ルリちゃんの聞きかじり防具講座　其の二、盾の話〈後編〉

パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』（著：井戸正善）に登場するエルフの少女ルリによる、聞きかじり防具コラムが連載スタート！

師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。

隔週木曜日更新、全10回予定！


＞其の一、盾の話〈前編〉はこちら

攻撃にも使える小型の盾。盾の時代の終焉

――ラウンド・シールドは片手で握りしめて使用する盾です。
中央にお椀状の金属パーツである盾芯があり、その内側に取っ手が付いています。盾芯の周囲は主に木で作られていますが、表面や縁に金属の板や革を張って補強することもあります。
護拳となる部分が椀状ではなく尖っていたり、表は平面で内側に取っ手が飛び出している形状のものもあります。




――強度の問題もあります。
四角形では攻撃を受けた時に脆い部分と頑丈な部分の差が出やすくなりますが、円形であればどこで受けても同じ衝撃で、盾を支える力も一定です。
また、円形は自然と衝撃を受け流すことにも繋がります。戦車などの装甲などを斜めにした、いわゆる避弾経始としての役割も果たすのです。
鎧が曲線を描いた形状であるのと同様、攻撃を曲線で受けることで真正面から衝撃を受けるよりも軽減できるのです。




――攻撃にも使える盾として代表的なものが『バックラー』です。
形はラウンド・シールドとよく似ており、直径30センチ程度とやや小型化したものが一般的でした。
単なる小型のラウンド・シールドとして使うことも多かったのですが、中には盾の中央に鋭いトゲを施し、隙あらば相手を串刺しにする恐ろしい武器を有したものも作られ、銃が登場すると盾の中央にバレル（銃身）を付けた“弾丸を撃てる盾”として『ガン・シールド』などと呼ばれるものまで登場します。




――アダーガはモロッコで誕生し、14世紀頃にはヨーロッパへと渡り、キリスト教に所属する兵士の武装となりました。
突く、払うなどの槍としての攻撃性能と、頑丈な金属盾としての防御性能を同時に有したアダーガは、独特の形状ながら80センチ程度の長さで扱いやすく、軽騎兵などにも使用されていました。




――アスピスは肩に背負って身体を守る使い方の他、手に掴んで敵の攻撃を能動的に受け止める使い方をされていました。
先端の突起は攻撃用ではなく、中心で受け止めた攻撃が自然と盾の曲線に沿って外に軌道がずれていくような構造になっています。
こうすることで、ただ構えているだけでも攻撃を逸らす効果ができ、盾へのダメージも最小限のものとなります。





――金属鎧が発達し、戦場での戦いが“鋭い武器で相手を傷つける”ことから“金属鎧で固めた相手に打撃を与える”ことに主眼が移り、それに対応するようにして使用される武器が重く頑丈な打撃武器へと変化していきました。
片手に盾を持つよりも鎧の頑丈さで攻撃を受け、その代わりに両手で重い武器を振り回すことが重要視されるようになりました。




――さらに時代が進むと、銃の登場で個人が盾を持つ意味がどんどん薄れていきます。 　弾丸を避けるための金属盾を使うこともありましたが、一般の兵士達の基本兵装には含まれることはありません。
近接戦闘の時代が終焉すると同時に、盾の時代も終わったのです。




――戦場での使用は激減しましたが、現代でも警察で防刃や防弾の目的で使用されており、爆発物の処理などにも使われています。
盾は攻撃に合わせて能動的に向きを変えて使う特性上、状況に合わせて柔軟な運用が可能で、どの時代でも重要な役割を果たしているのです。
素材の進歩によってより軽く、より頑丈になった盾は、活躍の場所こそ変われどもその有用性は変わらないのです。

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◇参考書籍


『図解 防具の歴史』
　
著者：高平鳴海
イラスト：福地貴子

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