北欧神話とは、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドの北欧4ヶ国で信仰されていた神々の物語です。近年では、映画化された名作小説『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』や人気漫画『進撃の巨人』、ゲーム『ドラゴンクエストシリーズ』『ファイナルファンタジーシリーズ』など、数多くの作品が北欧神話を題材にしたり、神々や用語から着想を得たりしています。
ここでは、ファンタジー世界の定番ともいえる北欧神話の世界観やあらすじ、個性的な神々とそのエピソードを、初心者にもわかりやすく解説します。
目次
◇北欧神話ガイド①世界観
北欧神話の中で、宇宙には計9つの世界が存在します。そのうち、位置関係がわかっているものは、以下の6つの世界のみでした。
・ニヴルヘイム
もっとも北に位置する極寒の世界。有翼の黒龍ニーズホッグや無数の蛇が住み、寒さと全ての気味が悪いものを生み出す地とされた。原初の巨人ユミルの誕生より古い時代から存在する世界のひとつ。
・ニヴルヘル
ニヴルヘイムと同様、最北端に位置する死者の国。
・ムスペッルスヘイム
もっとも南に位置し、燃えさかる炎に包まれた灼熱の世界。ムスペッルという種族の長スルトが統治しているが、それ以外の詳細は不明。ニヴルヘイムと同様、原初の巨人ユミルの誕生より前から存在していた。
・ミッドガルド(ミズガルズ)
人間が住む世界。北のニヴルヘイムとニヴルヘル、南のニヴルヘイムの中間に位置し、大地の中央(内側)にはアース神族が住む世界アスガルド(アースガルズ)がある。ミッドガルドの外側を囲む柵の外には、巨人が住む世界ヨトゥンヘイムがあるとされた。
・アスガルド(アースガルズ)
大いなる神々アース神族が住む世界。人間の世界ミッドガルドの中央に位置し、周囲は高い城壁で囲まれている。アスガルドに入るには、ミッドガルドから虹の橋ビフレストを渡るか、空を飛ぶしかない。城壁の中には、神々が集う神殿や北欧神話の主神オーディンの宮殿、雷神トールの館、ウルズという泉などがある。
・ヨトゥンヘイム
人間の世界ミッドガルドの外側を囲む柵の外(東方または北方)にある、巨人が住む世界。巨人ミーミルが管理するミーミルの泉などがあり、ほかの世界では見られない生き物が多く棲んでいる。ヨトゥンヘイムのさらに外側には、深い海が広がっているとされた。
もっとも北に位置する極寒の世界。有翼の黒龍ニーズホッグや無数の蛇が住み、寒さと全ての気味が悪いものを生み出す地とされた。原初の巨人ユミルの誕生より古い時代から存在する世界のひとつ。
・ニヴルヘル
ニヴルヘイムと同様、最北端に位置する死者の国。
・ムスペッルスヘイム
もっとも南に位置し、燃えさかる炎に包まれた灼熱の世界。ムスペッルという種族の長スルトが統治しているが、それ以外の詳細は不明。ニヴルヘイムと同様、原初の巨人ユミルの誕生より前から存在していた。
・ミッドガルド(ミズガルズ)
人間が住む世界。北のニヴルヘイムとニヴルヘル、南のニヴルヘイムの中間に位置し、大地の中央(内側)にはアース神族が住む世界アスガルド(アースガルズ)がある。ミッドガルドの外側を囲む柵の外には、巨人が住む世界ヨトゥンヘイムがあるとされた。
・アスガルド(アースガルズ)
大いなる神々アース神族が住む世界。人間の世界ミッドガルドの中央に位置し、周囲は高い城壁で囲まれている。アスガルドに入るには、ミッドガルドから虹の橋ビフレストを渡るか、空を飛ぶしかない。城壁の中には、神々が集う神殿や北欧神話の主神オーディンの宮殿、雷神トールの館、ウルズという泉などがある。
・ヨトゥンヘイム
人間の世界ミッドガルドの外側を囲む柵の外(東方または北方)にある、巨人が住む世界。巨人ミーミルが管理するミーミルの泉などがあり、ほかの世界では見られない生き物が多く棲んでいる。ヨトゥンヘイムのさらに外側には、深い海が広がっているとされた。
これら以外に、ヴァン神族が住む世界ヴァナヘイム、リョースアールヴ(白妖精)が住む世界アールヴヘイム、デックアールヴ(黒妖精)が住む世界スヴァルトアールヴヘイムも存在しています。しかし、それら3世界の位置関係は不明で、宇宙のどこにあるのか明らかではありません。
また、北欧神話の9世界は、青々と葉を茂らせた巨木・世界樹ユグドラシルによって支えられているという説もあります。さらに、世界樹ユグドラシルと9世界の上にある天は、原初の巨人ユミルの頭蓋骨で作られたといいます。
【図解】神々の世界アスガルドと北欧神話の9世界
【書籍タダ読み】北欧の神々が住まう世界アースガルズ
◇北欧神話ガイド②世界創造のあらすじ
北欧神話には、神々の世界アスガルドと人間の世界ミッドガルド、巨人の世界ヨトゥンヘイムが創られた「世界創造」のエピソードがあります。ここでは、主神オーディンらがどのように世界を創ったのか、あらすじで解説しましょう。
原初の巨人ユミルと世界創造
神々が存在するより前の時代、宇宙には深淵ギンヌンガガプ、灼熱の世界ムスペッルスヘイム、極寒の世界ニヴルヘイムがあった。しかし、太古の時代に対極ともいえる2つの世界が存在したことが、後の世界創造につながるのである。
ある時、熱風に溶かされた霜から原初の巨人ユミルと牝牛アウズフムラという2つの生命が誕生した。ユミルは、霜の巨人という一族を発生させる。一方、牝牛アウズフムラが舐めた霜から生じたのが、ブーリという男だった。
そして、ブーリの息子と霜の巨人の娘との間に、北欧神話の主神オーディンら3人の神々が誕生したのである。
しかし、原初の巨人ユミルは、霜の巨人を嫌ったオーディンらに殺されてしまう。そのうえ、大多数の霜の巨人たちも巻き添えとなり、死亡してしまった。
その後オーディンらは、ユミルの身体を素材として世界を創造しはじめる。彼らはユミルの血肉はもちろん、毛髪、骨、脳、まつ毛まで余すところなく使い、人間の世界ミッドガルドと巨人の世界ヨトゥンヘイム、神々の世界アスガルドを創りあげた。
神々が存在するより前の時代、宇宙には深淵ギンヌンガガプ、灼熱の世界ムスペッルスヘイム、極寒の世界ニヴルヘイムがあった。しかし、太古の時代に対極ともいえる2つの世界が存在したことが、後の世界創造につながるのである。
ある時、熱風に溶かされた霜から原初の巨人ユミルと牝牛アウズフムラという2つの生命が誕生した。ユミルは、霜の巨人という一族を発生させる。一方、牝牛アウズフムラが舐めた霜から生じたのが、ブーリという男だった。
そして、ブーリの息子と霜の巨人の娘との間に、北欧神話の主神オーディンら3人の神々が誕生したのである。
しかし、原初の巨人ユミルは、霜の巨人を嫌ったオーディンらに殺されてしまう。そのうえ、大多数の霜の巨人たちも巻き添えとなり、死亡してしまった。
その後オーディンらは、ユミルの身体を素材として世界を創造しはじめる。彼らはユミルの血肉はもちろん、毛髪、骨、脳、まつ毛まで余すところなく使い、人間の世界ミッドガルドと巨人の世界ヨトゥンヘイム、神々の世界アスガルドを創りあげた。
◇北欧神話ガイド③主神オーディン
原初の巨人ユミルを倒し、その身体を使って新たな世界を創造したオーディン。北欧神話の主神であるオーディンの名は、現代でもよく知られています。
オーディンとは、一体どのような神なのでしょうか。彼の素顔に迫ります。
・オーディンの役割と性格、外見
オーディンは北欧神話の主神であると同時に、戦争と死の神としても崇められていました。また、ルーン文字の秘密を司る呪術の神、知識が豊富で詩芸に長けた知識と詩芸の神という側面もあります。
長い髭をたくわえた片目の老人として描かれることが多く、魔法の槍グングニルを持っています。
性格は、とても移り気で気まま。戦争の神であるオーディンの加護を授かったにもかかわらず、気まぐれな彼のお陰で不幸な結末を迎えた者もいました。さらに、オーディンは何に対しても貪欲で、欲しいもののためなら手段を選ばない性格でもあります。そのため、彼の策略や裏切りを受けた部下たちが悲惨な目に遭うこともありました。
また、オーディンには、多くの女性たちの間を渡り歩く「プレイボーイ」のような一面もあります。フリッグという正妻がありながら、オーディンの子とされる神々の多くは、彼女との間の子ではありません。しかし、オーディンは女性たちに恋をしていたわけではないようです。女性たちは彼に利用されただけであったり、ただの遊び相手としか見られていなかったりと、おおむね不幸な目に遭っています。一方で、オーディンがめずらしく特別な感情を抱いた巨人ビリングの娘には上手に逃げられてしまい、関係をもつに至りませんでした。
オーディンとはどういう神か。役割と意外な女性遍歴
・オーディンの旅と知恵の泉
世界創造の後、オーディンは世界中を旅して回りました。なぜなら、オーディンらが原初の巨人ユミルを殺害し、多くの巨人たちが巻き添えになり死亡してしまったことで、生き残った巨人たちが神々を恨むようになっていたためです。オーディンは巨人たちとの戦いを見据え、また己の知識欲を満たすために旅に出たのでした。
オーディンの知識欲はとどまるところを知らず、特に有名なのが知恵の泉でのエピソードです。
その水を一口飲むだけ優れた知識が得られるという知恵の泉にやってきたオーディンは、泉の番人である巨人ミーミルに会いました。そこで彼は、自分の片目を差し出し、引き換えに水を飲ませてもらうのです。
その後もオーディンは旅を続けますが、神々が破滅するという予言を受けたこともあり、ますます手段を選ばない性格となっていきました。
【図解】北欧神話「オーディンの旅」
・ルーン文字の発明
オーディンは北欧神話の主神ですが、最初から万能だったわけではありません。旅をして知識をたくわえ、努力を重ねて成長していった神でした。その努力の中で発明したとされるのが、ゲームや漫画などでもよく使われる「ルーン文字」です。
魔術師でもあったオーディンは、女神フレイヤから主に呪歌や呪文による魔術の手ほどきを受けました。オーディンは自分自身を生贄にし、自分自身に祈りを捧げてさらなる力を求め、ルーンとその秘法を習得します。
ルーン文字にはそれぞれ固有の意味があり、正しく刻めば、たった一文字で絶大な力を発揮する魔術でした。それらはオーディン自身によって人間たちに伝えられたといわれています。
3〜14世紀ごろのゲルマン民族は実際にルーン文字を使用していて、木や骨、石碑、護符、武器など多くのものに刻まれていました。
魔力を秘めた「ルーン文字」とは
オーディンとは、一体どのような神なのでしょうか。彼の素顔に迫ります。
・オーディンの役割と性格、外見
オーディンは北欧神話の主神であると同時に、戦争と死の神としても崇められていました。また、ルーン文字の秘密を司る呪術の神、知識が豊富で詩芸に長けた知識と詩芸の神という側面もあります。
長い髭をたくわえた片目の老人として描かれることが多く、魔法の槍グングニルを持っています。
性格は、とても移り気で気まま。戦争の神であるオーディンの加護を授かったにもかかわらず、気まぐれな彼のお陰で不幸な結末を迎えた者もいました。さらに、オーディンは何に対しても貪欲で、欲しいもののためなら手段を選ばない性格でもあります。そのため、彼の策略や裏切りを受けた部下たちが悲惨な目に遭うこともありました。
また、オーディンには、多くの女性たちの間を渡り歩く「プレイボーイ」のような一面もあります。フリッグという正妻がありながら、オーディンの子とされる神々の多くは、彼女との間の子ではありません。しかし、オーディンは女性たちに恋をしていたわけではないようです。女性たちは彼に利用されただけであったり、ただの遊び相手としか見られていなかったりと、おおむね不幸な目に遭っています。一方で、オーディンがめずらしく特別な感情を抱いた巨人ビリングの娘には上手に逃げられてしまい、関係をもつに至りませんでした。
オーディンとはどういう神か。役割と意外な女性遍歴
・オーディンの旅と知恵の泉
世界創造の後、オーディンは世界中を旅して回りました。なぜなら、オーディンらが原初の巨人ユミルを殺害し、多くの巨人たちが巻き添えになり死亡してしまったことで、生き残った巨人たちが神々を恨むようになっていたためです。オーディンは巨人たちとの戦いを見据え、また己の知識欲を満たすために旅に出たのでした。
オーディンの知識欲はとどまるところを知らず、特に有名なのが知恵の泉でのエピソードです。
その水を一口飲むだけ優れた知識が得られるという知恵の泉にやってきたオーディンは、泉の番人である巨人ミーミルに会いました。そこで彼は、自分の片目を差し出し、引き換えに水を飲ませてもらうのです。
その後もオーディンは旅を続けますが、神々が破滅するという予言を受けたこともあり、ますます手段を選ばない性格となっていきました。
【図解】北欧神話「オーディンの旅」
・ルーン文字の発明
オーディンは北欧神話の主神ですが、最初から万能だったわけではありません。旅をして知識をたくわえ、努力を重ねて成長していった神でした。その努力の中で発明したとされるのが、ゲームや漫画などでもよく使われる「ルーン文字」です。
魔術師でもあったオーディンは、女神フレイヤから主に呪歌や呪文による魔術の手ほどきを受けました。オーディンは自分自身を生贄にし、自分自身に祈りを捧げてさらなる力を求め、ルーンとその秘法を習得します。
ルーン文字にはそれぞれ固有の意味があり、正しく刻めば、たった一文字で絶大な力を発揮する魔術でした。それらはオーディン自身によって人間たちに伝えられたといわれています。
3〜14世紀ごろのゲルマン民族は実際にルーン文字を使用していて、木や骨、石碑、護符、武器など多くのものに刻まれていました。
魔力を秘めた「ルーン文字」とは
数々の女性と関係し、浮名を流す北欧神話の主神・オーディン。その正妻であるフリッグは、どのような女神だったのでしょうか。
フリッグもまた、夫のオーディンと同様に人間の運命を知る能力を持った高位の女神です。また、フリッグの名はFriday(金曜日)の語源にもなりました。フリッグは豊穣の女神として信仰されていたほか、女性のお産を司る女神でもあります。
フリッグに仕える女神たちもまた、様々な役割をもっていました。中には、フリッグの陰謀に加担することもあった侍女のフッラなど、彼女と特別な関係にあった女神もいます。
また、フリッグはオーディンの兄弟や父であるフィヨルギュンと男女の仲になったり、自身の欲望を叶えるためなら夫以外の男性と関係をもつこともあったりと、なかなかの男性遍歴をもつ女性だったようです。夫のオーディンに黙って付き従うタイプでもなく、夫婦で対立した時には、夫を陥れたうえに拷問を受けるよう仕向けていたりもします。
しかし、息子のバルドルに対しては、愛情深く良き母親だったようです。死を予言された息子を救うため、フリッグは世界を巡って対策を行いました。そして、その甲斐なく息子が命を落としてしまった後も、フリッグは何とか息子を地上に呼び戻すべく必死に奔走するのです。
良き母だけど欲深い女性 オーディンの妻フリッグ
◇北欧神話ガイド⑤悪神ロキ
北欧神話きっての悪神といえば、奸智と悪意の神ロキです。ロキはアース神族と敵対する巨人族の出身ですが、主神オーディンの義兄弟として神々の一員になりました。
ロキは自由に姿を変えることができ、悪知恵が働くひねくれ者。おまけに悪口も多い。雷神トールの妻の髪を悪戯で丸刈りにしてしまったり、女神イズンを騙して巨人に攫わせたり、とにかく行きすぎた悪戯をする神でした。
しかし、他の神々にとってロキは、ただ不利益をもたらすだけの存在ではなかったようです。悪戯のお詫びとしてロキが贈った品物は神々の宝物として大切にされていたほか、ロキの悪知恵によって神々が救われたこともありました。
ところが、ある日ロキはオーディンの息子ホズをそそのかし、ホズの兄であるバルドルを殺害させます。その頃からロキは、神々に対して露骨な敵意をみせるようになりました。そして、彼は子供たちともどもオーディンに捕らえられ、幽閉されてしまったのです。
北欧神話のトリックスター 悪神ロキの素顔に迫る!
◇北欧神話ガイド⑥英雄シグルズ
ワーグナーの歌劇に登場する「ジークフリート」の原型となった、北欧神話の英雄シグルズ。名剣グラムを手に竜退治を成功させたシグルズですが、人間関係にはあまり恵まれなかったようです。
シグルズは生まれる前に父を亡くし、養父レギンのもとで英雄として必要な素養を身につけました。名剣グラムをつくらせたのもレギンです。しかし、レギンが養父となったのは、竜に姿を変えた自身の兄ファーヴニルをシグルズに倒させるためでした。レギンは、兄ファーヴニルがもつ黄金を狙っていたのです。
シグルズは無事にファーヴニル退治を終えますが、レギンの思惑や彼が自分を裏切ろうとしていることに気づきました。そして、自身の手で養父の首を刎ねたのです。
その後も、シグルズの悲劇は続きます。旅に出たシグルズは、美しく戦好きのワルキューレ・ブリュンヒルデ(ブリュンヒルド)と出会い、結婚の約束を交わしました。ところが、ギューキ王の妃・グリームヒルドによって薬入りの酒を飲まされたシグルズは、なんとブリュンヒルデを忘れ、グリームヒルドの娘であるグズルーンと結婚してしまったのです。
さらにシグルズは、グリームヒルドの息子であり義理の兄のグンナルに変装してブリュンヒルデのもとへ向かい、両者を結婚させる手伝いまでしました。しかし、後にそれがブリュンヒルデの知るところとなり、復讐としてシグルズは暗殺されてしまいます。そしてブリュンヒルデ自身もまた、シグルズの後を追って命を絶ちました。
北欧神話の英雄、シグルズの悲劇
◇北欧神話ガイド⑦ワルキューレ
シグルズとの悲恋の末に、自ら命を絶ったワルキューレ(ヴァルキュリア、ヴァルキリー)のブリュンヒルデ。北欧神話において、彼女らワルキューレはどのような役目を負っていたのでしょうか。
ワルキューレという呼び名は、「戦死者を選ぶ女」という意味の「ヴァルキュリア」が語源です。ワルキューレの仕事のひとつは、人間たちの戦場において死ぬべき運命の者の命を奪うこと。そして、その遺体をオーディンの館であるヴァルホル(ヴァルハラ)へと運ぶことも重要な仕事でした。
ヴァルホルに運ばれた戦死者たちは、神々と巨人との最終戦争・ラグナロクで神々とともに戦うため、ワルキューレたちのもてなしを受けながらその時を待つのです。
人間たちが戦争をしていない時、ワルキューレたちは機織りをして過ごしました。彼女らがつくる布にはオーディンの意志が織り込まれ、それによって次の戦争の勝者と敗者が決まるのです。
光り輝くワルキューレの仕事と恋愛
◇北欧神話ガイド⑧雷神トール
北欧神話の主神はオーディンですが、彼は神々の中で最強だったわけではありません。北欧神話において最強の神とされたのは、雷を操る赤髭の偉丈夫・雷神トールでした。
雷神トールはオーディンと女巨人ヨルズの間に生まれた子で、神々と人間の守護者です。トールは天候や農耕、子宝の神とされたほか、死者やルーンを清めるなど、さまざまな役割を担っていました。また、悪神ロキとともに東方へ遠征し、巨人との戦いで多くの成果をあげたのもトールです。
しかし、ロキの悪戯でトールが激怒したり、罠にはめられたりといったエピソードもあり、ふたりは仲が良かったとは言い難い関係でした。
とはいえ、ロキも悪戯ばかりしていたわけではありません。トールが持つ3つの宝のうちのひとつ「ミョルニルの槌」が巨人の王スリュムに盗まれたときは、ロキが機転をきかせてトールを助けたとされています。
女神フレイヤを花嫁によこすよう要求したスリュムに対し、トールが花嫁に、ロキが侍女に化けてミョルニルの槌を取り返しに行きました。しかし、トールはどうにも花嫁らしい振舞いができず、その度にロキがなんとかフォローして結婚式を進めます。最終的にふたりはミョルニルの槌の奪還に成功するのですが、それも相棒が悪知恵のはたらくロキであったからこそ、といえるでしょう。
最強の神が花嫁姿に?! 雷神トールの物語
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【書籍タダ読み】アース神族の雷神トール
◇北欧神話ガイド⑨男装の女戦士ヘルヴォール
ファンタジーもののゲームが好きな方なら、「魔剣ティルフィング(チュルフィング)」という名前を聞いたことがあるかもしれません。魔剣ティルフィングは北欧神話に登場する武器のひとつで、「ひとたび抜かれれば、必ず誰かの命を奪う。持ち主に勝利を与えるが、いつか持ち主の命を奪う」恐ろしい呪いがかけられていました。
ここでは、唯一その呪いから逃れることができた男装の女戦士ヘルヴォールについて解説します。
主神オーディンと古代の巨人族の血を引く英雄・アンガンチュールを父に、スウェーデン貴族を母にもつ女性・ヘルヴォール。父はヘルヴォールの誕生前に亡くなり、生前所持していた魔剣ティルフィングとともに埋葬されました。
時は流れ、美しい少女に成長したヘルヴォールは、父に似たのか非常におてんばだったようです。そして家を出た彼女は、父に憧れを抱き、男装して男名を名乗るようになりました。その後はヴァイキングとして冒険と戦いの日々を過ごし、船の首領まで上り詰めるほど活躍したそうです。やがてヘルヴォールは、亡き父が眠る古戦場の墓にたどりつき、父の亡霊から魔剣ティルフィングを受け継ぐことになりました。
本来なら、ここから魔剣ティルフィングの呪いが発動するはずです。しかし、ヘルヴォールはその呪いを受ける前にさっさと冒険生活から足を洗い、戦うこともやめてしまいました。そのおかげでしょうか。魔剣ティルフィングの呪いがヘルヴォールの命を奪うことはなかったようです。
男装の女戦士ヘルヴォールと魔剣ティルフィング
◇北欧神話ガイド⑩貴公子フレイと巨人族の娘ゲルズ
北欧神話には、悲しい結末を迎えるものから幸福なものまで、恋愛や結婚に関するさまざまなエピソードが描かれています。たとえ神の地位にあっても、恋に落ちれば盲目になってしまうものなのでしょうか。容姿が美しく強い力をもつ豊穣神フレイは、巨人族の娘ゲルズに恋をしたばかりに、自分の命を失う羽目になってします。
フレイとゲルズの結婚にまつわるエピソードは、フレイがこっそりオーディンの玉座に座り、巨人族が住む世界ヨトゥンヘイムを覗いていたところから始まります。そのとき目にしたのが、「あらゆる女性の中でもっとも美しい」とされる巨人族の女性ゲルズでした。
ゲルズに恋してしまったフレイは、幼馴染の従者スキールニルにそのことを話します。するとスキールニルは、フレイの愛剣と愛馬を譲ってくれるなら恋のキューピッド役を買ってでよう、と提案しました。フレイは、その提案を受けます。
ヨトゥンヘイムへ行ったスキールニルは、フレイに全く興味がないゲルズに対し、手を変え品を変えアプローチしました。最終的にはゲルズを脅迫する有様でしたが、何とかフレイとゲルズを結婚させることに成功します。
しかし、ふたりの間に子供が生まれた後、神々と巨人族の最終戦争ラグナログが勃発しました。フレイの手元には、すでに愛剣も愛馬もありません。
結婚と引き換えに戦う術を失ったフレイは、ラグナロクにおいてアッサリと命を落としてしまったのです。
フレイとゲルズの究極の選択
◇北欧神話ガイド⑪女巨人スカディ
容姿の美しい巨人族の女性といえば、「神々の麗しの花嫁」と称されたスカディ(スカジ)も有名です。スカディはスキーの女神とも言われる巨人の娘で、悪神ロキの元恋人でもありました。
あるとき、スカディの父が神々によって殺害されてしまい、彼女は復讐心を燃え上がらせます。行動力のあるスカディは、ひとりのお供も連れず、神々の世界アスガルドに乗り込んでいきました。
そんな彼女を見て、神々は和解案を提示します。しかし、提示された条件で満足できなかったスカディは、神々に対して自分の要求もぶつけました。そうして出来あがった和解条件は、「元恋人ロキの滑稽な見世物」「足だけを見て選んだ神との結婚」「焼け残った父の目を天の星にする」の3つでした。
スカディは美青年の神と結婚したかったのですが、足だけでは判別できず、ニョルズという別の神との結婚が決まります。父の目も無事に天の星になりました。そして元恋人のロキは、陰嚢に紐を結んで山羊と引っ張り合う見世物を披露してスカディを笑わせます。ロキにとっては災難だったかもしれませんが、効果はてきめん。ひとしきり笑い、スカディの復讐心はすっかり晴れたようです。
【図解】麗しの女巨人スカディの一生
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