文:斜線堂有紀
「幻想キネマ倶楽部」とは?
毎月28日にお届けする、小説家の斜線堂有紀先生による映画コラムです。
月ごとにテーマを決めて、読者の皆さんからテーマに沿ったオススメの映画を募集します。
コラムでは、投稿いただいた映画を紹介しつつさらにディープな(?)斜線堂先生のオススメ映画や作品の楽しみかたについて語っていただきます!
今月は「映画に出てくる好きな食べ物」について語らない?
食欲の秋ということで、今回は映画に出てくる食事がテーマである。映画よりもずっと昔から存在するエンターテインメントであるグルメは、なればこそ銀幕の中では一層魅力的な題材なのである。
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好きではない。そして微塵も美味そうではない。だが何故か、この映画を観た後にはマクドナルドが食べたくなる。そしてしばらく食べたくなくなる。(くー)
スーパー・サイズ・ミー
スーパーサイズ・ミー(2004)
監督:モーガン・スパーロック
製作国:アメリカ
監督:モーガン・スパーロック
製作国:アメリカ
いきなりこれを取り上げるのもどうなのかという感じなのだが、この映画こそ私が初めて観たドキュメンタリー映画であり、こんなことを人間がしていいのか……とショックを受けた一作でもある。
この映画のことを知らない人に、一言で説明しよう。この映画は一人の男が30日間マクドナルドだけを食べ続けたらどうなるのかを克明に追ったドキュメンタリーである。本当に、ただそれだけだ。
この映画が作られた背景にあるのは急激に起きたアメリカ社会の肥満増加や、それに伴うマクドナルドへの訴訟(なんと、マクドナルドを食べ過ぎて肥満になったことへの訴訟を客側が起こしたのだ)なのだが、その背景を全く知らずとも、人間が同じ物を食べ続けるという“物語”を見せてくれる作品でもある。
最初の内はとても美味しそうに見えるマックのスーパーサイズ。ジャンクフードは他にない独特のおいしさがある。たまに食べるとテンションも上がる。だが、この映画を観ていると、何だかそわそわさせられるのだ。これを見終えた後、果たしてあなたは一体何を最初に食べたくなるだろうか?
「悪名こそ、彼らの名誉(グロリアス)」という素敵なキャッチコピーの付いた楽しい戦争映画です。
ミルクなど魅力的な飲食物が多いのですが、その中でもハンス・ランダ大佐がレストランにて注文したシュトゥルーデルがとても美味しそうで…!クリームを乗せるシーン、煙草を押し付けるシーン、どれも素敵でタランティーノ監督は食べ物も撮るのが上手いのか…と絶句してしまいました。
余談ですが、クリームを心待ちにする大佐が可愛くて恐ろしいユダヤ・ハンターとはとても思えません…。(ご飯)
ミルクなど魅力的な飲食物が多いのですが、その中でもハンス・ランダ大佐がレストランにて注文したシュトゥルーデルがとても美味しそうで…!クリームを乗せるシーン、煙草を押し付けるシーン、どれも素敵でタランティーノ監督は食べ物も撮るのが上手いのか…と絶句してしまいました。
余談ですが、クリームを心待ちにする大佐が可愛くて恐ろしいユダヤ・ハンターとはとても思えません…。(ご飯)
イングロリアス・バスターズ
イングロリアス・バスターズ(2009)
監督:クエンティン・タランティーノ
製作国:アメリカ
監督:クエンティン・タランティーノ
製作国:アメリカ
私も大好きなタランティーノ監督作品から『イングロリアス・バスターズ』のシュトルーデルを挙げて頂いた。これは、サクサクパイに生クリームをたっぷり載せたドイツ伝統のお菓子である。見た目にも可愛いし、何よりシンプルに美味しそうなのだが、この食べ物が出てくるシーンはかなりシビアである。というのもこのシーン、かつて家族を皆殺しにされたユダヤ人の女性・ショシャナが、まさにその犯人であるハンス大佐と一緒に卓を囲むシーンなのである。一体どうしてそうなったのか? というのは是非とも映画本編を観て頂きたい。憎しみと緊張、そしてショシャナの策略が交差するシーンに、まるで彩りのように差し挟まれるシュトルーデル!
何と言っても、怨敵である大佐を目の前にしながらシュトルーデルを食べるショシャナの表情がいい。固く強ばっている表情は崩れないが、その中に微かな喜びが見て取れる名演技である。何せどんな状況下にあっても美味しいものは美味しい! しかも彼女、生クリームの扱いが惚れ惚れするほど上手い。
これに限らず、基本的にタランティーノ監督作品は食べ物が美味しそうである。人生の楽しみを全て映画の中で再現しようという心意気がある所為か、食の描写にはとみに力が入っているのだ。今絶賛公開中の監督最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でクリフ(ブラッド・ピット)が食べていたお湯でもどす謎のインスタントマカロニも何だか妙に美味しそうに見えた。茹で上がったそれの中に何かしらのチーズとソースを乱雑に投げ込んで、テレビの前でもしゃもしゃと食べる様が何ともいい。
これは余談だが、バイオレンスと食事描写は相性が良いなと最近一番思ったのは『ハングマンズ・ノット』の後半に出てくる鍋だった。これは殺人鬼(ヤンキー)と殺人鬼(ストーカー)が闘うというシンプルすぎるアクション映画なのだが、何故か食事シーンが多く、価値観の全く理解できない彼らがそれを美味しそうに食べる様は、観客に得も言われぬ恐ろしさを感じさせる……。
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さて、今回の自分セレクトだが、正直迷った。一番最初に浮かんだのは、何故か『万引き家族』の冒頭に出てくるコロッケを入れたカレーうどんだった。だが、それはただ屈託無く美味しそうと言うにはあまりに文脈の乗ったものになってしまうので、今回はただただ自分が好きなグルメ映画を紹介したい。『UDON』である。
UDON(2006)
監督:本広克行
製作国:日本
監督:本広克行
製作国:日本
この隠れた名作映画のことを誰か覚えている人はいないだろうか。個人的には一年に一回は地上波で放映してみんなでその独特の空気に浸るべきだと考えている一作なのだが……! これを放送したら多分、うどんを食べよう! と思う人が増えて、スーパーからうどん玉が消え、うどん屋さんは大繁盛になること間違い無しだろうに……。
この映画のテーマはタイトル通りうどんであるのだが、正確に言うならうどんブームとそれを取り巻く人間をテーマにしている。この映画の面白いところは、公開された当時に現実でもうどんブームが起こっていたことである。チェーン店のうどん屋さんが沢山開店し、ファストフードとしてうどんが食べられるようになった革命の時代。今でも、あのスピード感でこの映画が作られたことを不思議に思っているくらいだ。
芸人の夢に挫折し、香川にある実家のうどん屋に戻ってきた主人公の香助は、にわかに活気づくうどん人気に目を付け、雑誌編集者の恭子を巻き込んでうどんブームを仕掛けていく……というのが『UDON』の全体のあらすじである。このうどんブームを盛り上げていくぞ! のパートは何はなくとも楽しさが凄い! 香川県の名物うどんが次々に出てくるわ、それを食べ尽くさんと行脚するうどん部の面々が出てくるわ(こういう訳の分からないサークルの胡乱さが本当に愛おしい)何が主題かよくわからないうどんフェスティバルが開かれるわでとにかく派手なのだ。
当たり前だが、うどん実食シーンもいい。うどんの生醤油での食べ方を知ったのはこの映画だった。かけうどんもおろし醤油うどんも、そのまま袋から麺を食べるのすら、この映画で美味しく魅せてくれる。うどんの可能性を代わる代わるに繰り出してくれるだけで一種のエンターテインメントなのだ。このバリエーションがあるなら、一週間毎日うどんでもいいんじゃないかと思うくらいに……。
そうして中盤まで楽しさとうどんの魅力で引っ張ってきてくれるこの映画の半ばで、ある種普遍的な出来事が起こる。うどんブームの終わりだ。
勿論、うどん自体が凋落するわけではなく、あくまで熱狂的なブームの終わりというだけなのだけれど、それはこの映画の中で酷く寂しく描かれている。どんなブームでも落ち着く瞬間はやってくるし、この映画の中で描かれるそれはウルフルズの「バンザイ」という曲と共にやってくる。薄々ブームの終わりに気づきながら、静かにそれを見守る香助と恭子を見ていると、永遠なんてないのか……という永遠コンプレックスがじくじくと刺激される。うどんという牧歌的なテーマなのに……いや、牧歌的なテーマだからこそ、このブームの終わりは異常に物悲しい……。
そうして波が引いていくようなブームの終わりを描いた後、物語はいよいよ香助自身の物語へと移っていく。この緩急付いた構成もまた上手い。秋限定うどんが出てくるこの季節にこそ『UDON』を見てうどんを食べに街に繰り出すのもいいかもしれない。
以上、今回は3本の映画を取り上げさせて頂いた。フィクションの中の麗しい食べ物に舌鼓を打った後は現実でもそれを楽しめる、人生はつくづく贅沢な作りになっているものである。
(パンタポルタからのお知らせ)
10月のテーマは
「この関係性が好き!」
『幻想キネマ倶楽部 ~小説家 斜線堂有紀とファンタジー映画観てみない?~』10月のテーマは、映画に出てくる登場人物たちの「この関係性が好き!」です。
『リーサル・ウェポン』や『メン・イン・ブラック』などのアクション映画をはじめ、『ホット・ファズ』『インターンシップ』といったコメディ映画まで……人気のバディムービーを挙げれば枚挙にいとまがありません。
そんなバディムービーはもちろん、そうでない映画の中にも、「この関係性いいな」と思うことはたくさんあるはず。
ということで今回は、あなたの中の「この関係性が好き!」を教えてください!
映画のタイトルだけでも大歓迎☆
たくさんのご投稿をお待ちしております。
今月のはみ出し映画語り
この映画に出てくる食べ物といえば「しおしおミロ」!しおしおミロとは「スプーン10杯のミロと約12ccの牛乳をかき混ぜれば出来るぞ」というとてつもなく濃いミロの暴力みたいな飲み物(食べものか?)のこと。毎度見るたび作ろうと思うのですがあまりの濃さにミロ5杯で止まってしまいます。(ゆずお)
インスタント沼
沼のような見た目のミロはタイトル回収の役割も果たしているのかもしれない……。物理的に溶けないような気もするのですが、頑張れば再現できるのでしょうか? 小さい頃は濃いカルピスに並んで憧れだったんですよね、濃いミロ。
最近は完全食というものが流行ってますからね。プロテインブロックはその先駆けのようなものでしょう。絶対に食べたくはないですけど。(くー)
スノーピアサー
絶対住むのが無理なディストピア、通称・無理トピア映画の代表格『スノーピアサー』からプロテインブロックを挙げて頂きました。この映画メシがまずそう! 大会があれば上位に食い込むこと間違いなし、色からしてまずそうなこれ。原材料の嫌さも含めて『ソイレントグリーン』に勝てるとしたらこれしかない気がする……。
自然災害にも負けずお仕事完遂!な主人公が出てくる例のあれな映画より「私このパイ嫌いなのよね」でおなじみ、ニシンとカボチャのパイを推したいです。かつて初見時から子供心にどんな味か気になり続けていたのです。
数年前に三鷹の森ジブリ美術館で施設内レストランの期間限定メニューを食したのですが、(ニシンの臭みもなくカボチャはほくほくベシャメルソースがよく絡み、パイ生地はバターの香り高くサクサク…!いやめっちゃ美味いやんけ)と多幸感溢れる食体験でした。公式のコラボカフェでもめちゃくちゃ手厚い…(黒い千羽鶴)
数年前に三鷹の森ジブリ美術館で施設内レストランの期間限定メニューを食したのですが、(ニシンの臭みもなくカボチャはほくほくベシャメルソースがよく絡み、パイ生地はバターの香り高くサクサク…!いやめっちゃ美味いやんけ)と多幸感溢れる食体験でした。公式のコラボカフェでもめちゃくちゃ手厚い…(黒い千羽鶴)
魔女の宅急便
愛と悲劇の料理、ニシンとカボチャのパイ……! 小さい頃はニシンの形をしているだけなのかと思っていたので、あれが実際にニシンのパイだと知って衝撃を受けた一品。甘くないものでもパイになるのか、というのはとんでもない発想の転換だったんですよね……。実は一度も食べたことがないんですが、こうして黒い千羽鶴さんが紹介されると何だか美味しそうに感じます。
*作者紹介*
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻、『私が大好きな小説家を殺すまで』『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』がメディアワークス文庫から発売中。『死体埋め部の悔恨と青春』(ポルタ文庫)は新紀元社より発売中!
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻、『私が大好きな小説家を殺すまで』『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』がメディアワークス文庫から発売中。『死体埋め部の悔恨と青春』(ポルタ文庫)は新紀元社より発売中!
シリーズ名:ポルタ文庫
著者:斜線堂 有紀
イラスト:とろっち
定価:本体650円(税別)