PCはデータ・ブロックを知るか
前回、判定の難易度を提示するかどうかによるプレイの違いを述べた。今回は話題のもう半分、データ・ブロックを知らせるかどうかについて述べる。
D&D第5版では、クリーチャーのデータ・ブロックの内容(MM P.6~「データ・ブロック」)を直接に知るルールはない。
プレイヤーではなくプレイヤー・キャラクター(以降"PC")が初めて目にするモンスターについて、多くのダンジョン・マスター(以降"DM")は『モンスター・マニュアル』(以降"MM")のイラストや、ウェブの画像検索でヒットした画像の中から、PCが見ているクリーチャーの姿として相応しいものをプレイヤーに見せているだろう。ミニチュア資産が豊富なDMは、モンスターそのもののミニチュアを配置しているかもしれない。PCが見ている姿からわかることで、プレイヤーも対処を考えるのだ。
英語環境でも、"5E How to Handle Monster Knowledge Checks"(第5版 モンスターの知識についての判定はどう扱うのですか)とか、"Does D&D 5e have a rule for character knowledge about monsters?"(キャラクターのモンスターについての知識について、D&D第5版にはルールがありますか?)という質疑応答が、ウェブで検索するとヒットする。年月日を見ると英語版のリリースされたころから繰り返し問われていることがわかる。
D&D第5版は、UNEARTHED ARCANA での実験的・試験的ルール記事や意見の聴収から、そのフィックスしたオプションの紹介としての内容も含む『ザナサーの百科全書』などによって、実質的なアップデートが行われることがある。では、質問の多いモンスターについての知識判定のルールが提示されているだろうか。
まず技能判定のルールにはない。
かろうじて近いものとして、レンジャーのクラス特徴「得意な敵」に、「君は得意な敵を追跡するための【判断力】〈生存〉判定に有利を得る。また、得意な敵に関する情報を思い出すための【知力】判定にも有利を得る。」との記述あるだけだ。
【判断力】〈看破〉判定で嘘を見抜くとか、〈自然〉〈宗教〉〈魔法学〉〈歴史〉各技能のジャンルで、身についている知識を考慮してPCが思い出せそうなことを、DMがモンスターの身体的な特徴だったり能力だったり、といった形で提供する内容に限られる。
例えば、馬というクリーチャーが、どれくらいの速度で走り、どれだけの加重を積めるのか、といったことは、ゲーム世界の中でも教養として知見を得られるだろう。ありふれたモンスターであるゴブリンが、「素早い脱出」という"自分のターンごとにボーナス・アクションとして離脱アクションまたは隠れ身アクションを行なえる。"という「特徴」を持っていることは、学問的な情報として「ゴブリンはほかのクリーチャーよりも素早く逃げたり、身を隠す術をもつ生き物だ」とわかる、といったことはありえる。だがそれは、PCの目の前でシミターを振り上げているゴブリンの攻撃ボーナスの値を、PCが知るといったことではない。
では呪文ではどうか。思考、感情、心に占めているものごとを読み取る呪文はあるが、データ・ブロックを明らかにはしない。過去のバージョンで属性による呪文(「~・イーヴル・アンド・グッド」となっているプロテクション、ディスペル、ディテクトといった呪文)は、第5版では効果の対象をクリーチャーの種別によっているため、クリーチャー種別を無視して「あいつは属性が悪だから」というわけにはいかない。なお、悪行を成すのは属性が悪のクリーチャーであるのが基本だが、たとえばウォーターディープには、同市の法典に反することなく、都市警備隊に捕まったり突き出されたりもしないで、日々暮らしている「合法で属性が悪」の人々も少なくないはずだ(そして周囲から嫌われたり、憎まれたりしているのかもしれない)。属性の悪は程度により、身近にいても不思議ではない。そしてその中で、行動力を発揮した一部が実際の悪事に手を染めるのだ。
使われる呪文を識別するルールが『ザナサーの百科全書』P.85「呪文の識別」にオプション・ルールとして紹介されている。だが「発動されつつある呪文」か「発動された呪文」についてであり、術者のデータ・ブロックの呪文発動能力にある術者レベルや、どの呪文を使うと書いてあるかはわからない。
戦闘を通して判明することはある。DMが出目を隠さないオープン・ダイスでイニシアチブ判定を行っていて敏捷力修正値がわかるとか、PCの攻撃がヒットしたか、外したかでACが、何点ダメージを与えたら倒せたかによりhpが、移動してわかる移動速度、効果を発揮してわかる"特徴"、行動してわかる"アクション"などもなくはない。それはPCなりクリーチャーが、その世界の中で知覚できる範囲だ。
このようにデータ・ブロックを単に見通す手段は、第5版においては丹念に塞がれている。このことから、PCもキャラクター・シートのルール処理のための数値を、PC自身は認識しないはずだ。PCのファイターは「俺は5レベルのファイターだ!」とは言わず、「俺は~を倒した剣士だ!」とアピールするほうが、「らしい」プレイだろう。
前述のように第5版のルールはアップデートされ得る。D&D第5版のリード・デザイナー Mike Mearls はTwitterで、「D&D第5版で、モンスター知識判定の推奨される扱い方はあるか? 難易度を脅威度+10でおこなうのは、うまく働くかどうか疑問があるのだが」という質問に、「脅威度+10は妥当だ、それが専門的に学ぶことができるクリーチャーであれば許可するかもしれない、という警告の下で。」と返信ツイートしている。2015年のことだが、2019年5月現在、英語版公式サイト内のUNEARTHED ARCANA、SAGE ADVICEには、このようなモンスターの知識についての判定への言及はない。
このようなことからしても、公式として形にする場面でデータ・ブロックを知る方法に触れないのは意図的だろう。
とはいえ、(PCにではなく)プレイヤーにどこまでデータを明らかにするかはDMの任意だ。また、あるセッションでゴブリンと戦ったPCのプレイヤーは、ゴブリンを知らない新しいPCを作ったからと言ってゴブリンの能力を忘れるわけがない("知らない"ロールプレイをすることはできる)。
さらに突き進めて、公式記述の世界観からは外れるが、DMがマスタリングする"その世界"(それがフォーゴトン・レルムだとしても)では、クリーチャーはデータ・ブロックの記述を認識するのだ、と決めてキャンペーンをはじめることはできる。
DMGは、世界やアドベンチャーを作成することに多くのページを割いている。その自作世界について、「D&Dのオンライン・ゲームの中に閉じ込められた」というキャンペーンとか、「ソードアート・オンライン」や「ログ・ホライズン」のように遊びたい、という要望を盛り込んでも構わない。公式イベントに参加することとは別になるが、セッション参加者全員で了解し楽しくプレイできるなら、そのようにしてプライベートでのプレイを妨げることはない。
デジタルのゲームで、このようなドラスティックなプレイ手段のシステム変更はありえない。これはテーブルトークRPGという遊びの自由の一端と言えるだろう。
※記事中の日付は記事公開時のものです。
◎ファンタジーRPG入門