ヨーロッパの歴史を彩った数々の宝石や装飾品たち。中世前期の装飾品の特徴をご紹介した前回(「豪華絢爛? ヨーロッパ中世前期の装飾品の特徴とは?」)に引き続き、今回はヨーロッパ中世後期(14~15世紀頃)の装飾品にはどんなものがあるのかご紹介しましょう。
目次
中世ヨーロッパ後期の装飾品の特徴とは?
中世後期(14~15世紀)になると各地を結ぶ交易路が発達し、金属類や宝石類も大量に流通するようになります。しかしそれと相反して、各国では装飾品を権威の象徴とみなし、地位の区別を明確にするため、身に着けることのできる装飾品を制限するようになりました。
*装飾品の制限(例)*
・騎士……銀の使用はOK
・庶民……金・銀・宝石類全てNG
さらにフランスやイタリア半島の国々を中心に、各地の王族や宗教勢力は装飾品作りの職人を囲い込み、技法やオリジナリティを競い合わせるようになります。
当時の装飾品の流行や特徴は次のようなものです。
・14世紀末頃~:ゴシック建築の影響を受け、「フランボワイヤン」という技法が用いられ始める。一時期廃れていた「七宝細工」の技法も復活・発展。
・15世紀~:宝石のカット技法が確立される。
・15世紀~:宝石のカット技法が確立される。
「フランボワイヤン」は、高くそそり立つような形状に、燃え上がる炎のような曲線を多用することが特徴的な技法です。
また15世紀以降は宝石のカット技法が確立されたことで、ダイヤモンドなどの宝石類を多用し、細かな細工よりもそれぞれの宝石の特徴を生かしたデザインが好まれるようになりました。
中世ヨーロッパ後期:頭飾り(冠、かぶり物)
ここからはもっと具体的に、頭飾り、首飾り、指輪の特徴をみていきましょう。
最初に取り上げるのは頭飾りです。中世後期になると、皇帝などがかぶる冠のデザインが変化したのに加え、冠以外のかぶり物・頭飾りも種類が増えていきました。
①冠
・14世紀:ゴシック様式の影響で花型の飾りが高くなる。
・14世紀末~:皇帝の証だったアーチが他の者にも多用される。
・14世紀末~:皇帝の証だったアーチが他の者にも多用される。
14世紀の冠はゴシック様式の影響を受け、冠の高い位置に花型の飾りが付いていることが特徴です。
さらに14世紀末になると、それまで皇帝の証であったアーチを他の者たちまで冠に付けるようになりました。そのため、皇帝は「皇帝のアーチ」というより背の高いアーチを使用することとなります。
②その他の頭飾り
この時代には、男性も女性も様々な頭飾りを付けるようになりました。
*男性のかぶり物*
・トーク(冠型のつば無し帽子)
・フリギュア帽(三角形の帽子)
・カロット(半円形の帽子)
・シャッポー(つばの付いた帽子)
・シャブロン(先の尖った頭巾)
・カル(頭巾)
*女性のかぶり物*
・ベールとチン・バンド(顎を覆う布)で髪の毛から顎までをすべて覆う。
・ヘアネット(両耳付近で髪をまとめて包む)
・エナン帽(1~2つの円錐形の帽子の先からベールが垂れ下がったもの)
女性の頭飾りには、男性と同様のかぶり物の他、ベールやヘアネット、「コロネル」という冠の一種など様々なバリエーションがありました。
中世ヨーロッパ後期:耳飾り
中世前期では、当時主流だった襟の高い服装とは合わなかったため首飾りは廃れていました。しかし14世紀末頃になると襟ぐりが広く開いたファッションが流行し、首飾りは再び脚光を浴び始めます。
当時の首飾りにはどんな特徴があったのでしょう?
*素材*
・金
・宝石類(ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド、真珠など)
*モチーフ*
・ゴシック調の写実的な動植物、ハート、人物、主君や自分の名前の頭文字のアルファベットなど。
*形状*
・ネックレス
・ペンダント
・ロザリオ(お祈りをする時に使う数珠のようなもの。十字架などがついている)
・ゴルジュラン(チョーカーのような金属のカラー(襟))
・勲章付きの鎖(男性用)
・金
・宝石類(ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド、真珠など)
*モチーフ*
・ゴシック調の写実的な動植物、ハート、人物、主君や自分の名前の頭文字のアルファベットなど。
*形状*
・ネックレス
・ペンダント
・ロザリオ(お祈りをする時に使う数珠のようなもの。十字架などがついている)
・ゴルジュラン(チョーカーのような金属のカラー(襟))
・勲章付きの鎖(男性用)
中世後期の首飾りは、宝石を組み合わせただけの単純なネックレスから、金の下地に七宝細工を施し宝石と組み合わせた豪華なもの、十字架や聖遺物を入れた小物入れが付いたペンダントなど様々です。
たとえば「スリー・ブラザーズ」と呼ばれるペンダントはイングランドのヘンリー8世がフランスから戦利品として手に入れたもので、大きな宝石が目立つよう、あえて単純な作りをしていました。
中世ヨーロッパ後期:印章指輪
中世ヨーロッパにはお洒落のための指輪の他に、「印章指輪」と呼ばれる、権力の象徴であり印鑑としても使える指輪がありました。
*印章指輪の特徴*
・素材:金、宝石類(サファイア、ルビーなど)
・モチーフ:キリスト教的なもの(十字架、キリストの名前のモノグラム)、王族の肖像や紋章、名前のモノグラムなど。
→中世後期(14~15世紀)になると、「盾形紋章」が登場。
・素材:金、宝石類(サファイア、ルビーなど)
・モチーフ:キリスト教的なもの(十字架、キリストの名前のモノグラム)、王族の肖像や紋章、名前のモノグラムなど。
→中世後期(14~15世紀)になると、「盾形紋章」が登場。
印章指輪のフープ(台座)は金で作られることが多く、ベゼル(飾り部分)には宝石類がはめ込まれたり、様々なモチーフが刻まれたりしています。
モチーフにはキリスト教関連のものの他、名前のモノグラムなどが選ばれました。当時は文字を読める者が少なかったため、捺印するだけで身分証明になる印章指輪はとても便利だったのです。豪商などの富裕層も、職業の象徴となる印や名前を印章にしてサインの代わりに使っています。
さらに14世紀頃からは、イタリア半島周辺で「盾形紋章」がベゼルに彫り込まれるようになります。盾形紋章を見れば貴族の出身や身分が一目でわかる便利な指輪だとして、次第にヨーロッパ全土へ広まっていきました。
今回ご紹介したような装飾品の特徴を知れば、中世ヨーロッパが舞台の映画などを見る時もより楽しめるかもしれません。機会があれば博物館などで実物も見るのも面白そうですね。
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◎参考書籍
『図解 装飾品』
著者:池上 良太