ジャッキー・チェンなどの香港アクション映画でおなじみ「酔拳」。主人公が酒を飲みながらアクロバティックな戦いを繰り広げ、「酔えば酔うほど強くなる」というキャッチコピーが話題となりましたが、酔拳は本当に存在するのでしょうか?
また、本当に「酔えば酔うほど強くなる」のでしょうか? 今回は酔拳の秘密に迫ります。
目次
香港映画の「酔拳」とは?
香港映画に登場する「酔拳」にはどんな特徴があるのでしょう? まずは酔拳について簡単にご紹介しましょう。
*香港映画に登場する「酔拳」とは?*
・中国拳法のひとつで、千鳥足で戦う。
・酒を飲みながら戦い、酔えば酔うほど強くなる。
「酔拳」は中国拳法のひとつです。
最大の特徴は酒を飲みながら戦うことで、酔拳の使い手は酔いが回れば回るほどパワーアップし、変化に富んだトリッキーな動きで相手を翻弄します。
酔拳は1979年に日本でも公開されたジャッキー・チェン主演の映画『ドランクモンキー酔拳』に登場し、日本で広く知られるようになりました。映画は大ヒットし、これ以降、酔拳を使ったアクション映画が多数公開されることとなります。
さらに、映画だけでなく漫画やゲームなどにも酔拳を使うキャラクターが描かれるようになりました。
実在の中国拳法「酔八仙拳」
酔拳の予測不能でトリッキーな動きは、フィクションの世界ならではの動作のように思えます。ところが、実は酔拳は本当に存在する中国拳法なのです。
ただし、映画の酔拳と本物の酔拳には、かなり異なる部分がみられます。
*実在の「酔拳」とは?*
・門派の名前は「酔八仙拳」(「酔拳」という名の門派は存在しない)。
・千鳥足の歩法と「
・地面を背に転げまわりながら戦う。足場の悪い場所での戦いにも向いている。
・飲酒して戦うわけではない。
現実には「酔拳」という名の門派(いわゆる「流派」)は無く、「
とはいえ、酔八仙拳は酒と全く無関係というわけでもないようです。
酔八仙拳の「八仙」とは、中国の8人の仙人のことで、酔八仙拳はこの八仙の酔態を模したものとされています。
また、酔八仙拳の祖は『水滸伝』に登場する大酒飲みの好漢・花和尚(魯知深)だという伝説もあります。
酔八仙拳は「地功拳」に属し、地面を転げ回りながら戦ったり、足場の悪い場所で戦う時に向いています。複雑で変化に富んだ千鳥足の歩法と、「月牙叉手」と呼ばれる手技が特徴です。
「月牙叉手」とは、盃を持つ時のような手の形(酔盃手)で相手の喉をつかみ破壊する手技です。実戦では人差し指の第2関節を曲げて突き出す「
酔八仙拳のこうした動きは、蘇化子と范大杯というふたりの武術家が、少林拳や八仙拳、地功拳などを組み合わせて考案したといわれています。実戦に向いた拳法ですが、緩急に富んだ動きをするためには、足腰の強さや柔軟性、バランスの良さなどが求められるため、習得するのはとても難しいといえそうです。
映画の中の酔拳と、実在する酔八仙拳。共通点は千鳥足で戦うというところだけで、それ以外の部分はかなり異なっているようですね。酔えば酔うほど強くなるわけではないのはちょっと残念ですが、実際の酔八仙拳との違いを知れば、映画の酔拳ももっと楽しめそうです。
◇参考書籍
図解 中国武術
著者:小佐野 淳
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