結婚式で流れる定番の音楽といえば、「結婚行進曲」。ワーグナーのオペラ『ローエングリン』に登場する曲です。
この『ローエングリン』というオペラ、元はアーサー王の聖杯伝説の後日談だということはご存じですか? 今回はローエングリンの物語をご紹介しましょう。
目次
聖杯王の息子ローエングリン
中世の物語作家や吟遊詩人たちは、アーサー王の聖杯伝説の後日談を考え、各地の民間伝承と組み合わせて新しい物語をつくりました。その中のひとつが、「白鳥の騎士伝説」と結びつけられた、聖杯騎士ローエングリンと貴婦人エルザとの悲しい恋物語です。
では、ローエングリンとはどんな人物なのでしょう?
【ローエングリンってどんな人物?】
- 聖杯王パーシヴァルの長男。父親から跡継ぎとして指名される。
- ブラバントの領主エルザを魔女オルトリートの陰謀から救う。
- その後エルザと結婚するが、彼女が誓いを破ったため別れることとなった。
アーサー王の物語の中で聖杯探究を成功させた3人の騎士、ガラハッド、パーシヴァル、ボールス。彼らのうちパーシヴァルは地上にとどまり、聖杯城と聖杯とを治めるようになります。
ローエングリンはそのパーシヴァルの息子です。彼はパーシヴァルから跡継ぎとして指名されると、聖杯を守る立派な騎士になるべく、ブラバント(現在のオランダからベルギー北部)へと向かいます。彼に与えられた試練は、この地の領主エルザを魔女オルトリートの陰謀から救うことでした。
次項からは試練の顛末をご紹介しましょう。
ローエングリンとエルザの出会い
物語はエルザにあらぬ疑いがかけられたところから始まります。
ブラバントの領主である貴婦人エルザは、テルラムント伯爵から求婚されますが、彼の目的が領主の座であることを見抜き、この申し出を断ります。
テルラムントはその後、オルトリートという魔女と結婚しましたが、心の中ではエルザを恨み続けていました。
オルトリートはそんな夫の気持ちを知ると、彼を操りエルザの財産を横取りしようと考えます。彼女はまず、エルザの弟ゴットフリートを魔術で白鳥の姿に変えてしまいました。そうとは知らないエルザは行方不明になった弟を必死で探しますが、全く見つかりません。
オルトリートは次に、「エルザが弟を殺すところを目撃した」と言い、夫をそそのかして訴えを起こさせます。エルザはどうしていいかわからず、神に祈り泣き暮らすしかありませんでした。
そんなある晩、彼女は白銀に輝く騎士の夢を見ます。この夢に希望を見出したエルザは、自分の代わりの騎士を見つけ、告発者のテルラムントと一騎打ちをして無実を証明することになりました。
一騎打ち当日、一羽の白鳥に牽かれた船が会場近くに現れます。その船に乗っていたのは、エルザが夢に見た通りの、白銀に輝く鎧を身に着けた騎士ローエングリンでした。
ローエングリンはエルザに、彼女の無実を証明するために戦うと告げると、もし勝利したら自分と結婚してほしいと話しました。
「ただし、結婚してもあなたはわたしの名前や素性を決して尋ねないと誓ってください。もし誓いが破られることがあれば、わたしはあなたのもとから去らなければなりません」
エルザは驚きましたが、この話を承諾します。こうしてエルザの代理となったローエングリンは一騎打ちに見事勝利し、ふたりは結婚することとなりました。
破られた誓い
ローエングリンがエルザに「自分の名前や素性を尋ねてはいけない」と誓わせたのは、彼が聖杯騎士であり、世俗の女性と結婚するためには、彼女がそれにふさわしい高潔な人物であることを証明しなければならないためでした。
しかしそうとは知らないエルザは、夫の名前を呼ぶことも、どこの誰なのか知ることもできないことに悩み苦しみます。そうしてついにある夜、耐えきれずに誓いを破ってしまったのです。
「教えてください、あなたの本当の名前を!」
この言葉を聞いて、ローエングリンは絶望しました。ちょうどその時、ふたりの寝室にテルラムントが現れ、抜き身の剣を振りかざしてローエングリンに襲いかかってきたではありませんか。
ローエングリンはとっさに剣を抜き、テルラムントを一刀のもとに切り伏せました。
翌日、ローエングリンはテルラムント殺害の真相をブラバントの人々に告白します。そして、自分が聖杯城から来た聖杯騎士であること、誓いが破られた以上、この地を去らねばならぬことも告げました。
エルザは夫の話を聞き深く絶望しました。国王や騎士たちも皆、ローエングリンを引き止めますが、ローエングリンはエルザに自身の剣と指輪、角笛を渡すと、「これをいつか戻って来るそなたの弟に与えなさい」と言って白鳥の牽く船に乗り、ブラバントの地を去ってしまいます。
弟の帰還
残されたエルザに、魔女オルトリートは「弟は白鳥に姿を変えられている。帰ってくることはないだろう」と冷たく告げました。テルラムントが殺害されてもなお、彼女はエルザの財産を狙っていたのです。
ところがそれからしばらくして、1羽の白鳥がブラバントに現れます。エルザはかすかな希望を抱いて、ローエングリンの剣を岸辺に投げました。すると白鳥は湖にもぐり、弟のゴットフリートが現れたではありませんか。彼は今まで聖杯城に匿われ、騎士としての修業をしていたのです。
オルトリートは全てのたくらみが失敗したことを知り、屈辱のあまりその場に倒れ、息絶えました。
エルザとゴットフリートは再会を喜び、ローエングリンの思い出を胸に余生を過ごしたということです。
◎関連記事
アーサー王伝説・パーシヴァルの聖杯探索の結末は?
【アーサー王】円卓の騎士に憧れたガウェインの末弟ガレス
【4コマ漫画】ケルト神話の恋愛事情② ~夢の乙女に恋をした愛の神オイングス~