フランス料理はいつからあるのでしょう? 大量のスパイスで味付けした肉を手づかみで食べていた中世の時代から、現代の洗練されたフランス料理へと変化したきっかけは何かあったのでしょうか?
今回は私たちがイメージする「フランス料理」の誕生についてお話します。
目次
中世ヨーロッパの料理の特徴
そもそも、中世ヨーロッパの宮廷で出されていた料理にはどんな特徴があるのでしょう?
*中世ヨーロッパ・宮廷料理の特徴*
・現代人が美味しいと思える料理の出現は15世紀から。
・味よりも量や色、香りが大切。
・味は甘味、辛味、酸味の3種類。
・砂糖が普及するのは14世紀から。
・肉中心。野菜はひと月に1~2回しか食べなかった。
中世の宮廷料理はとにかく量を重視しており、多ければ多いほどごちそうとされていました。量の次に重視されたのは料理の色や香りで、味はそれほど重要視されていません。
当時認められていた味は甘味、辛味、酸味の3種類です。現代とは味覚が違うため、現代の私たちが美味しいと思える料理が作られるようになったのは15世紀以降と考えられています。
料理は肉料理が中心で、焼いたりゆでたりした肉が塊のまま大量のスパイスなどで味付けされていました。人々はナイフで切り分けた後、手づかみで料理を食べています。
パンやワイン、豆のポタージュなどが付きますが、野菜類は好まれず、王侯貴族の間ではひと月に1~2回程度しか食べられませんでした。
14世紀~16世紀:変化のはじまり
こうした中世宮廷料理に変化が表れたのは14世紀のことです。
*14世紀~タイユヴァンの料理改革*
・赤ワインの評価を行い、社会に影響を与えた。
・タイユヴァンの登場は料理人の地位向上に繋がった。
フランスのフィリップ6世など3代の国王に仕えたタイユヴァン(本名ギヨーム・ティレル、1310~1395)は、料理人として料理体系の整備や調理の分業化を行います。
それまで料理人といえば身分が低い使用人でしたが、彼のような天才料理人の登場により、その地位は少しずつ向上し始めました。
中世の宮廷料理が次に大きく変化したのは16世紀のことです。
*16世紀~カトリーヌ・ド・メディチの嫁入り*
・イタリアの大富豪メディチ家からフランス国王に嫁ぐ。
→イタリアの食文化がフランスに流入。
・ジャム、砂糖菓子、ケーキ、氷菓子、トリュフ、料理にかけるソースが誕生。
1533年、イタリアの大富豪メディチ家から、カトリーヌ・ド・メディチがフランスのアンリ2世のもとへと嫁ぎます。これをきっかけに、イタリアの豊かな食文化がフランスへと流入しました。
王妃が開く晩餐会のおかげでフランス国王たちも美食に目覚めます。その結果、調理技術も劇的な進化を遂げ、ジャムや砂糖菓子、ケーキ、氷菓子、トリュフ、料理にかけるソースなどが誕生しました。
17世紀:宮廷料理の完成
17世紀、フランス宮廷料理(オートキュイジーヌ)はいよいよ完成形へと向かいます。
*17世紀~オートキュイジーヌ(宮廷料理)の完成*
・甘みと塩味を分け、酸味を控えめに。
・スパイスの大量使いをやめた。
・肉の塊を出すのをやめ、フライパンで少量焼き、肉汁を煮詰めてソースも作る。
・肉類を減らし、野菜類を増やした。
・料理を食べる順番も工夫。
17世紀になると貴族たちの間で美食ブームが巻き起こり、宮廷料理はさらなる進化を遂げます。
それまでのスパイスを使いすぎる味付けは敬遠されるようになり、ニンニクやタマネギ、パセリを使用し、肉汁を使ってソースも作るようになりました。また肉類を減らし、アーティーチョーク、アスパラガス、ハーブ、マッシュルームなど上品で珍しい野菜を食べるようになりました。
料理を食べる順番にも工夫がみられます。軽いものから順に食べることで、胃の負担を減らすことができました。
18世紀:近代フランス料理文化の確立
*18世紀~近代フランス料理文化の確立*
・ブルジョアが美食を研究し、フランス料理の文化を確立させる。
・料理人アントナン・カレームがフランス料理の基本となる4種のソースを考案。
・貴族たちのお抱え料理人が失業し、市街で店を開く。
→レストランの誕生。
18世紀末にフランス革命が起きると、貴族は没落し、ブルジョア(富裕な市民層)が社会の主役となります。彼らは美食の研究を引き継ぎ、地方の伝統料理を含めた近代フランス料理の文化を確立させました。この時代の有名料理人アントナン・カレームは、フランス料理の基本となる4種のソースや新型鍋を考案しています。
またこの時代、美食家たちは近隣諸国の食材や料理も取り込み、フランス流にアレンジするようになりました。こうした行為はフランス料理のブランド力向上につながりました。
さらに、フランス革命で貴族が減った結果、貴族たちのお抱え料理人は失業し、市街に出て店を開くようになります。こうして、それまで宮廷だけのものだったフルコース料理を庶民も食べられる「レストラン」が誕生しました。
私たちの知る「フランス料理」はこうして完成します。フランス料理の歴史は、フランスという国の歴史と密接に関わり合ってきました。料理を楽しむ時はこうした歴史を紐解いてみるのも素敵ですね。
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硬いパンが皿代わり! 中世ヨーロッパの食器事情
◇参考書籍
『図解 食の歴史』 |