パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる、聞きかじり防具コラムが連載スタート!
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
ガントレットの登場と手を守る理由
――初期に腕を守る防具として登場したのは、紀元前3世紀頃にの剣闘士が腕に布やチェーン・メイル、板金を巻きつけた“マニカ”でしょう。
これは剣を持つ側の腕にだけ付ける装備で、盾を持つ側の腕には付けませんでした。武器を振る腕を守る盾の一種という感覚だったからです。
1世紀頃になり、ローマ軍の装備としても採用されたマニカは、鎧と同様曲げた板金を重ねた構造で、腕を曲げるのに支障が無いように作られていました。
――武器を握って振り回す必要がある以上、指や腕の可動範囲を狭めるのは避けたいのが戦う者の心情です。
胴体を守る鎧に比べて腕の防具は可動部分がはるかに多くなるので、服のように自在に加工できるチェーン・メイルを伸ばす形で手の甲をカバーするようになったのは当然でした。
しかし、チェーン・メイルも手の平や指を守るところまでは進歩しませんでした。
そんなわけないでしょ。
2世紀ごろに帝政ローマで使用された初期のチェーン・メイル『ロリカ・ハマタ』だって、輪っか一つの直径が5ミリから10ミリ。
時代が下って10世紀ごろに作られたチェーン・メイルなんて素材不足が響いて10ミリから30ミリのリングで構成されていたのよ?
2世紀ごろに帝政ローマで使用された初期のチェーン・メイル『ロリカ・ハマタ』だって、輪っか一つの直径が5ミリから10ミリ。
時代が下って10世紀ごろに作られたチェーン・メイルなんて素材不足が響いて10ミリから30ミリのリングで構成されていたのよ?
――握り込む手の内側に鉄幹があると、隙間に手の皮や肉を挟んでしまう可能性もあります。
しっかりと武器を握りしめておかねばならない状況にあって、余計なものが手の中に大量にあるのは不便でしかありません。
こうした理由で、手袋を下に着けたとしても、チェーン・メイルが指先までを保護する防具として採用されることはありませんでした。
――本格的な手指の防具として、“ミトン”がまず登場します。
14世紀頃から登場したブリガンダインというチェーン・メイルの上に重ねて付けるプレートアーマーの一種があり、その一部として作られました。
親指だけが独立した、料理で熱いものを持つときに使う“ミトン”のようなデザインの籠手が付き、肘から先全体を覆う可動式の防具として一般化されたのです。
この頃からプレート・メイルが広まり、パーツがどんどん細分化されて可動部分が増えていく中で、籠手も進化していくのです。
ミラノ式と呼ばれる種類のプレートアーマーがあって、それがミトンタイプの籠手を採用したのよ。
武器を握って振るうだけの目的であればそれで充分だって考えられたみたいで、一般的に広まった全身鎧ではこれが基本的な構造になっていくのよ。剣道の籠手と形は同じね。
武器を握って振るうだけの目的であればそれで充分だって考えられたみたいで、一般的に広まった全身鎧ではこれが基本的な構造になっていくのよ。剣道の籠手と形は同じね。
――プレートアーマーは基本的に高価なものでしたが、チェーン・メイルほど細かな加工が必要ではなかったこともあって、ミラノ式の曲面が多くパーツや装飾が少ないタイプのものは広く使用されるようになりました。
使うのは騎乗で戦う貴族が中心ではありましたが、下級の者でも使用できる程度の価格帯ではあったようです。
布手袋の外側にプレートを張り合わせる形で作られるミトンタイプの籠手は、指の独立性は失われますが、武器を握った手を刃物から守るには充分な防御性能がありました。
――冷鍛により強度を保ったまま薄く加工し、軽量化に成功したゴシック式プレートアーマーは、シャープなデザインと実用性を兼ね備えた大ヒット防具となりました。
しかし価格はブリガンダインやミラノ式に比べて非常に高価になり、パーツが増えた分手入れも難しくなりました。
結果として裕福な貴族たち専用の防具となり、華美な装飾が施されるようになります。
――ガントレットは、プレートアーマー本体と同様に防御性能と合わせてデザイン性も求められる防具となっていきます。
先述のゴシック式はシャープなデザインが特徴ですが、基本デザインに沿ってガントレットも指先が鋭く尖ったものが多く作られました。
ただ全体的な構造は様々で、前腕から手の甲までを大きく覆うものや、パーツ数を増やして手首や指の自由度を増したものなどがあります。
――こうして、ガントレットは全身鎧を構成するパーツの中でも、特に精緻に作られたものの一つとして名が残りました。
しかし、手に持って身を守る盾に比べて、手先を守る防具は世界的にも歴史的にもあまり多くはありません。
腕を覆う防具はありますが、指先まで守るグローブ状のものは少ないのです。
現代においては銃器を扱うのにグローブよりも分厚い防具はかえって邪魔になるという理由もあります。
固い防具を殴るための武器を振り回すのであればガントレットをしていても問題ないのだけれど、剣や弓のように、手首の動きが重要だったり指先の繊細な動きが必要だったりすると、やっぱり指は露出しているか、薄い手袋くらいじゃないと不便なのよね。
普段から装着しているってわけにもいかないし、携行するにも邪魔だしな。
要するに、ガントレットは極論として集団戦で不意に手に攻撃を受ける可能性がある場合に有効で、そうじゃないときには使い勝手は悪いってことか。
要するに、ガントレットは極論として集団戦で不意に手に攻撃を受ける可能性がある場合に有効で、そうじゃないときには使い勝手は悪いってことか。
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「ルリちゃんの聞きかじり武器講座」 |
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
【熊公】
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
◇参考書籍
『図解 防具の歴史』
著者:高平鳴海
イラスト:福地貴子
>書籍はこちら
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。