作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる、聞きかじり防具コラムが連載スタート!
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
盾の誕生と、身を隠す大きな盾の役割
――地球とは違う、ある異世界の、ある大陸の片隅に、人間もエルフも獣人も、奇妙に混じりあってバランスがとれているという変わった町がありまして、そこに一つの武道場があります。
道場の主は斎舟という名の人間ですが、今は一番弟子であるエルフの『ルリ』が留守を任されています。
表現に正確を期すならば、彼女が武器の倉庫をひっかきまわした件の罰として、防具倉庫の掃除を命じられているわけですが。
そして何故か、熊獣人の通称『熊公』も手伝いに駆り出されています。
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――盾は世界中で使用された、ごく一般的な防具の一つです。
敵の攻撃を受け止め、自分自身や自分の後ろにいる味方を守るもので、集団戦闘においては突撃してくる相手を受け止めることにも使われました。
戦闘集団の最前列にずらりと大盾を並べ、その隙間から槍が飛び出してくるファランクスと呼ばれた陣形は、古代において大いに活躍しました。
――古代ローマやギリシャにおいて、スクトゥムやホブロンといった大型の盾が登場します。これは身体の大部分が隠れるサイズで、物によっては全身を完全に隠すほどの大きさがありました。
これらは主に戦場で重装歩兵が用いたもので、戦列を作って防御を固める目的があります。
――実際の戦闘では、集団をどのように動かすかによって大きく戦況は変わり、側面や後方から攻撃を受けて戦列が崩壊するというパターンも数多くありますので、熊公が言うようなわかりやすい戦闘になるとは限りません。
ですが、大盾が戦場における兵士達の安心材料であったことは間違いないでしょう。
――パビスは置き盾の一種で、杭を打ち込んだり棒状の支えを付けたりして地面に立てて使用します。主に弩(クロスボウ)を使う兵士たちに重宝されました。
弩は再装填に時間がかかり、その間無防備になります。しかし両手を使わなければ装填も射撃もできないので、盾を構えるわけにもいきません。
そのための置き盾で、全身を隠したまま再装填が可能で、身体の大部分を隠したまま射撃も可能でした。
――日本でも戦国時代に
対応する武器が銃に変わったことで木製から金属製になったり、火矢に対応して燃えにくい素材を貼るなどの変化もみられます。
――大盾の最大の欠点は移動力ともう一つ、視認性の悪さがあります。
大盾を構えると正面の視界は完全に遮られてしまいますから、正面にいる敵が何をしようとしているのか見えません。
現代の盾であればのぞき窓がついていることもありますが、中世以前の盾にはほとんど見られません。
――馬上では左手に盾を持って右手に武器を握るか、長柄で両手を使う武器を持つ際は、背中に盾を背負います。
馬に乗っているため、重い盾を持っていても移動に支障はありませんでしたが、両手で持つのは難しいため、これも大盾同様に構えるのみか、精々重さに任せて振り回す程度の動きが限界でした。
――ルリはこう言っていますが、戦場において“壁を作る”のは盾持ちの大きな役割の一つでした。
先ほど、ずらりと並んで壁を作ることで相手の突撃や矢による攻撃を受け止める役割があると書きましたが、戦術的な意味もあります。 例えば、左翼を突出させて右翼を引くといったように壁の角度を意図的にずらして敵の行動方向を誘導するなど、敵を操る壁としても使えたわけです。
動く壁となる大盾の強さは、防御力だけではありません。
◇おすすめ記事
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「ルリちゃんの聞きかじり武器講座」 |
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
【熊公】
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
◇参考書籍
『図解 防具の歴史』
著者:高平鳴海
イラスト:福地貴子
>書籍はこちら
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。