ファンタジー小説や漫画を創作する際、中世ヨーロッパを舞台にしたり参考にしたりするという方は多いと思います。ですが、当時は存在しなかった食べ物をうっかり作中に登場させてしまい、冷や汗をかいたことがあるという方もいるのではないでしょうか。
そこで今回はヨーロッパにいつどんな食材が新しく入ってきたのか、ざっくりまとめてご紹介します。
目次
古代~中世ヨーロッパでよく食べられていたもの
まずは中世ヨーロッパでよく食べられていた食材をご紹介しましょう。
※ここで取り上げるものは一例であり、地域や時代によって異なる場合もあります。ご了承ください。
*穀類
小麦、大麦、ライ麦、エンバク、スペルト麦、キビ、モロコシ
→メインは小麦ですが、北方の人々はキビを好み、小麦を売ってオートミール(ミルク粥)などを食べていました。
*野菜類
・カブ、キャベツ、レタス、大根、サラダ菜、ニンジン、ラディッシュ、タマネギ、ニンニク、フェンネル、イラクサ、アザミ、スイバ、ヒョウタンの近似種 など
・ソバ、エンドウ豆・そら豆などの豆類=穀物の代用
→当時は野菜と雑草の区別があいまいで、毒がなければ何でも生か煮て食べています。
*果物
リンゴ、梨、サクランボ、プラム、桃、イチジク、アンズ など
*肉類
・家畜:豚、牛、鶏、ヤギ、羊、ガチョウ、家鴨、鳩 など
・野獣:鹿、野ウサギ、イノシシ、ヘラジカ、アンテロープ、野羊、野ヤギ、熊、大型・小型の鳥類、コウノトリ、カワウソ、ビーバー など
*魚類
・一般庶民向け:ニシン、タラ など
・王侯貴族向け:チョウザメ、メルルーサ、鯨、マグロ、メカジキ、ウナギ、牡蠣、アザラシ など
→16~17世紀になると食の意識改革が起こり、美味ではない鳥獣類や鯨などは食べられなくなりました。
*香辛料
・ハーブ:パセリ、セージ、ローズマリー、カミツレ、マヨラナ など
・生姜、カラシ、月桂樹の葉、オレンジの皮 など
11世紀(十字軍遠征)~イスラム圏経由で伝わった食べ物
11世紀に十字軍遠征が始まると、ヨーロッパにイスラム圏の食材が流入し始めます。その中から主なものをご紹介しましょう。
*農産物
・ナス
・ホウレンソウ
・スイカ
・レモン
→これらの農産物は、十字軍の時代またはイスラム支配下にあったスペインやシチリア経由で順次流入しています。
*香辛料
・サフラン
→原産地はシリア。14世紀以降、スペインやイタリア、イギリスなどで栽培されるようになりました。
・シナモン(原産地:セイロン島)
・各種スパイス
*嗜好品
・コーヒー
→エチオピアのカファ地方からアラブ圏に伝わり、さらに16世紀後半~17世紀にかけてヨーロッパへと持ち込まれました。
*調味料
・砂糖
→中世初期の頃はアラブ人が入植していたスペイン、シチリア、オリエント(近東)などで生産され、ベネチア経由で各国へ流通しましたが、大変高価だったといいます。
12~13世紀になると、十字軍は中東のサトウキビ畑を奪取することに成功します。しかしその後オスマン帝国に駆逐され、15世紀末には流通しなくなってしまいました。
しかし1419年以降、大西洋のマデイラ島やカナリア諸島で生産が始まり、高価ですが再び流通するようになりました。
15世紀(大航海時代)~新たに加わった食べ物
やがて大航海時代が幕を開けると、インドやアジアなどからヨーロッパに様々な食材が持ち込まれるようになります。さらに15世紀に入り新大陸との間の航路が発見されると、南北アメリカからも新たな食材が流入し始めました。
*農産物
・トウモロコシ
・トマト
→ペルーからイタリアに伝わり、最初は観賞用とされていました。ヨーロッパ全般には18世紀に普及したものの、北欧では19世紀まで食べられませんでした。
・トウガラシ
→スペイン・ポルトガルでのみ普及。
・パプリカ
→トルコ経由でハンガリーへ普及。
・インゲン
・ジャガイモ
・サツマイモ
・カボチャ
・落花生
*嗜好品
・煙草
・コカ
・カカオ
→16世紀にスペイン人が新大陸から持ち帰っています。1585年にヨーロッパに初陸揚げされたカカオは、とても高価でしたがまたたく間に売れたといいます。
・茶
→17世紀初頭、日本や中国から輸入されたお茶がポルトガルのリスボンで初めて飲まれたという記録があります。その後、フランス、イタリア、スペイン、英国、オランダなどに普及しました。
*香辛料
・各種スパイス
・胡椒
→大航海時代以前まで、胡椒は海洋貿易を支配していたイスラム商人によってヴェネツィアにもたらされ、ヨーロッパ各国へと運ばれていました。当初はとても高価でしたが、13~15世紀になると次第に値下がりしていきます。
大航海時代に入り、アフリカの喜望峰経由でヨーロッパとインドを結ぶ航路が発見されると、現地と直接取引されるようになりました。
作品の中に史実とは異なるものを登場させる時も、そうとは知らずに登場させてしまうよりも、知っていてあえて登場させる方が説得力のある描き方ができるのではないでしょうか。そんな時、今回ご紹介した内容が少しでもお役に立てれば幸いです。
◎参考書籍
『食の歴史』(高平鳴海 著)
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