悪魔を使役して願いを叶えることを目指すこのコラム。第1回では悪魔の基礎知識を紹介した。第2回となる今回は、いよいよ悪魔との契約について解説する。
悪魔はどんな願いを叶えることができるのか? 悪魔との契約は魂と引き換えでなければならないのか? など、『図解 悪魔学』(草野巧 著)を参考にして知識を身に着け、悪魔との契約に備えよう。
目次
不可能なことは何もない? 悪魔との契約でできること
悪魔との契約を考える場合、悪魔があなたの願望を叶えることができるかどうかは大いに気になるものだ。
実は、悪魔にはほとんどの願望が実現できてしまう。個人的欲望を悪魔に叶えてもらった例のもっとも有名なものは、ファウスト博士の伝説だろう。
ヨハネス・シュピースの『実伝ヨーハン・ファウスト博士』によれば、ファウスト博士はワイマール近郊の生まれで、非常に利発、かつ恵まれた環境のもと神学博士となった。しかし聖書をないがしろにしてさまざまな秘術に手を出し、ついにウッテンベルクの森で悪魔メフォストフィレス(ゲーテの『ファウスト』ではメフィストフィレス)を呼び出して24年間の契約を結ぶのだ。
ファウストは悪魔との契約により、ありとあらゆる享楽を体験する。好き放題に女を漁って淫行にふけり、また悪魔、天使、地獄、天体の運行、神による天地創造などについての誰も知らない知識を手に入れた。実際に地獄界や星辰界を訪れ、全ヨーロッパ、エジプト、コーカサスまで瞬時に旅をし、皇帝カール5世の招待も受けた。また古代のアレキサンダー大王や美女ヘレネと対面し、ヘレネと添い寝して子供をもうけたほどである。
これほど万能の悪魔なら、あなたの願いを叶えてくれる可能性も高いといえるだろう。
ただしファウスト博士の死後は恋人のヘレネもその子供も消えてしまったので、まやかしが含まれていることは覚悟しておこう。
対価は魂、末路は悲惨な死…悪魔と契約する危険性
悪魔との契約の対価が魂であることは広く知られている。魂を与える代わりに願望を叶えてもらう約束をした最初の人物は、6世紀のテオフィルスだ。
テオフィルスはシチリアの教会で出納係をしていたが、推挙されて司教職を与えられることになった。しかし彼は慎みによってこれを辞退する。すると新たに司教になった人物はテオフィルスを陥れ、職を奪ってしまった。
自分の謙虚さを悔いたテオフィルスは十字路でサタンを呼び出し、魂と引き換えに司教職を取り戻すことを願って、イエスと聖母マリアを放棄する契約書に自分の血で署名するのだ。
こうして司教職に返り咲いたテオフィルスだが、すぐ後悔して聖母マリアに許しを請い、70日間の苦行をすることで許しを得る。サタンは聖母マリアと部下たちに責められ、やむなく契約書を返還することになる。
テオフィルスは悪魔との契約破棄に成功したが、悪魔との契約を期限切れまで続けた場合はどうなるのだろうか? それについても、先に登場したファウスト博士が参考になる。
ファウストはさまざまな冒険と快楽を手に入れるが、ついに契約期限の日を迎える。その日の真夜中、強風が吹いてファウストの住んでいた宿屋の建物が大きく揺れ、しゅうしゅう言う音と、助けてくれというファウストの叫び声が響いた。翌朝みんなが見に行くと、部屋の中は血だらけで壁に脳髄が飛び散り、身体はバラバラで肥やしの上に散らばっていたというのである。
四肢をもぎ取られた悪魔契約者の死に様は、16~17世紀の知識人ピエール・ド・レトワールの日記にも記されている。悪魔と契約した者の末路は、このように恐ろしいものになるようだ。
証拠品は悪魔との契約書!? ルーダンの悪魔憑き事件
17世紀前半にフランスのルーダンの町で起きた悪魔憑きは、集団悪魔憑き事件として有名だ。
悪魔憑きとは悪魔が人や物、場所などに憑依する現象だが、この事件では世にも稀なる「悪魔との契約書」が発見されているため紹介しておく。
ルーダンの町で悪魔憑き騒動が始まったのは1632年10月のこと。女子修道院長ジャンヌ・デ・ザンジュ他数名の尼僧に悪魔が取り憑き、不気味な叫びと痙攣を起こして大騒ぎになった。
最終的にはルーダンの主任司祭ユルバン・グランディエ神父が悪魔と契約したことが原因とされ、火刑に処された。特徴的なのは、判決が下される重要な証拠としてグランディエ神父と悪魔との間で交わされた契約書が発見されたことだ。
契約書が出現したのは修道女たちに対する悪魔祓いの儀式の最中。契約書を探すため、ポワチエの司教がデ・ザンジュの口元に聖体(儀式で使用する聖別されたパン)を押しつけるよう悪魔祓い師に命じた。そのとおりにするとデ・ザンジュに取り憑いた悪魔レヴィアタンが苦しみはじめ「そこを探せ…あの方の下にある…司教様だ」と答えた。司教が席から立ち上がると紙包みが落ちており、契約書の入った封筒が現れたのである。
発見された契約書は2つの部分から成り立っている。1つ目にはグランディエ神父が署名した忠誠の誓いがあり、2つ目は神父の忠誠を悪魔たちが承諾したことが記されているのだ。
悪魔たちが書いたとされる2つ目の契約書は、ラテン語の鏡文字で右から左へ書かれている。内容は「我ら、全能なるルシファー、およびその介添人たるサタン、ベルゼブブ、レヴィアタン、エリミ、アスタロート…」と始まり、グランディエ司祭と同盟して修道女たちの純潔や世俗の快楽を与える旨が記され、末尾に悪魔6名と記録者バアルベリトの署名がある。
このような契約書が発見された例は他に類がない。とても興味深い事件といえるだろう。
現代も活躍するエクソシスト! 悪魔祓いの方法とは
ルーダンの悪魔憑き事件にも登場する「悪魔祓い」とは、悪魔が取り憑いている人や物、場所などから悪魔を追い払う行為だ。
新約聖書にはイエス自身がたびたび悪魔に「出て行け」と命じて追い払う場面がある。キリスト教初期の悪魔祓いは単純なもので、イエスの弟子たちが行う場合は「イエスの名において出て行け」と命じるだけでよかった。
やがて悪魔祓いの儀式は形式化し、イエスの名を唱える連祷や祈り、司祭が秘蹟を授ける者の頭に手を置く按手、聖油による塗油などが行われるようになった。また3世紀には悪魔祓いを行う専門の祓魔師(エクソシスト)の階級も設けられた。
エクソシストの参考書として有名なのが、1614年に発布された『ローマ典礼定式書』だ。『ローマ典礼定式書』には悪魔祓いの手順や注意事項などが記されている。
『ローマ典礼定式書』によれば、悪魔祓いは以下のような手順で行われる。
まずで司祭と聖歌隊が祈りを歌い交わす連祷で始まり、詩篇の一部の朗誦、神への恩寵の嘆願、悪魔への退去勧告と続く。それから福音書の一部の朗誦を経て、イエスの名において悪魔に出て行けと繰り返し命じる第一の悪魔祓い、第二の悪魔祓い、第三の悪魔祓いが行われる。最後の祈りを捧げて、一連の儀式は終了である。
『ローマ典礼定式書』の悪魔祓いの項目は、現在も当初とほぼ同じ形で有効だ。カトリック教会には今なお多数の公式エクソシストが所属し、この書を参考にして悪魔祓いを行っているのだ。
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