作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる、聞きかじり防具コラムが連載スタート!
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
脛当てをする理由『盾の下の“弱点”』
――防具としての脛当てが登場するのは、紀元前数百年から紀元一世紀頃のようです。
古代ローマの兵がつける防具として登場した“グレアヴェ”(グリーブ)です。
膝下の前面、向う脛を覆うように固定するこの防具は、ダキア遠征後に多く使われるようになりました。
――籠手の話で登場した板金を重ねて作られた防具“マニカ”と同時期に、グレアヴェは有用な防具として普及しました。
剣を振る右手だけに装着されたマニカとは逆に、グレアヴェは主に左足だけにつけられました。
ローマ兵は左足と左手を前に出して盾を構え、攻撃の際は右半身を前に出して踏み込むという姿勢をとっていたようです。
――クレアヴェは青銅製が多く作られたようですが、中には木を布で巻いたものもあったようです。
いずれにせよ長さや太さなどを調整する必要があり、同じ型で大量生産をするようなものではありません。
後世の金属鎧程ではありませんが、オーダーメイドに近い防具です。
――加工した脛当ては、向う脛に当てて革帯で固定します。
膝は前には曲がらないので、膝頭まで一体化した防具をあてるだけで良かったのです。
全身鎧の足周りは膝が曲がる様に加工する必要があり、これは太ももを守るパーツと連結して関節まで守るためでした。
――古代ローマの兵が片足だけクレアヴェを装着していたのも、費用や資材の面だけでなく、重量が問題になるという点もありました。
青銅は同じ質量の鉄よりも重いので、剣で叩かれても耐えられる程度の厚さで脛の前半分を覆う量となれば相当な重量です。
足枷を付けて戦場に出たいかどうかという問題になります。
――こうして登場した脛当ては、緩衝剤としての布を内側に貼りつけたり、魔除けのレリーフを刻み付けたりといった変化を遂げますが、ローマ帝国後期にはあまり使われなくなりました。
盾の大型化や戦術の変更などによって、足に重い防具を付けるよりは機動力を確保した方が良いということになったのでしょう。
百人隊長など、身分を示す必要がある者の装備として残ることになりました。
――全身鎧の隆盛を待たず、グレアヴェは再び基本的な防具の一つとしての地位を得ます。
青銅だけでなく鉄製の板を叩いて加工したものも作られましたが、素材の他に大きく変化した点が、防御範囲です。
ローマ帝国時代には向う脛だけを守るように前面だけだったのが、膝から下全体をぐるりと包む形になりました。
――馬上の兵士が足を攻撃されるようになるのは自然な流れでした。
徒歩の兵士にとって、高い位置にあるチェーンメイルや盾で守られた上半身を狙うより、労せず届く足を斬りつけた方が効率が良いからです。
そうして攻撃される際、真正面からではありません。馬がいるからです。
馬の側面に回りこまれると、向きによっては脛の前だけでなくふくらはぎも斬りつけられることになります。
――騎馬の側から見ると、足元を守っていないと盾をひっきりなしに移動させていなければならず、攻撃を加えるどころではありません。
全身鎧の時代となって、グレアヴェもその一部として組み込まれた時には、腿やつま先まで防御するようになったのは当たり前なのです。
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「ルリちゃんの聞きかじり武器講座」 |
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
【熊公】
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
◇参考書籍
『図解 防具の歴史』
著者:高平鳴海
イラスト:福地貴子
>書籍はこちら
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。