【夏のホラー企画!ディオダディ荘の怪奇談義】
これはA-9さんから寄せられた、不思議な衣装ケースの話です。
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みんなが多分そうであるように、私の家にはいくつもの衣裳ケースがあり、衣類の整理や趣味のコレクション収納に活用している。
しかし、押し入れの奥に置かれた黒い衣裳ケースだけは手を付けられずにいた。
これは、いなくなった母が残していったものだ。
使えるものなら使いたいが、引き出しの四隅を黒いテープで塞がれており、真っ黒だから何が中に入っているかも分からない。
きっと見てはいけないものだろう。私は母の記憶からも目をそらすように、この黒い衣裳ケースを放置していた。
だが近頃、家が手狭になったこともあり、私はこれと向き合う決意を固めた。
念のため、霊感があるという友人を招いて万が一に備え、押し入れの黒い衣裳ケースに手を伸ばす。
力を入れて持ち上げる。が、想像していたよりもずっと軽い。
中で固いものがカタカタと動く音がすると、友人は「なんだか嫌な感じがする」と眉をひそめた。
四隅のテープを剥がし、友人と頷き合うと、ゆっくり引き出しを開ける。
その中身は、ほとんど空で、壊れた金具のようなものが入っているだけだった。
私たちは安心すると共に、拍子抜けもした。
友人に確認しても「ここに霊的なものは感じない」と言う。
母は、壊れた衣裳ケースを捨てようとしていただけだったのだ。
確かに、金具が壊れているためか、一度開けた引き出しがうまく閉まらない。
友人は緊張が解けたせいか「気分が悪くなった」と、私に背を向けて玄関へと向かおうとする。
その時、私は気が付いてしまった。
しばらくして、一人になった私は黒い衣裳ケースに再びテープで封をする。
やっぱり、まだ使えるじゃないか。
力を入れて持ち上げ、押し入れの奥へと戻す。
黒い衣裳ケースは想像した通りの重さになっていた。