中世ヨーロッパといえば騎士の時代。騎士たちはどのような暮らしをし、何を見て何を考え、どんな人生を送っていたのでしょう?
このシリーズでは、1165年にフランスに誕生した架空の騎士ジェラールを案内人に、中世ヨーロッパと騎士の姿をわかりやすくご紹介していきます。
第14回目のテーマは、「トーナメント」です!
目次
遍歴の旅
小姓として宮廷に仕えながら修行に励んだジェラール。18歳になったある日、いよいよ騎士として叙任されることになりました。
叙任式当日、臨んだジェラールはまず鎧姿で王の前にひざまずきます。フランス国王フィリップ2世は剣で軽く彼の肩を叩くと、その剣を彼に与え、騎士に叙任する旨をおごそかに告げました。続いてジェラールも、騎士に恥じない振る舞いをすることを誓います。
最後に小姓たちが拍車(靴のかかとに取り付ける馬具)を銀色のものから金色のものへと交換し、叙任式は終了です。
こうして晴れて騎士となったジェラールは、グループを組んで「遍歴の旅」に出ました。これは一種の修行の旅で、各地を巡ってトーナメント(模擬試合)に出場し、戦いの腕を磨くのです。
旅の間の生活費は、父親や一族から仕送りしてもらったり、トーナメントの賞品で賄ったりました。父上には頭が上がりません……
まさに軍事訓練 トーナメントの主な競技
ジェラールも出場した「トーナメント」とはどんなものでしょう?
トーナメントは11世紀頃のフランスで誕生した模擬試合・武芸試合で、騎士としてどちらが勇ましく武技に優れているかを対戦で競い合うというものです。
勝者は戦利品(賞品)として相手の武器や鎧をもらうことができます。しかし、実戦さながらの武装をし、本気で勝負するため、時にはケガ人や死人が出ることもありました。
戦争が無い間退屈していた騎士たちにとって、トーナメントは自分の力を示せる絶好の機会でした。もし優秀な成績を残せれば、出世につながる可能性もあったのです。
当初はルールも確立しておらず、流血沙汰になったり乱闘に発展するケースもあったため、禁止されることもあったといいます。しかし、時代とともに娯楽性が強くなり、宴会やチェスの試合、腕相撲なども行われるようになると、お祭りのように賑わう場所となりました。見物人の中には貴婦人もおり、見物台を設けて高みの見物をしたといわれています。
トーナメントというと、現代では勝ち上がりの試合形式のことをいいますが、当時行われていたトーナメントには勝ち上がり形式だけでなく、個別の試合もありました。個人戦もあれば団体戦もあり、人数も様々です。
トーナメントの主な競技を簡単にご紹介しましょう。
*ジョスト(1対1の馬上槍試合)
80m程の距離をとった2人の騎士がランスを構えて互いに突撃し合い、すれ違いざまに相手をランスで突いて馬上から突き落とすという競技です。何度やってもどちらも落馬しない場合には、下馬して剣で戦い勝敗を決めていました。
*フット・コンバット
こちらも1対1で行われます。馬を下りた騎士が鉄の鎧を着て、ウォー・ハンマーで殴り合うというものでした。
*トゥルネイ(団体戦の馬上槍試合)
競技内容はジョストと同じですが、こちらは団体戦です。サッカーコートの3倍を超えることもある広い敷地を使い、二手に分かれた馬上騎士たちが乱戦を繰り広げます。
団体戦は個人戦よりも盛り上がりました。大声援を受けて戦うと、不思議と力が湧いてくるんですよね
トーナメントのための武器や防具
トーナメントは軍事訓練そのものともいえる激しい内容だったため、次第にトーナメント用に安全に配慮した武器や鎧が考案されるようになります。
*ランス
穂先の無いものや、コロネルと呼ばれる王冠状の穂先の付いたランスが登場します。ランスを中空にしたり、わざと折れやすい材料を使って衝撃を軽くすることもありました。
*剣
重傷者が出ないよう、切っ先や刃先をつぶした剣が使われるようになります。
*鎧と楯
トーナメント用の鎧は16世紀初頭に完成したといわれています。ジョスト(馬上槍試合)では身体の左側が狙われるため、喉元と左肩、左胸はマントー・ダルムと呼ばれる鉄板(鉄楯)で重点的に覆われました。左上腕には巨大なパスガードも装着されます。こうした装備には、実戦用の鎧よりも厚く大きな鉄板が使われました。
*ヘルム(大兜)
ヘルムは頭部全体を覆うことのできる大兜です。槍や槍の破片が目に刺さる事故を防ぐため、トーナメント用のヘルムは実戦用のものよりさらに目の隙間部分が狭くなっています。騎士たちは前傾姿勢で相手を見定め、槍で突き合う直前に胸を張る姿勢に戻ることで、小さな隙間から槍の破片が飛び込んでくるのを避けていました。
ヘルムや鎧は重く、団体競技では特に戦いにくかったため、小さな穴を開けて軽量化したり、半分が格子状になった球形の兜も使用されています。
こうして私は2年程諸国を遍歴し、各地でトーナメントに参加した後、帰国しました
次回はいよいよ最終回。十字軍と騎士道修道会についてお話します。お楽しみに!
◎参考書籍
『中世騎士物語』
著者:須田 武郎
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