文:斜線堂有紀
「幻想キネマ倶楽部」とは?
毎月28日にお届けする、小説家の斜線堂有紀先生による映画コラムです。
月ごとにテーマを決めて、読者の皆さんからテーマに沿ったオススメの映画を募集します。
コラムでは、投稿いただいた映画を紹介しつつさらにディープな(?)斜線堂先生のオススメ映画や作品の楽しみかたについて語っていただきます!
今月は「雨」映画観てみない?
こんにちは、斜線堂有紀です。開口一番これだけは言っておくのですが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』本当に良かったですね。今の私はもうエンドゲームを観た人類なので、全てにおいて余裕の気持ちです。集大成が観られる世界に生きていて良かった!
というわけで、その余韻を引きずりながら今回は「雨」をテーマにした映画について語っていこうと思います。丁度良いことに、この原稿を書いている現在、外が豪雨なのでとても合った感じになっています。窓が割れそうです。割れないでほしい……。
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『ラ・ラ・ランド』のオマージュ元のひとつと知って観たらそこをオマージュしたのかと衝撃を受けました。常に色彩鮮やかでそこも素敵でした。(アキ)
シェルブールの雨傘
フランスの映画で終始歌にのせて物語が進む完全なミュージカル映画。度々映るカラフルな雨傘が可愛い! 雨の日にしっとりと流す人生と恋と愛の話。(凛々子)
シェルブールの雨傘
シェルブールの雨傘(1963)
監督:ジャック・ドゥミ
製作国:フランス
監督:ジャック・ドゥミ
製作国:フランス
まずは、雨といえばの代表格『シェルブールの雨傘』です。個人的には「観たことは無いけどタイトルだけは知っているという映画」の上位に入ると思います。雨音と音楽の相性がいいからか、かの有名な『雨に唄えば』と同じくミュージカル映画です。ミュージカル映画というのは往々にして重いテーマを音楽に紛れ込ませがちであり、本作でも全編を通す串となっているのは史実であるアルジェリア戦争。現実でも多くの傷跡を残すその戦争に翻弄された男女の愛の奇跡を、こんなに軽やかに描けるのが素晴らしい。
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あと、この映画は色合いがとにかく美しい! とにかく何処を切り取っても画面が一枚絵のようであるというのはなかなか無いのではないでしょうか。この間初めてリマスター版を観たのですが、映画界のイッツアスモールワールドのようでした。これから観る方は是非リマスター版を観てみてください。
変わり種。酸性雨ですね。怖い怖い。(くー)
バンカー・パレス・ホテル
バンカー・パレス・ホテル(1989)
監督:エンキ・ビラル
製作国:フランス
監督:エンキ・ビラル
製作国:フランス
まさかここでこの映画のタイトルを見ることになるとは! というカルト映画であり、結構な環境的無理トピアを描いているのが『バンカー・パレス・ホテル』です。この世界では空から放射能汚染された酸性雨という最悪に最悪を重ねたような液体が降り注いでおり、その時点でもかなりパンチが効いている一本なのです。そんな雨が降っている中で、更には政府と革命軍が戦争を繰り広げているという無理トピアっぷり。この限界状況で、政府高官達は地下シェルターであるバンカー・パレス・ホテルに逃げ込むのだが……というのが大体のあらすじなのですが、この時点で大分面白い。監督がバンド・デシネであるからか、バンカー・パレス・ホテルの造形や内装もセンスがあるのです。かの名作洋ゲーFalloutシリーズやBioshockシリーズを思わせる不穏さ……。
キツすぎる雨、ギスギスした人間関係、センスの良い舞台を楽しんだ上で、最後に待ち受けるどんでん返し! という隠れた名作なので、これは是非広まって頂きたい一本です。とにかくディストピアが……好き……。
原題は「Demolition」。直訳すると「解体」になるのだが、まさに破壊や解体……そして再生を描いた映画だ。
妻を亡くしたのに、一滴の涙も出ない夫。何故悲しくないのか? 自分の心は壊れてしまったのか? そんな疑問を発端に、周りの物をかたっぱしからぶち壊していく。
ぶっちゃけ雨はあまり関係ない。しとしと降る雨の日より、激しい雷雨の日に観たい映画である。(パンをひとつ盗んできた)
雨の日は会えない、
晴れた日は君を想う
晴れた日は君を想う
雨の日は会えない、晴れた日は君を想う(2015)
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
製作国:アメリカ
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
製作国:アメリカ
シンプルな英題(Demolition:解体)に対して長い邦題というパターンであり、このタイトルが本当に素晴らしい一作です。そして、個人的には2017年のベスト3の中に入った一本でもあります。
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物語は主人公のデイヴィスが、自動車事故に巻き込まれ妻のジュリアを亡くしたところから始まります。そこからデイヴィスが立ち直るまでを描くと思いきや、そういうわけでもない。何しろこのデイヴィスは、妻のジュリアを全く愛せていなかったのだ! 不仲だった妻を突然亡くしたデイヴィスは、思い切り悲しむことも出来ず、ただ割り切ることも出来ず、緩やかに壊れていきます。この何とも言い難い心の動きを描くのが上手い……! 虚無の日々を送るデイヴィスは、英題通りに『解体』に取り憑かれていき、身の回りにあるものを全部解体していくのですが、これがビジュアル的にも気持ちいい。冷蔵庫からパソコン、トイレのドアに至るまでを楽しそうに破壊していくのを見るだけで面白い。これってこういう構造になっていたんだ……という驚きもあるわけです。
デイヴィスは周りのものを破壊し尽くしていきつつ、その過程で自らの人生もぶち壊していくわけですが、観客は彼の人生と彷徨をゆったりと眺めることしか出来ません。この温度差が心地良い……。重機で家を破壊しながら、自分の「どうとも言えない感情」に名前を付けに行くデイヴィスの旅路の行く末は、じわりと泣けていいんです。それに、改めて触れますけどこのタイトル、口当たりが良すぎる……!(そして雨はあまり関係がない)
ついでに気になったんですが、「パンをひとつ盗んできた」さん、大分アヴァンギャルドなお名前ですね?
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というわけで、今回は上記の3本をピックアップしました。映画では〝雨というものが世界に与える影響〟というものが強くていいですね。そういう意味で、映画の中の雨は代弁者であるのかもしれません。
ところで、今回の原稿が一貫して敬語なのは、そちらの方が多少書きやすいからです。コラムといえばである調だ! という意識で敬語を止めていたんですが、今回は敬語を解禁しました。何故ならそちらの方が脳のリソースに多少余裕が出来るからです。脳のリソースに多少余裕を持たせたいのは、〆切が本当に大変なことになっているからです。今回はもう流石に駄目かもしれません。こういう時こそ輝きを追い求めたいので、とりあえず『アメリカン・アニマルズ』を観てきます!
=了=
(パンタポルタからのお知らせ)
6月のテーマは「これの主人公にはなりたくない!」映画
映画を観ていて、「こんな展開、自分だったら耐えられない!」「この事件に巻き込まれたら嫌だな……」なんて思うことはありませんか?
今月は、「これの主人公にはなりたくない」と思う映画を募集します。自分だったらこうするのに! というご意見などもお待ちしております。タイトルだけでも大歓迎です☆
※募集期間:6月3日(月) 17:00 まで
*作者紹介*
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2018年10月に発売された『私が大好きな小説家を殺すまで』も大好評発売中!
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