第4回で、最も基本的な判定である「能力値判定」と「技能判定」を紹介しました。前回のキャラクター・シートの項目と合わせて、戦闘ではない場面はプレイすることができます。『スターター・セット』で言えば、「ファンデルヴァーの失われた鉱山」のP.6、パート1のうち、グンドレン・ロックシーカーから依頼を受ける場面と、最初の遭遇に入るところまでプレイができます。キャラクター・シートの内容と戦闘について説明する前に、プレイの参考になるよう、その場面をすこし膨らませてみます。
その部分では、PCに対して場面を描写・説明する読み上げ文のあと、DMがプレイヤーにしてもらうこと、決めてもらうことが箇条書きになっています。これは『スターター・セット』として、DMも初心者であることを想定して書かれているからです。略して書くと、
(1)PCの自己紹介をしてもらう
(2)グンドレンの依頼を受ける経緯を考えてもらう
(3)PCたちがどういう隊列を取るか決めてもらう
の3点です。
まずは、自己紹介をするために各自PCの名前を決めましょう。カタカナで欧米風の名前にすると、舞台となるソード・コースト地域に合った名前になるでしょう。ヒューマン以外のPCは、裏にその種族によくある名前があるので、そこから取ってもかまいません。
自己紹介はキャラクター・シートに材料があります。種族、クラスについてシートの裏に解説があります。どんな種族で、クラスとしてどのようなことが得意であるか仲間に伝えましょう。特徴の詳しい内容や使う呪文の効果について、この時点で説明できる必要は、まだありません。
また、「背景」には、PCのグンドレンからの依頼に関係する繋がりが設定されています。個人的な人となりについては、シート表に戻って「人格的特徴」「尊ぶもの」「関わり深い物」「興味」を参考にPCの性格をプレイしましょう。
合わせて、ルールブック P.4のコラムにある「ロープレイとインスピレーション」を読み上げておきましょう。(*0)
ただ、この4項目は、判定や戦闘のような数式的なルールではなく、厳密な適用や演技が必須ということではありません。パーティーを組んで一緒に行動している中で、あるいはアドベンチャーの中で出会うNPCとの関係性や、モンスターを倒して問題を解決したりする中で、考え方や行動の傾向が変化したり、解釈が変わったり、新たな設定、経歴として付け加えることも出来上がるかもしれません。
(2)は、プレイヤーから思いつくことをDMに提案していくのが望ましいです。それぞれの「背景」にある設定から想像すると良いでしょう。
DMはプレイヤーたちに、次のようなことを判定の練習としてやってもらうとプレイの手引きになります(難易度の決め方、戦闘のルールについては以後の記事で紹介します)。もちろん必要なければ飛ばしても何の問題もありません。
[1] プレイヤーに「PCがファンダリンについて知っているか、判定できるよ。」と言って、能力値判定の【知力】判定のか、【知力】<歴史>技能判定を勧める。難易度は5(*2)。成功したら、「依頼を受けるネヴァーウィンターからファンダリンまでは街道を行って6日かかる場所。」と、「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.14「パート2:ファンダリン」の冒頭の説明分を、「開拓最前線の町ファンダリンは、」から第二段落の「付け込んだのだ。」までを読み上げる。
[2] 依頼の日程と報酬が適切か考えてもらう。合わせて貨幣の価値について説明する。報酬は一人当たり10gp(ゴールド、金貨)。1gpは大体1万円くらいに考えてよい(*4)。合わせて、cp(カッパー、銅貨)、sp(シルバー、銀貨)とgpで10進数である事も紹介(*5)。今回の一人当たり10gpの報酬は、日給15,000円に相当する。
[3]「報酬が安いと思うなら、交渉するかい?」と提案し、難易度15で次の判定のどれかをやってもらう。【魅力】<威圧>、【魅力】<説得>、【魅力】<ペテン>(*6)。成功したらグンドレンは危険手当と称して一人当たり2gp、上乗せしてくれる(*7)。
[4] シルダー・ホールウィンターについて質問や話が出たら、DMは「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.59 のデータを参照する。「彼は、チェイン・メイルを着て、ロングソードとヘヴィ・クロスボウで武装している。」と紹介する。(*8)
[5] シルダーは、腕相撲の相手や、1対1の近接武器を使う模擬戦の相手をしてもよい(*9)。腕相撲は【筋力】能力値で対抗判定(*10)で、お互いに1d20+【筋力】修正値の結果を比べ、大きい方が勝ち、同値は引き分け(どちらにも腕が押されないで均衡する)。戦闘のルールについては次回以降か、スターター・セット・ルールブックP.8「第2章:戦闘」を参照。
グンドレンの依頼の話を聞いた場所(宿か酒場でしょう)について、プレイヤーから説明を求められたら、DMは「グンドレンが呼んでくれた、居心地の良い酒場だったよ」と答え、さらに求められたら「アドベンチャーの進行に関係ないから書いてない。預かった荷馬車で出かけてね」と正直に言って、進めてしまいましょう。ほかの、アドベンチャーに書いていないことは、DMがその場で決めて描写してもいいですが、慣れていないのなら無理にそこに時間を取ってしまうよりは、例のように正直に答えてしまいましょう。
プレイヤー側も、設定のあら捜しをする遊びではなく、冒険を協力して進めていくものですから、DMやアドベンチャーの揚げ足を取るようなことはやめましょう。
「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.6 へ戻り、右段の「以下の読み上げ文を読み、遭遇を開始すること」から進めます。次回は、いよいよ戦闘です。
(*0)「インスピレーション」は、「人格的特徴」「尊ぶもの」「関わり深い物」「興味」に即したロールプレイやPCの行動があったときに、それをほめたたえDMが1ポイント上げるもので、プレイヤーの任意のタイミングで使うことができる。PCが持つインスピレーションの1ポイントは、プレイヤーは自分のキャラクターが能力値判定、攻撃ロール、セーヴィング・スローのいずれかを行なう際、自分が持つインスピレーションを消費することができる。インスピレーションを消費した場合、そのキャラクターはその1回のロールに“有利”を得る。自分が被っている“不利”を打ち消すためにインスピレーションを消費することもできる。インスピレーションは「あるかないか」だけで、2点のインスピレーションを得ることはない。さらに、インスピレーションを持っているプレイヤーは、DMがするように他のPCにインスピレーションを渡すこともできる。
(*1)「最近、成長著しい開拓町として知られているのを聞いているかも」といった理由で。
(*2)ヒューマン/ファイター/貴族、ドワーフ/クレリック/兵士、ハーフリング/ローグ/犯罪者の3名は、背景にある個人的な目的にファンダリンが結びついているので、プレイヤーが気が付いてそれを言った場合は、判定は不要。
(*3)「スターター・セット・ルールブック」P.14「移動」“キャラクターは1日に約24マイル(約39km)歩くことができる。”と、「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.5の地図で“1ヘックス=5マイル(約8km)”からすると、1日につき24キロ(3ヘックス)進むことができる。その移動だと、ネヴァーウィンターからファンダリンへは6日の計算になる。さらに詳細な移動のルールは『プレイヤーズ・ハンドブック』P.181「移動」にある。
(*4)より具体的には、ファイターがそれぞれ持っているグレートソードが50gp、グレートアックスが30gpすることをルールブックの武器の表から紹介して、冒険者は基本的にgpをベースに生活、活動している人たちだと説明するとよい。
(*5) cp、sp、gpの10進はルールとして固定だが、貨幣としての設定は、用いる世界や地域によって異なる。D&D第5版のフォーゴトン・レルムでの活躍エリアのソード・コーストにおける貨幣は、『ソード・コースト冒険者ガイド』『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』などで紹介されている。
(*6)<威圧>では、10gpの報酬が少ないと怒ってみせる。<説得>では、道中の危険もあるだろう、と理性的に交渉する。<ペテン>では、なにか調子のよいことを言ったり、おだてたりして引き出す。といった解釈で技能判定を行う。このような技能判定をする理由については、プレイヤーの提案が重要だとDMは説明すること。ただ、これらは演技をしてもいいし、判定をしたいと進言するだけでもかまわない。
(*7)グンドレンは、“仕事の都合”で頭がいっぱいで説得しずらい(ので難易度15)が、成功すると“仕事の都合”で儲かる見込みで浮かれているから金額はケチらない。一人当たり2gp増額ということは、5人パーティーに支払うとなると10gp、つまり10万円の増額になる。この2gpの増額はアドリブで「ファンデルヴァーの失われた鉱山」には書かれていない。
(*8)D&D第5版では、数値としてのデータや、善、悪、法、混沌の属性を知る呪文、技は基本的にはない。
(*9)シルダーは、互いに1gpずつ出して賭け、勝った方が合わせて2gpを得る試合を1回だけ応じてくれるとすると良い。何度も応じるようだと繰り返されたりして、セッションが進まない可能性がある。
(*10)対抗判定のルールは、ルールブック P.5「対抗判定」を参照。
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次回は10月12日(土)に公開予定!
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