先日掲載された緒方裕梨さんの1コマ漫画「古代エジプトの食」では、古代エジプトで食べられていた肉や魚、野菜が紹介されていました。今回はさらに詳しく、古代エジプトの食文化をまとめてご紹介しましょう。
目次
古代エジプトの食①形も味も色々あったパン
エジプトの人々はパンが大好きで、紀元前のはるか昔からさまざまな種類のパンを作っていました。
そこで、まずはエジプトでのパンの歴史を簡単にご紹介しましょう。
・円錐の型に入れて作る無酵母パンが普及。
・かまどが発明されると、王宮やパン工房では発酵パンが作られるようになった。
【当時あったパンの例】
・円錐型に入れて作る無酵母パン、かまどに貼り付けて焼く平らなパンなど。
・香料・ハーブ・蜂蜜入りパンも。
かまどが発明される前まで、エジプトでは円錐型に入れて作った無酵母パンが主流でした。かまどが誕生してからも、家庭ではそれまでと変わらず無発酵のパンが作られ続けます。
一方、王宮やパン工房では手間のかかる発酵パンが作られていました。
・原料が大麦→小麦に変わる。
・トウモロコシに似た植物や栗を原料にすることもあった。
【当時あったパンの例】
・螺旋状のパン、ガチョウや牛の形をした型抜きパン、三角形のパンなど。
・神殿では祭祀用のパン、魔術に使われるパンの人形。
・儀式・埋葬用のパンの模型。
・祭りの時に使う動物形のパン(貧民が生贄の代用品として供える)。
新王国時代になり繁栄を極めたエジプトでは、パンの原料が大麦から小麦に変わり、パンの形にも凝るようになります。
神殿内には製パン・製菓所が設けられ、それぞれの神の好物を材料にした祭祀用のパンや、儀式・埋葬用にパンの模型などが作られました。
貧民の間では祭りの時に捧げる生贄の代用品として、動物形のパンなども利用されています。庶民の間では神聖な形である三角型のパンが人気でした。
・神殿の聖牛に食べさせるためにパンが作られる。
【当時あったパンの例】
・卵、ミルク、バター入りのパン
・薬草を混ぜた薬用パン
エジプト最後期になると、神殿で飼われている聖牛のためにわざわざパンを焼くようになります。
また、薬草やさまざまな材料を混ぜて作った薬用パンも食べられていました。当時は薬用パンに含まれる各種の薬草が病気やケガを治すと信じられていたのです。
【薬用パンのレシピ~『医術の本』(紀元前2世紀)より~】
・痛み止め:ネズの樹脂+新しいビールまたは甘いビール
・下剤:ガチョウの脂肪+蜂蜜+ウリ科の植物
・ヤケド:塩+油+大麦
・抜け毛・フケ:すっぱい小麦
古代エジプトの食②肉はごちそう・魚は庶民向け
続いて肉と魚についても簡単にまとめてご紹介しましょう。
○食べられていたもの
牛、羊、ヤギ、ガチョウ、ウズラ、カモ、鳩、ペリカン、カモシカ、ハイエナなど
×タブーとされたもの
豚、牡ヤギ
古代エジプトでは肉はごちそうで、神への捧げ物や客人へのもてなし用として供されていました。家畜から野生動物まで幅広く食べていましたが、豚や牡ヤギは不浄とされ、生贄として神殿に持ち込むことを禁止されていました。
肉類は塩漬けや油漬けにしたり、ブラッドソーセージにするなどして食べています。また牛、ヤギ、ロバなどからはチーズやバターなどの乳製品も作られていました。
*地中海沿岸部で獲れる魚
スズキ、ボラ、エビ、カニ、フグ
*ナイル川で獲れる魚
コイ、ナマズ、カワハゼ、ウナギ、サカサナマズ
魚類は主に庶民の食べ物で、上流階級ではそれほど多くは食べられていません。また神官たちは宗教上のタブーや生臭さから、魚を全く食べませんでした。
地中海沿岸部の他、ナイル川も漁場になっています。灌漑用のため池では養殖も行われていました。
古代エジプトの人々は、スズキやボラ、エビやカニ、フグ、コイ、ナマズ、カワハゼ、ウナギなどを焼いたり日干しや塩漬けにして食べています。貝やタコ、イカは好まれませんでした。
古代エジプトの食③パピルスも?! 野菜と果物
ナイル川下流は肥沃なデルタ(三角州)地帯になっており、たくさんの野菜が作られています。
*古代エジプトで作られていた主な野菜・果物
・タマネギ、ニラ、ニンニク、ラディッシュ、キャベツ、キュウリ、カボチャ、セロリ、ヒョウタン、スベリヒユ、レンコン、スイカ、メロン、パピルス
・ヒヨコマメ、ソラマメ、レンズマメ
・ナツメヤシ、イチジク
古代エジプトで盛んに栽培されていたのは、タマネギ、ニラ、ニンニク、ラディッシュです。また、大雑把に分類すると中流階級は瓜類、貧民たちは豆類もよく食べていました。
変わった食材にはパピルスがあります。紙の原料として知られるパピルスですが、糖分や油分が豊富なため、当時の人々は生のままか加熱して食べていました。
*その他、当時食べられていた野菜・果物
・パセリ
・ザクロ、リンゴ、オリーブ、ブドウ
栽培していたわけではないけれどよく食べていた食材として、パセリや果物類が挙げられます。古代エジプトの人々は郊外に自生しているパセリを「砂漠のセロリ」と呼んでよく食べていました。また、ザクロやリンゴ、オリーブ、ブドウは海外からの輸入品でした。
エジプトというと砂漠ばかりで何も育たないのではと思う方もいるかもしれませんが、実際にはナイル川周辺を中心に肥沃な大地が広がり、人々は様々な野菜を育てていました。さらにパピルスやペリカン、ハイエナなど、現代の私たちがギョッとしてしまうようなものも食べています。古代エジプトの食、本当に奥が深いですね!
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◎参考書籍
食の歴史
著者:高平鳴海