中世ヨーロッパといえば騎士の時代。騎士たちはどのような暮らしをし、何を見て何を考え、どんな人生を送っていたのでしょう?
このシリーズでは、1165年にフランスに誕生した架空の騎士ジェラールを案内人に、中世ヨーロッパと騎士の姿をわかりやすくご紹介していきます。
第13回目のテーマは、「宮廷」です!
目次
学ぶことも多かった小姓の仕事
パリの宮廷で騎士になるための修業をしているジェラール。今回は「宮廷」をテーマに、彼が学んだことや宮廷に出入りする貴族についてご紹介しましょう。
宮廷に出仕した騎士の子どもたちは、小姓として王侯や貴婦人に仕えながら礼儀作法を学びます。小姓とは、簡単に言うと召使いのようなものですね
小姓の仕事は実に多岐に渡ります。例えば以下のような内容です。
・王侯が起床した時に洗面のための水を持つ。
・宴会の席で給仕をしたり、手洗いのための水を持ち続けたりする。
・王侯のための衣服の用意、武具の手入れ。
・その他雑用など。
・宴会の席で給仕をしたり、手洗いのための水を持ち続けたりする。
・王侯のための衣服の用意、武具の手入れ。
・その他雑用など。
小姓はまだ騎士ではないため、騎士たちと同じ席に着き飲食することはできません。しかし、だからといって身分が落とされたわけではなく、彼らはあくまでも騎士階級の子弟として扱われました。
王侯や貴婦人に仕えることで、騎士の子どもたちは宮廷の厳しい礼儀作法を学びます。かつては宮廷といっても大らかな場所でしたが、11世紀頃になると、宮廷に出入りするフランス貴族たちは強烈な階級意識を持つようになり、礼儀作法にもやかましくなり始めたのです。
礼儀作法以外にも、小姓の仕事から学んだことはたくさんあります。城内で聞く会話や噂話から世間を知ったり、貴婦人たちから理想の騎士像を教えられたりしたものです。時には恋愛の手ほどきを受けることもあるんですよ
軍事訓練と盟友探し
騎士になるために宮廷で行われた修行には、他にどんなものがあるのでしょう?
ジェラールは7歳頃から乗馬や剣術、騎槍(ランス)の練習などを始めました。しかし宮廷に出仕してから更に厳しい軍事訓練を受けたかというと、そうでもないようです。
宮廷には他におもしろいことがたくさんありますし、正直なところ、熱心に軍事訓練に励む者はそう多くなかったかもしれません……
とはいえ、剣の練習やトーナメント(模擬試合)の練習など、軍事訓練は騎士になるために欠かせない修業のひとつでした。
また狩猟や鷹狩りに出掛けることも、楽しみながら体力や技術を鍛えられる良い機会となっています。
こうした修行を通して、騎士の子どもたちは「盟友」(戦場の友)を見つけることもできました。これは友情を深めた者同士が誓約を交わし、盟友関係になるという習慣で、古代ギリシア時代から戦士たちの一部で受け継がれてきた伝統です。
盟友になった者同士は戦場で互いに助け合うようになります。盟友を裏切ることは騎士にあるまじき行為だと考えられていました。
貴族と騎士、「爵位」とは?
最後に、宮廷に出入りする貴族について簡単にご説明しましょう。
貴族たちはそれぞれ「爵位」という身分を持っています。爵位は役人の制度から誕生し、国や時代によりますが「伯」「公」「侯」「子」「男」などがありました。名誉の称号のようなもので、政治力や軍事力の強さを表すものではありません。また13世紀以前までは勝手に名乗る者も多かったといいます。
・「伯」……フランスでは元々、メロヴィング朝フランク王国時代に国王から地方管理を任された役人のことを「伯」と呼んでいました。「伯」は時代とともに世襲化し、やがて領地と結びついた称号となります。
・「公」……元はゲルマンの軍事司令官のことで、中世になると大きな領地・軍事力を持つ者に対して特権とともに与えられる称号になりました。
・「候」……「伯」の中でいくつかの伯領を領有するようになった者を「候」と呼びます。元はフランスの辺境に置かれた辺境伯のことだったともいわれています。
・「子」……「伯」の副官である「副伯」から誕生した称号です。
・「男」……爵位の中でも新しく、最下位にあたる称号です。イギリスでは国王直臣の騎士に与えられました。
私の父のように、ひとつかふたつの城を持つ城主たちは、大抵「子」か「男」に相当する爵位を与えられていました
ところで「騎士は爵位ではないの?」と思われる方もいるでしょう。
「騎士」は爵位を表す称号には含まれません。騎士は元々ただの戦士であり、貴族たちは当初、「自分たちはただの戦士とは違う」という誇りから、自らを騎士と名乗ることはありませんでした。
ところが時代とともに騎士が戦場で活躍するようになると、貴族たちも名声を求めて騎士を名乗り始めます。
私の生きた12世紀にも、大貴族たちは自らを騎士だと名乗っていました。でもこれは爵位、つまり身分を表す称号ではないのです
ちなみに現代のイギリスなどでは、knightは古い身分や分野に関係なく、ミュージシャンや俳優などを含め、国家に功績のあった人物に与えられる称号となっています。
次回はいよいよ、騎士に叙任された後のジェラールの様子をご紹介しましょう。お楽しみに!
◎参考書籍
『中世騎士物語』
著者:須田 武郎
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