決してお世話にはなりたくない牢獄。
しかしながら、『巌窟王』モンテ・クリスト伯や『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンなど、名作には牢獄に収監されながらも苦難を切り開いていった主人公たちが数知れません。
馴染みのない牢獄を物語に描こうとするのなら、もちろんリアリティある描写が欲しいものですね。
臭い飯は実在するのか、トイレやお風呂事情など、牢獄生活は知らないことばかりです。
現代の牢獄生活とはどのようなものなのでしょうか。
罪を償うために日夜を過ごす、罪人たちの牢獄生活にクローズアップしていきましょう。
目次
ヘルシーor粗食? 牢獄生活に臭い飯は実在するか
服役することを「臭い飯を食う」と表現します。
さて、牢獄の食事とは本当に「臭い」のでしょうか。
実をいうと、現代の刑務所の食事にはどうやら当てはまらないことのようです。
受刑者の食事は、朝昼晩の3回で綿密なカロリー計算を元に作られており、その量も刑務所で従事する作業・運動量によってきっちりと調節されています。
メニューの一端をご紹介すると、ある日の夕食は、ご飯・味噌汁・ちくわの天ぷら・煮豆・高菜漬けなど。主食、主菜に加えて汁物や副菜も提供されています。バランスのとれた食事のようですね。
「臭い飯」という表現のルーツは、どうやら水洗トイレが設置される前の時代まで遡るようです。昔の牢獄では、房内の「置き便器」という便の入れ物に排泄物を溜めておく方式だったために、臭いとともに食事をとる必要があったようです。
これが毎日のことと思えば、ヘビーな食事時間のように思えますね。
また、一説には主食のコメに混ぜられる、麦のにおいがきつかったためだとも言われています。実際、昔の牢獄の食事に出されていた「押し麦」は囚人に不評で、昭和58年(1983年)にはにおいや食感の改善のために、従来の押し麦から強化精麦に変更されました。
いまでも、日本国内の刑務所では米と麦を混ぜたご飯が主食です。
こうして様々な改善が図られ、現代の刑務所では年末年始にはそばやおせち料理のほか、祝日には菓子類なども配られるようになりました。カレーライスや自家製のパンなどを口にする機会もあるようです。とはいえ、決して贅沢な食事というわけではなく、2007年発表の法務省の資料によれば、受刑者1人分の毎日の食費は420〜430円ほどで近年は推移しているといいます。
刑務所では、準備時間を除き食事の時間は10分ほどが目安です。好きなおかずを他人からもらうことは禁止されており、それを破ると懲罰を受けます。
牢獄らしい厳しさは食事の時間にもしっかりとあるようですね。
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プライバシーは最低限、牢獄生活のバス・トイレ
牢獄生活では、ひとりでゆっくりと湯船に浸かるということはできません。入浴は刑務所内にある、共同利用可能な浴場で行われます。そして毎日の入浴も許可されていません。夏は週に3回、冬は2回が目安です。毎日お風呂に入ることが習慣であれば自分の臭いが気になってしまいそうですね。
体を洗ったり湯に浸かったりする時間は15分、スピーディな入浴が求められます。私語はもちろん禁止。石鹸やシャンプーなどは受刑者自らが準備しますが、刃物にあたるT字カミソリは貸し出し品となっています。
このカミソリはひげのほかにもみあげを整えるのにも利用されますが、ここにも牢獄の厳しさが潜んでいます。もみあげの長さは目尻の高さに合わせるのが規則なのだそうです。自由なおしゃれはできません。
浴場には刑務官が入浴中の囚人たちを、監視するスペースも設けられています。
さて、お風呂が監視されていることはわかりましたが、トイレはどうでしょうか。
こちらも残念ながら、完全な個室は用意されません。成人男性の独居房・雑居房には、それぞれにトイレが設置されていますが、便器の周りには目隠し用の衝立があるだけです。その高さは1mほどで、刑務官が囚人のトイレを監視できる作りになっています。
また少し変わった点として、トイレットペーパーはロール式ではなく、四角いちり紙をつかうことになっています。その支給枚数は月に450枚。
不足してしまったことを思うと、ちょっとゾッとしてしまいますね。
実はシャバより健康的? 牢獄生活の運動事情
牢獄とはいえ、ずっと檻の中に収監されているわけではなく、入浴のない日には運動の時間が設けられています。場所は刑務所の中にあるグラウンドや体育館で、天気を問わず何らかの運動を行う時間が設けられているのです。運動の時間は一日に40分〜45分ほど。体力や健康の維持が目的とされています。
運動の種目は多岐にわたり野球・バレーボール・卓球・ランニングなどで、どれを選ぶかは受刑者の自主性にある程度任されています。
運動の時間は厳しい牢獄の生活の中でも、雑談が許可される貴重な時間でもあります。
ただ、こうしたコミュニケーションが許されるのは雑居房で服役する囚人たちに限られ、独居房で過ごしている受刑者は、塀で仕切って区切られた小さなスペースで運動をすることになります。体操や筋力トレーニング、縄跳びなどをして過ごすことが多いようです。
こうした日々の運動の成果を発揮する場として、刑務所ではスポーツ大会が年中行事として設定されています。ソフトボール大会や多種目を競う運動会などがあり、受刑者たちも練習や応援にも熱を入れて取り組み、大変な盛り上がりをみせます。
普段の諍いや小競り合いも、この時にはなりを潜め一致団結するようです。
娯楽の少ない牢獄生活での貴重な機会だといえますね。
ライターからひとこと
ベジタリアン向けの食事も、今の刑務所では対応しているのだそうです。自由のきかない牢獄の生活でも、宗教や信条についてはある程度尊重をしてもらえることがわかります。
閉じられた世界であり様々な制約のある刑務所は、物語の舞台として魅力的なポイントがたくさんありますね。
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