作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる、聞きかじり防具コラムが連載スタート!
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
革に鋲打ちの鉄板やチェーン・メイルから、全身鎧へ
――鎧の始まりは、紀元前1900年ごろのバビロニアのブレストプレートと考えられています。
円形の金属や木の板を、首から吊るしたり紐や服で胸に固定したもので、ラウンド・シールドを身体に固定して使うようなイメージです。
その後、紀元前8世紀ごろに『トーラークス』という青銅製で胴体を前後から挟み込むオーダーメイドの鎧が登場し、改良を続け長く中世頃まで使われました。
――胴体部分を守る鎧を総称して胴鎧とも言います。
大きく分けて『スケイル』と『ラメラー』、そして『プレート』の3種です。
スケイルは麻の服など裏地の上に木や金属の小さなプレートを貼り合わせたもの。ラメラーはプレートそのものを繋ぎ合わせたもの、プレートはトーラークスのような大きな金属パーツで構成されたものを指します。
――下地に縫い付けるスケイルの方が、柔らかくて着心地が良く、プレートが外れても縫い付けるだけなので補修も簡単でした。
その代わり、頑丈さではラメラーに劣ります。
ラメラーはプレート同士がしっかりと組み合わさっていて頑丈で、地面に置くと自立するほどです。
しかしこれにも欠点があり、補修に手間がかかり、下に何か着る必要があるので暑い地域では使いにくく、重量も嵩みがちです。
――事実、最初期のスケイルは胸を中心として防御が施され、背中や肩へと広がっていたようです。
先述のブレストプレート同様、まずは胸(心臓)を守ることが重要視され、背後からの攻撃に備えるために背中、攻撃が当たりやすい肩へと装甲は広がっていきます。
――そして、これら鎧の進歩の最中に『チェーン・メイル』が登場します。
鎖を繋ぎ合わせて作った戦闘服であるチェーン・メイルは、スケイルと同様革の服に金属の輪を固定して作られたものから始まり、その後ラメラーのように金属の輪を直接つなげて服の形にするのが主流となります。
――チェーン・メイルは金属環を編んだものなので、硬い布程度の可動性はあり、重量はありますが行動の制限は一般的なラメラーやスケイルに比べても軽微でした。
ただ、刃は通しませんが衝撃は貫通しますから、チェーン・メイルの中に厚手の服を着込んだりするため、長時間着ていると暑くて仕方ないものになります。
――ロールプレイングゲームなどでよく見る『革の鎧』は、革を煮詰めて硬化処理を施したもので、ハードレザーアーマーと呼ばれるものです。
他に毛皮をそのまま使ったもの、柔らかい皮を使った革ジャケットのようなものがあり、それぞれハイドレザーアーマー、ソフトレザーアーマーと呼ばれます。
ハードレザーアーマーに鋲などを打ったものをスタッテッドアーマーやスパイクドレザーアーマーなどと呼びます。
――金属鎧と違って金属が擦れる音がしないため、その静音性・隠密性の高い任務には向いています。
軽さを重要視するならば革製の鎧も選択肢の一つですが、現実的には戦闘向きというよりは、乗馬中などの怪我防止として、日常の用心としてソフトレザーが使用されていたようです。
現代でいえばライダージャケットも似たような理由で革製が選ばれています。
こうして見ると、同じ鎧でも目的がバラバラだな。
最初は急所を守るための硬い板で剣から身を守って、次は全身を守るためのラメラーやチェーン・メイルで鋭い刃から身を守る。そして金属の全身鎧で強い打撃から身を守る、と。
最初は急所を守るための硬い板で剣から身を守って、次は全身を守るためのラメラーやチェーン・メイルで鋭い刃から身を守る。そして金属の全身鎧で強い打撃から身を守る、と。
――そして戦闘の規模が大きくなると、不意の攻撃にも耐える必要が出てきて全身を斬撃から守るチェーン・メイルが主流となります。
その後、チェーン・メイルを貫通する武器が登場するころには金属加工の技術も進み、全身を守るプレート・メイルへと進化するのです。武器と防具は、お互いを凌駕するように進歩していきました。
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「ルリちゃんの聞きかじり武器講座」 |
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
【熊公】
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
◇参考書籍
『図解 防具の歴史』
著者:高平鳴海
イラスト:福地貴子
>書籍はこちら
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。