悪魔を使役して願いを叶えることを目指すこのコラムも、今回で第3回。これまでは悪魔の実態や、悪魔との契約の基礎知識などを紹介してきた。第2回で説明したように、悪魔との契約は危険性が高い。悪魔の使役に不安を感じた人もいるだろう。
でも安心してほしい。実は、安全に悪魔を使役するための方法があるのだ。最終回となる今回は、『図解 悪魔学』(草野巧 著)を参考に、悪魔を使役する方法の集大成「グリモワール」について解説する。
目次
悪魔使役のプロフェッショナル!? ソロモン王の伝説
グリモワールについて説明する前に、魔術や悪魔と深い関係があったとされるイスラエルの王、ソロモン王を紹介しておく。グリモワールには、このソロモン王と関係があるとされているものが多いからだ。
ソロモン王はイスラエル王国第3代の王で、ダビデ王の息子だ。豪壮な神殿や宮殿を建築し、イスラエル王国の最盛期を築いたことで知られる。旧約聖書では神から知恵と見識を授けられたとされ、知恵者として有名だ。
しかし『列王記上』によれば、異国の妻を多数めとり、異教の神を祀ったという。そこから、ソロモン王は悪魔を使役したという伝説が生まれたのだ。
『ソロモン王の遺言』という1~3世紀の書物に、こんな物語がある。ソロモン王が神殿を建てたとき、建築現場で働いていた少年に悪魔が取り憑いた。ソロモン王が神に祈ると天使ミカエルが現れ、五芒星型の神の刻印が入った指輪を授けられた。この指輪があれば、悪魔を使役できるというのである。これを使って、ソロモン王は少年に取り憑いていた悪魔を支配下に置いた。
さらにソロモン王は手に入れた指輪の力を使い、ベルゼブブやアスモデウスなどの悪魔界の王たちや、36デカン※と呼ばれる悪魔たちを支配したという。そして悪魔たちの力を使い、困難だった神殿建築を完成に導いたのだ。伝説の王の活躍の裏には、悪魔たちの存在があったのである。
※デカンとは、占星術において天球上の黄道を10度ずつ分割したもの。全部で36存在し、36のデカンにそれぞれ悪魔が割り当てられている。
魂の対価はもう古い! 悪魔使役の指南書「グリモワール」
では、いよいよグリモワールについて解説していこう。グリモワールとは、悪魔や天使などのさまざまな霊を祈りや対話や威嚇によって操り、自らの欲望をかなえる方法が書かれた魔術書のことだ。
重要なのは、伝統的な悪魔との契約と異なり、一方的に使役する方法が記載されていること。グリモワールに載っている方法では、魂を対価にするような危険は侵さないのだ。かわりにグリモワールには、霊を操るのに必要な魔法円、印章、シジル(印形)、魔法杖などの製作方法や、多数の呪文が掲載されている。
なお有名なグリモワールには『ソロモン王の鍵』『ソロモン王の小さな鍵』など、ソロモン王にちなんだ名前のつけられているものがある。数々の悪魔を使役したソロモン王直伝の方法なら信頼性が高そうだが、残念ながらこれらのグリモワールはソロモン王とは無関係というのが定説だ。
グリモワールが流行したのは17~18世紀のヨーロッパで、有名なグリモワールのほとんどはその時代に作られたという。この時代は魔女狩りの時代で、悪魔を操るグリモワールへの需要が高かった。教会が強調するように悪魔がそんなに力を持っているのなら、神に祈るより悪魔に頼ったほうが手っ取り早いと考える人がいても不思議はないのである。
悪魔使役の決定版はどれ? 有名なグリモワールたち
特に有名なグリモワールには、以下のようなものがある。
*『モーセ第6、第7』
旧約聖書の最初の5つの書『創世記』『出エジプト記』『レビ記』『民数記』『申命記』は、モーセ5書と呼ばれる。イスラエルの英雄モーセは、神から知識を授かりこれらの5書を書いたという。しかし実はモーセは10の書を残しており、6~10の書は魔術書だったという説がある。
『モーセ第6、第7』は、そのモーセが書いたとされる魔術書だ。続編として『モーセ第8、第9、第10』もある。内容はユダヤ神秘主義のカバラがベースになっていると見られ、天使、自然界の精霊、悪魔などを威圧して屈服させ、さまざまな望みを叶えるための印章や魔法円が掲載されている。
*『ソロモン王の鍵』
ソロモン王が息子のために書き残したとされているが、14~15世紀ごろの成立であるようだ。この本では魔術は基本的に神の力によるものと考えられており、神に祈ることで、悪魔だけでなくさまざまな霊に働きかけるのである。
『ソロモン王の鍵』では、こうした霊に働きかける具体的な方法を紹介している。たとえば魔術を行うのに必要な道具や材料、適切な時間、いろいろなペンタクル(護符や魔除け)のシンボル、呪文などだ。
本は2巻構成で、第1巻には「盗まれた物を見つけ出す」「姿を見えなくする」などの方法と必要な護符などが書かれている。第2巻は魔術を行う前の準備作業がテーマで、身の清め方や犠牲の捧げ方、道具の作り方などを解説している。
*『ソロモン王の小さな鍵』
またの名を『レメゲトン』という。17世紀のフランスで成立した、最も重要とされる魔導書だ。この書物がとりわけ有名なのは、第1章「ゲーティア」に地獄の王国で上級役職を持つ72の霊、つまりソロモン王の72悪魔(ソロモン72柱)について、その地位や能力、召喚方法などを説明しているからである。
ソロモン王と72悪魔の関係には以下のような伝説がある。ソロモン王は最後、72悪魔とその配下の悪魔軍団すべてを真鍮の壺に閉じ込めて封印し、深い湖に沈めたのだという。それをずっと後の時代になってバビロニア人が発見し、蓋を開けてしまった。その結果、72悪魔は自由の身となった。地獄へ舞い戻った悪魔たちを使役する方法が、『ソロモン王の小さな鍵』に書かれているというわけだ。
*『ホノリウス教皇の魔導書』
作者は13世紀初頭のローマ教皇ホノリウス3世とされているが、実際には17世紀後半にローマで出版されたもの。この書に記載されている儀式はかなりどぎつく、悪魔的といえるものが多い。
『ホノリウス教皇の魔導書』では闇の霊の召喚方法を紹介しているのだが、その準備段階として黒い雄鶏を生贄にして目玉、舌、心臓を取り出すなど、血まみれの残酷な儀式が必要になる。
その上でこの本に指定されたソロモン王の魔法円やペンタクルを使い祈りを捧げると、東西南北の王や週の各曜日を司る悪魔を呼び出すことができるという。
『ホノリウス教皇の魔導書』に掲載されている各悪魔は、以下の通りだ。
東西南北の王
・東の王:マゴア
・南の王:エギム
・西の王:パイモン
・北の王:アマイモン
各曜日の悪魔
・月曜日:ルシファー
・火曜日:フリモスト
・水曜日:アスタロト
・木曜日:シルカルデ
・金曜日:ベカルド
・土曜日:グランド
・日曜日:スルガト
いかがだったろうか。上記はグリモワールのほんの一部。先人が残したこれらの知識を活かし、ぜひあなたの願いを叶えてくれる悪魔を見つけ出してほしい。
それでは、よい悪魔使役ライフを!
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