中世騎士道物語の定番「アーサー王」。物語の中で偉大な英雄王として描かれるアーサーですが、実は彼には罪の意識を抱く相手がいました――異父姉との間に生まれた息子モードレッドです。
『アーサー王』(佐藤 俊之著)では、物語の登場人物一人ひとりにスポットをあて、人物像やストーリーを丁寧に追っています。今回は本書を参考に、モードレッドと父王アーサーの物語をご紹介します。
目次
モードレッド 呪われた出生の秘密
モードレッドの父はブリテン王アーサー、母はアーサーと対立していたロット王の妻モルゴースです。モルゴースはアーサーの異父姉ですが、アーサーの父ウーサー・ペンドラゴンに自分の父親を殺され、母親も奪われたことから、ウーサーを憎み、彼の息子アーサーに仕返しをしようと考えます。
そこでモルゴースは自身の美貌を武器に、まだ少年だったアーサーを言葉巧みに誘惑すると、息子のモードレッドを授かりました。当時他の女性(後に妻となるグィネヴィア)に恋していた彼をもてあそぶことで、罪の意識を与え、しかも相手は姉であるという事実で彼の家名に傷も与えようというモルゴースのたくらみは、こうして成功したのです。
魔法使いマーリンは、モードレッドが後に王国を滅ぼす元凶となることを予言していました。しかしマーリンはその子が生まれる日にちしか知らなかったため、王国を救おうと、その日に生まれた子ども全てを殺させることにします。
こうしてたくさんの赤子が崖から投げ落とされました。ところがモードレッドだけは草木の枝と柔らかい砂浜に助けられ、奇跡的に無傷で助かります。
アーサーは心に深い傷を負いました。無実の子どもをたくさん殺してしまった上、実の息子も殺そうとしたことを深く悔いたのです。そこでアーサーはモードレッドを甘やかして世話を焼き、成人後は円卓の騎士として取り立てることにしました。
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深まる悩みとモードレッドの恐るべき計画
こうして誕生したモードレッドは、王とその姉の子という呪われた出生に激しいコンプレックス抱いたまま、寡黙で内向的な青年に育ちます。騎士としては勇敢で優れていましたが、激しやすく、怒ると手がつけられなくなるという一面もありました。
彼はアーサー王の子として周囲からそれなりに敬意を払われていましたが、集まってくるのは彼の立場を利用しようと考える者ばかりで、友人らしい友人もできません。
モードレッドは宮廷生活に嫌気がさし、しだいに母方の兄弟とばかり過ごすようになりました。中でも異父兄アグラヴェインとは気が合い、唯一心を許すようになります。
当時、モードレッドは引き続き己の出生について悩んでいました。彼はアーサー王の息子ですが、王妃との間にできた正式な子ではないため、後継者には指名されていませんでした。
心の奥底では父親を慕い、憧れつつも、父に認められないことに反発していたちょうどその頃、母親のモルゴースがモードレッドの異父兄ガヘリスによって殺害されるという事件が起こります。
激しく傷つきショックを受けたモードレッドは、母を殺した異父兄弟たちを利用し、父王から王位を簒奪して自分のことを認めさせようと考えるようになりました。
モードレッドと父王アーサーの対決
モードレッドは手始めに、異父兄ガウェイン、アグラヴェインとともに母の愛人ラモラック卿を斃すと、聖杯探究に出ていた多くの円卓の騎士たちを殺害していきました。
アグラヴェインが王妃とランスロットの浮気現場に踏み込んだ時には、モードレッドは彼を先頭に立たせ、自らは後ろから眺めるだけに徹します。ランスロットの反撃を受けアグラヴェインは斃されましたが、モードレッドは辛くも逃げおおせました。唯一心を許した親友さえ、モードレッドは捨て駒にしたのです。
その後、モードレッドの異父兄ガヘリスとガレスもランスロットに殺害され、円卓の騎士たちの絆はついに崩壊します。ランスロットは王妃とともにフランスへ逃げ、アーサーとガウェインはふたりを追って出陣していきました。
これを好機ととらえたモードレッドはブリテンに残ると、アイルランド人やサクソン人といった外国の諸侯たちと密約を結んで自分の味方とします。
しばらくすると、ランスロットは王妃をアーサー王に返すことを申し出て、グィネヴィアはひとりキャメロットへと戻ってきました。そこでモードレッドは「アーサー王が戦死した」と嘘をつき、王妃グィネヴィアと結婚して王位を継いだと宣言します。
さらにフランスへ出征中の騎士たちの領土を外国人たちに与える代わりにその軍隊を手に入れ、金銀をばらまいて人々の人気を集めることに成功しました。
こうしたモードレッドの所業がフランスへと伝わると、アーサー王とランスロットは休戦し、アーサーはブリテンへと急ぎ戻って来ました。モードレッドはまず、アーサーに付き従っていたガウェインを一騎打ちで斃すと、キャムランの丘に陣を張りました。憧れつつも憎んでいた父と、ついに対決する時が来たのです。
戦いは凄惨を極めました。両軍の騎士たちは激しくぶつかり合い、ばたばたと血の海に倒れていきます。気がつけば立っているのはモードレッドとアーサー、アーサーの側近ルーカンとベディヴィアだけでした。
壮絶な討ち合いの末、アーサーの剣エクスカリバーがモードレッドの胸を深々と貫きました。モードレッドはエクスカリバーの刀身をむんずと掴んで引き寄せ、父王の頭蓋に深々と剣を浴びせます。
戦いはこうして決着し、ふたりは剣の抱擁を交わしたまま亡くなりました。英雄王アーサーの伝説は、息子モードレッドとの悲しくも呪われた運命によって幕を閉じたのです。
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