もしも神様と同居したらどんな生活が待っているだろう――。
漫画の話ではありません。最近では少なくなりましたが、日本には家の中の台所や各部屋、屋外の敷地内などにそれぞれ神さまをお祀りし、家や家族を守ってもらうという習俗がありました。
今回はそんな家の守り神の中から、「カマド神」「納戸神」「便所神」をご紹介しましょう。
目次
台所を守る荒々しい神「カマド神」
【「カマド神」ってどんな神さま?】
- 台所の神さま、家・農作・牛馬・子どもの守り神。
- ご利益:家内安全、五穀豊穣、家畜守護、子ども守護、厄除け、病気平癒、火難除けなど。
- 祈願方法:毎朝必ずご飯と水などの供物を捧げる。
「カマド神」はかまどに宿る神霊で、西日本地域では「荒神」「三宝荒神」とも呼ばれます。火の神・炊事の守り神としてかまどや囲炉裏に祀られる他、食物と関係することから農作の神や牛馬の神、子どもの守り神としても信仰される神さまです。
カマド神は清浄を尊び不浄を嫌います。非常に荒々しい性格で、毎朝きちんとご飯や水などの供物を捧げて信仰すれば霊験著しいですが、逆鱗に触れてしまうと激しく祟ることもあるといいます。
地域によっては、カマド神は荒神と区別して信仰されることもありました。カマド神に道教や仏教、修験道などの考え方が習合して、荒神・三宝荒神という新しい信仰が誕生したというのです。
カマド神はこのように複雑な性格を持つため、台所の守り神であるだけでなく、家や土地を守る地主神や氏神とされることや、眼病などの病気を癒す神だと考えられることもあります。
子孫繁栄にご利益あり「納戸神」
続いてご紹介するのは納戸の神さまです。
【「
- 家の中の納戸に祀られる神さまで、家の神、農業神、産神。
- ご利益:豊作、子授け、安産、盗人除け、目の守護など。
- 祈願方法:納戸に神棚を設置する。正月や農作の祭りの時に供物を捧げる。
「納戸神」はその名の通り納戸に祀られる神さまで、主に中国地方から九州地方にかけて信仰されています。
納戸とは、夫婦の寝室や産室、衣類や米びつなど穀類を収納しておく場所のことをいいます。最近は納戸という呼び方はあまり使われなくなってきましたが、かつては農村部の比較的大きな家を中心に、必ずこの納戸部屋が設けられていました。
納戸神は特定の神さまの名前ではありません。エビス、大黒、年神、亥の神(秋の収穫の神)など、様々な神さまが納戸神として祀られています。
祀り方も様々で、納戸にお札を貼るだけという場合もあれば、納戸に神棚を設けたり、決まった時期に祭壇を設置し供物を捧げることもあります。
納戸神が祀られる納戸が夫婦の寝室であると同時に産室であることから、納戸神は夫婦和合の神、お産を見守る神、子どもの神、婦人病の神だとも考えられるようになりました。納戸神は子孫繁栄をもたらす神さまなのです。
出産・育児を助ける盲目の神「便所神」
最後に、便所神をご紹介しましょう。
【「便所神」ってどんな神さま?】
- 家の守り神、出産・育児の守り神。
- ご利益:子授け、お産・育児の守護、眼病平癒など。
- 祈願方法:便所を建てる時に男女一対の人形を埋める。便所に神棚や小さなお宮を置く。
「便所神」はその名の通り、便所に宿る神さまです。現在では、便所は単に用を足すだけの場所ですが、かつては便所にも神さまがいて、家を守っていると考えられていました。
日本には古くから、排泄物が新たな生成をもたらすという考え方があります。たとえば昔の農家の便所は
こうした考え方から、便所神はお産を助け、新生児の生命力を強化する力を持つと考えられるようになりました。そのため子どもが生まれて3日目、7日目(お七夜)、13日目などに便所参りをする家庭もあるほどです。
便所神にまつわる伝承として、次のようなものも知られています。
・便所神は盲目である。
・便所神は人に顔を見られるのを嫌うので、入るまえに咳をして知らせなければならない。
・赤飯を炊いて便所神に供えると、安産になる。
・妊婦が便所をきれいに掃除すると、美しい子が生まれる。
便所神は家の神ですが、怒らせてしまうと人に祟りをなすこともあります。便所神に祟られてしまうと体が弱ったり、家族に病人が続いてしまったりするのです。
そうした場合の対処法には、次のようなものがあります。
・歯が痛い場合……紙に塩を包んで噛み締めた後、便所の柱に釘で打ち付ける。
・流行性眼病に罹ってしまった……赤い紙で旗を作り、家族の数だけ便所神に供える。
家の守り神にはこの他にも、井戸に祀られる水の神「井戸神」、東北地方で信仰されている「オシラ神」など、多種多様な神さまがいます。漫画や小説に、女の子の姿をした神さまと同居するといった内容のものもありますが、私たちは知らず知らずのうちに様々な神さまと実は「同居」しているのかもしれませんね。
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