夏といえば海! 今年の夏も泳いだり砂遊びをしたりして楽しい思い出を作ろうと計画している方も多いのではないでしょうか。でもちょっと待ってください! 日本では昔から、海には恐ろしい妖怪がいると考えられてきました。
そこで今回は、海に行く前に知っておきたい妖怪の情報をお伝えします。
目次
海の妖怪①イメージと違う?! 人魚
海といえば人魚。ヨーロッパのおとぎ話に登場するイメージがありますが、実は人魚の伝説は日本にも古くから残されています。
*想像と違う?! 日本の人魚*
・上半身は人間、下半身は魚の姿。
・赤色または黒混じりの赤色の長い髪、左右がつながった眉毛、猿のように突き出た口、魚のように細い歯を持つ。
・手には水かきがあり、肌は青白く、腰から下の鱗は金色。身体からは良い香りが漂い、耳に快く響く声をしている。
人魚といえば上半身は美しい女性、下半身は魚の姿というイメージですが、日本に伝わる人魚の姿はそれとはだいぶ異なっているようです。
『諸国里人談』『甲子夜話』『和漢三才図会』などによると、日本の人魚も上半身は女性、下半身は魚の姿をしているものの、その顔つきは少々独特で、左右がつながった眉毛に猿のように突き出た口、魚のように細い歯を持つとされています。
さらに、青白い肌に赤色の髪、水かきのついた手をしていて、腰から下の鱗は金色に光り、身体からは深くて良い香りが漂い、人間のようだが雲雀笛か鹿の声のように耳に快い声をしていると考えられていました。
人魚はたいてい海に棲んでいますが、時には川や湖で見つかることもあります。北海道から沖縄まで日本各地に棲息し、古くは『日本書紀』にも推古天皇の時代(619年)に摂津国(現在の大阪府)で人魚が漁師の網にかかった話が残されています。
漁師の網にかかった人魚は海に返してやるのがしきたりでした。殺したりその肉を食べたりすると祟りがあるといいますが、人魚の肉を食べると長生きや若返りができるとも言われていました。
人魚の肉を食べて800歳まで生きたという八尾比丘尼の伝説をご紹介しましょう。
八尾比丘尼は子どもの頃、父親の秦道満が佐渡で異人から手に入れた人魚の肉を食べたことがきっかけで、千年もの寿命と若いままの容姿を手に入れます。
彼女はやがて尼となり、日本中を巡礼しました。旅の途中では源義経や弁慶らにも出会っています。千年の寿命のうち200年は国主に譲り、自分は若狭国(現在の福井県)で800歳まで生きたということです。
海の妖怪②柄杓に注意! 船幽霊
海に出るのは人魚だけではありません。海で亡くなり成仏できなかった者が怨霊となって襲ってくることもあります。
*海によく出る! 船幽霊とは?*
・雨の日、新月や満月の日によく現れる海の怨霊で、集団で船に乗ってやって来る。
・目的はこちらの船を沈没させ、生きている人を自分たちの仲間にすること。
・光を放ちながらものすごい速さでやって来るので、逃げ切れない。
・追いつくと「杓をくれ」と一斉に叫ぶ。この時、底が抜けた柄杓を渡せば助かることができる。
船幽霊は船に乗って現れる集団幽霊です。新月や満月、雨の日などによく現れ、光を放ちながらものすごいスピードでこちらに近づいて来るため、逃げ切ることは不可能です。追いつかれると、船幽霊たちはこちらの船に手を掛けて乗り込もうとしながら「杓をくれ、杓をくれ」と叫びます。
この時、必ず底が抜けた柄杓を渡さなければなりません。普通の柄杓を渡してしまうと、船幽霊たちは柄杓で海水をすくって船の中に入れ、船を沈めて生きている人を自分たちの仲間に引き入れようとするのです。
もし底が抜けた柄杓を渡すことができれば、船幽霊たちはいくら頑張っても船を沈められず、やがて諦めて去っていくでしょう。
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海の妖怪③寂しがり屋の亡者船
船幽霊と似た霊に、「亡者船」があります。
*お盆になると現れる! 亡者船とは?*
・船に乗った幽霊の集団で、お盆の中でも月が出ている夜によく現れる。
・目的は家族や友人に会うこと。
・こちらから「おーい」と声を掛けると返事がある。
・近づいて来た時に「引き綱をよこせ!」と叫ぶとふっと消えてしまう。
亡者船は船幽霊とは違い、家族や友人に会いにやって来る害のない幽霊です。お盆、特に月が出ている夜になると、沖から櫂を漕ぐ音が聞こえてきます。しかし音がするだけでなかなか近づいて来ないので、こちらから「おーい!」と声を掛けると「おーい!」と返って来ます。
やがて船が少しずつこちらへ向かってくるので「引き綱をよこせ!」と声を掛けると、途端に船はふっと消えてしまいます。この時初めて、船が亡者船だったことに気付くのです。
海の妖怪④巨人のような海坊主
人魚や幽霊だけでなく、海にはちょっと変わった妖怪も出没します。
*海坊主ってどんな妖怪?*
・広い海に突然現れる巨人のような妖怪。
・頭だけで数メートルある。全身真っ黒で両目だけ朱く、口は耳まで裂けている。
・船乗りの声を聞くと、その者の船を転覆させてしまう。
・正体は船幽霊、竜宮の住人、巨大な蛸、トド、大風など諸説あり。
海坊主は海の上に突然現れる妖怪です。頭だけで数メートルある巨人のような妖怪で、身体の大部分は海の中にありますが、海上を立って船よりも速いスピードで歩くこともあります。全身真っ黒で朱い目と耳まで裂けた口が特徴的ですが、中には顔の判別がつかない海坊主もいるといいます。
海坊主は船乗りたちから大変恐れられています。船乗りたちの声が海坊主に聞こえてしまうと、船を転覆させられてしまうからです。そのため船乗りたちは海坊主に会うと声をひそめて海坊主をやりすごしていました。
海坊主の正体は船幽霊(海で死んだ者の霊が寄り集まったもの)、竜宮の住人、巨大な蛸、トド、大風など諸説あり、はっきりしていません。
海坊主の伝説は全国各地にあります。
千葉県に伝わる海坊主は大みそかの晩に現れ、漁船に「お前が恐いものは何だ?」と尋ねてきます。「自分の船稼業だ」と答えると姿を消すということです。
また福井県の若狭湾に出る海坊主は「入亀入道」と呼ばれていて、海亀の姿をしていますが顔だけ人間で、目撃しただけで祟りに遭うといわれています。
日本全国の海によく現れる妖怪をご紹介しました。出会ってしまったらさあ大変! この夏海に出掛ける時はどうかご注意ください!
◇参考書籍
『幻想世界の住人たちⅣ』 |