを着こんで、その下にクッションとなる衣服を着るというスタイルは、銃が登場する頃まで多く見られました。
――同様に、欧州でも普段からの警察任務や、騒動を鎮圧の防具として金属鎧が使われることはあまりなかったようです。
現在で考えると、銃撃戦を想定した突入などの際だけ防弾ベストを装備する警察を想像すると分かりやすいかも知れません。
防具はこのように使用する時と場合によって使い分けられるわけです。
――銃弾の登場と威力の増大によって、頑丈なだけでは使えない時代が訪れます。
弾丸の貫通で受傷すると同時に、着弾の衝撃も考えなければならなくなったのです。
貫通させずに受け止め、衝撃を減らすクッション性が必要という状況に、様々な対処法が考案されました。
さっきの話に出た防弾ベストも、繊維で受け止めることで衝撃を押さえて、力が一点に集中せず広がる様に作られているわ。
軍人さんが使う防弾装備の中には、硬いプレートが割れて衝撃を吸収することで弾を止めるものもあるのよ。
軍人さんが使う防弾装備の中には、硬いプレートが割れて衝撃を吸収することで弾を止めるものもあるのよ。
――防具に関するあれこれ、全10回の掲載はこれにて終了です。
説明不足な点も多々あるかとは思いますが、楽しんでいただけたら、そして創作活動などにお役立ていただけたのであれば幸いです。
普段の生活では武器以上に目にする事が少ない“防具たち”ではありますが、興味があれば、資料を集めて調べてみることをお勧めします。
武器と防具、それぞれの魅力にどっぷりと浸かってくださいませ。
ではではこのあたりでお開きとさせていただきます。どうもありがとうございました。
またどこかでお会いできれば光栄です。
井戸正善
▶「防具講座」記事一覧
◇おすすめ記事
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「ルリちゃんの聞きかじり武器講座」 |
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
【熊公】
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
◇参考書籍
『図解 防具の歴史』
著者:高平鳴海
イラスト:福地貴子
>書籍はこちら
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。