文:斜線堂有紀
「幻想キネマ倶楽部」とは?
毎月28日にお届けする、小説家の斜線堂有紀先生による映画コラムです。
月ごとにテーマを決めて、読者の皆さんからテーマに沿ったオススメの映画を募集します。
コラムでは、投稿いただいた映画を紹介しつつさらにディープな(?)斜線堂先生のオススメ映画や作品の楽しみかたについて語っていただきます!
今月は「ヒーロー映画」観てみない?
いよいよゴールデンウィークが始まる。楽しい楽しい10連休、このGWの一大イベントといえば『アベンジャーズ エンドゲーム』の公開である。……いや、これでやっぱりはしゃいでしまう。だって、単体映画で主役を張っているヒーロー達が一同に会して強大な敵に立ち向かう紛う事なき祭……これにはしゃがずにはいられない……! あんな状況から本当にアベンジ出来るのか、街でポスターを観る度にハラハラしている。楽しみである。
というわけで、今回は『アベンジャーズ』に因んでヒーロー映画回である。多種多様なヒーローと多種多様な価値観を描いたバラエティに富んだ映画を紹介したい。
現実にヒーローがいたら、歴史がどうなっていったか?と、考えさせる作品。
あと、ロールシャッハがハードボイルドすぎて大好き。(アカサル)
ウォッチメン
ロールシャッハをダークヒーローと呼んでいいかはわかりませんが、最高のダークヒーロー映画!社会派ミステリーとヒーローが奇跡の融合を果たしているのを観て衝撃でした。斜線堂先生はこういう一口に語れない映画がお好きそう…。(トリコ)
ウォッチメン
ウォッチメン(2009)
監督:ザック・スナイダー
製作国:アメリカ
監督:ザック・スナイダー
製作国:アメリカ
というわけで、最初に紹介したいのが異色のヒーロー映画の『ウォッチメン』である。社会派ミステリーとヒーロー映画を組み合わせたこの作品は米ソ冷戦の続く1985年を舞台としており、終始シリアスな社会情勢を軸に物語が進んでいく。否応なく高まった緊張が、核兵器の使用にまで発展しようとしている世界だ。
そんな冷え切った世界で、ある日〝コメディアン〟という名前のヒーローが殺害される。一体誰が何の為にヒーローである彼を殺したのか? この不可解な事件を受けて、同じくヒーローであるロールシャッハが真相の解明に打って出る。というのが全体のあらすじだ。
何と言ってもこのロールシャッハのキャラクターがいい。皮肉屋で苛烈で、自分の正義を絶対に曲げないロールシャッハは、世界にも人間にも絶望しているのに、それでもヒーローで在り続けることを選んだ男だ。彼の性質を端的に現しているのが「たとえ世界が滅んでも絶対に妥協しない」という象徴的な台詞だろう。ヒーローの資格とは自分の生き方を曲げないことなのかもしれない。
一体何故ヒーローは殺されなければいけなかったのか? 緊張高まる冷戦の行方は? というフックで物語を牽引しながら、ヒーロー達のミステリーは急転直下の結末を迎える。決して明るい物語ではないが、数年先も忘れられない極上の1本である。尋問する時はとりあえず指を折るというおよそヒーローらしからぬロールシャッハを、見ていると絶対に好きになってしまうはずだ……。今考えると、ロールシャッハはヒーローというよりフィリップ・マーロウ系の名探偵に近いような気もする。まあ、フィリップ・マーロウはやたらめったら人の指を折ったりはしないのだが……。
近接戦闘のバトルシーンが本当にかっこいいのと、キャプテン・アメリカと今作のヴィランであるウィンター・ソルジャーとの関係性がオススメです。
この作品はキャプテン・アメリカシリーズの第二作目なので一作目と合わせてぜひ…。GWにアベンジャーズシリーズ最後のエンドゲームもあります……。(ごえもん)
キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー
キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー(2014)
監督:アンソニー・ルッソ/ ジョー・ルッソ
製作国:アメリカ
監督:アンソニー・ルッソ/ ジョー・ルッソ
製作国:アメリカ
ヒーローとヒーローがお互いの正義をぶつけ合うのが凄くいいです。前半のアクションシーンでキャップの武器威力の凄さを知った後で後半のシーン見るとほんと容赦なくて震えました。(ぴん)
シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)
監督:アンソニー・ルッソ/ ジョー・ルッソ
製作国:アメリカ
監督:アンソニー・ルッソ/ ジョー・ルッソ
製作国:アメリカ
この2本は別の映画なのだが、密接に繋がっているので同時に紹介させて頂こうと思う。というのも、この2本はキャプテン・アメリカというヒーローの人生の物語だからだ。正直、アベンジャーズを薦めるにあたって一番のハードルになるのがこういった「履修していないと何が何やら」の部分だと思うのだが、これに限っては何卒一緒に、の気持ちが拭えない。出来れば『アイアンマン』についても一緒に観て欲しい。
本当に簡単に説明すると『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』の内容とは、アベンジャーズの中でも初期から活躍していたリーダー格の二人、アイアンマンとキャプテン・アメリカが諸々の価値観の違いから対立するようになってしまうというものである。この辺りは本当に簡単に説明している次第なので、詳細は各々で確認して頂ければ幸いである。単純な話『2人ともが単体で主役を張るようなヒーローだというのに、全力で戦うのを観れるのが楽しい!』という部分はあるし、これから観ても結構楽しめると思う。思うのだが、私がこの映画を関連作品まで合わせて薦めてしまうのは、ひとえに人間の人生の重なり合いを観られるからである。
2人の人間が対立する時、ついどちらが正しいのかを考えてしまいがちである。けれど、当然ながら誰かの選択には、それに至るまでの人生があるのだ。このコンテンツの凄いところは、選択の背景にある『人生』を1本分の映画の濃さで見せてくれるところなのだ。
アイアンマンの選んだ答えも、キャプテン・アメリカの選んだ答えも、各々『アイアンマン』『キャプテン・アメリカ/ウインター・ソルジャー』あるいは『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』の流れを経てのものだと、観客はメタ視点で理解出来る。映画を観ることで人間の人生を第三者視点で、彼らが悩み葛藤し決断しているのを追っていける。この点だと他の映画もそうじゃないかと思われるかもしれないが、クロスオーバー映画では、観客はその人生のぶつかり合いまでを目の当たりにすることが出来るのだ。
そして、ここが一番のポイントなのだが、その『選択までの人生』を完全に把握出来ているのは観客である私達だけなのだ。映画の中の彼らは、映画の中だけでの情報しか共有出来ていない。なので、各々のキャラクターの心情を一番俯瞰して観られるのが私達であるということになる。
だからこそ『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』は観客が一番辛い気持ちで観られるエンターテインメントなのである。どちらの気持ちもどちらの人生も分かるからこそ、一番「ああーっ……」と声を出せるのだ。この体験がとにかく唯一無二なのだ。私は「他人の人生の脇役は別の人生の主役」という世界の仕組みが大好きなので、それがたっぷり味わえるマーベル・ユニバースはたまらない。
なので、こういうタイプの人生を消費したい方は、軽率に手を出して頂けると嬉しい。人生と人生の繋がりが化学反応を起こすのを観ていると、脳から異様な快楽物質が出る。
***
というわけで、今回はこの3本をピックアップさせて頂いた。やっぱりどうしても『アベンジャーズ エンドゲーム』に沸き立っている記事になってしまった。とにかく楽しみなのだ。
けれど、〆切に追われているこの状況にあって、果たして私は公開当日に観に行けるのだろうか。こうなってくると観ている人が羨ましすぎて、インターネット断ちをする羽目になるかもしれない。公開当日に観に行きたいなら仕事をまず終わらせなければいけないわけで、でも折角のアベンジャーズ最終作なのだからシリーズ全てを復習して望みたい気持ちもあって、何とも悩ましいのだ。
=了=
(パンタポルタからのお知らせ)
5月のテーマは「雨」の映画
5月が終わり、6月に入るとやってくるもの……そう、梅雨の季節の到来です。
「雨の日は外にでるのが面倒くさいなぁ」 なんて思ったりしませんか? でも、そんな時こそ映画を観るいい機会です!
今月は、そんな「雨」にまつわる映画を募集します。雨のシーンが印象的な映画や雨の日に観たい映画をお送りください! タイトルだけでも大歓迎です。
※募集期間:5月6日(月) 17:00 まで
今回のはみ出し映画語り
勝新太郎座頭市の集大成。2003年公開の北野武監督によるひたすらスタイリッシュな座頭市とは対照的に泥臭くて荒っぽい座頭市、でもそこがかっこいい! 一挙手一投足が本物の盲人のようで、なのに超人的な強さにもしっかりと説得力があるのだから勝新太郎はすごい。この1989年版には若き日の陣内孝則や片岡鶴太郎、それに先日亡くなった内田裕也の出演していて、そうしたキャスティングも見どころ!(東雲佑)
座頭市(1989)
座頭市、私も好きなキャラクターの一人です。北野監督作品が好きなのもあって、よく観返すのは2003年版なのですが、1989年版も格好良い。強さに説得力があるというのがまさにその通りで、達人的な強さを持つものは振る舞いでそれと分かる、というのを演技で体現しているのが凄まじい。あと、この映画で特徴的なのが劇中歌。かねてからファンの間でマカロニ・ウエスタン風と称されていた、物寂しい男性ボーカルによる英語の歌が流れるのである! 一部の人にしか伝わらない喩えで言うと、サバイバル系洋ゲーの劇中歌のような歌が……。まるでうち捨てられたラジオから流れているかのような……。何となく『キル・ビル』を思わせる映像と歌のマリアージュがまたいいのである。ところで東雲先生、お大事になさってください!
一見なんかやべー組み合わせに見えるしファンの間でもいろいろ言われることはありますが「手を繋ぐ」っていうオーズのテーマとぴったり合っていて素晴らしい映画です。
劇場版なので演出もすごいです 見るときはぜひ「手」の演出に気をつけてみてほしいです。放送中に震災があったライダーなのでそういう意味でもたいへん素晴らしい映画です。あと予算最強といわれるガタキリバが惜しみなく使われているののもおすすめです。
もちろん本編を知っていたほうがより楽しめますが平ラの映画はだいたいが本編見てなくても見れるので大丈夫です。
ヒーローだけどどこかおかしいパンツが好きな無欲の主人公火野映司と人間の欲望からできた腕だけのアイスが好きな怪人アンクの関係がたいへんエモです。映画でも仲良しです(個人的には斜線堂先生に本編での二人の関係をめちゃくちゃ見てほしいです…)。採用しなくてもいいのでぜひ見てほしいです。よろしくおねがいします。(あらふねくん)
劇場版なので演出もすごいです 見るときはぜひ「手」の演出に気をつけてみてほしいです。放送中に震災があったライダーなのでそういう意味でもたいへん素晴らしい映画です。あと予算最強といわれるガタキリバが惜しみなく使われているののもおすすめです。
もちろん本編を知っていたほうがより楽しめますが平ラの映画はだいたいが本編見てなくても見れるので大丈夫です。
ヒーローだけどどこかおかしいパンツが好きな無欲の主人公火野映司と人間の欲望からできた腕だけのアイスが好きな怪人アンクの関係がたいへんエモです。映画でも仲良しです(個人的には斜線堂先生に本編での二人の関係をめちゃくちゃ見てほしいです…)。採用しなくてもいいのでぜひ見てほしいです。よろしくおねがいします。(あらふねくん)
劇場版 仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル
オーズも送ったのですけどどっちかに決められなかったのでこちらも送ります。
すみません(オーズ熱が入ってしまって上手く書けませんでしたすみません。本編は怪人がひたすらに悲しい話です)。 電王ぶりに本編サイドストーリーの劇場版なのですが。
ライダー映画の中でも「知らない人でも楽しめる」に一番あう映画だと思います。
本編でいつも助けられるばかりだった風都の街がWを助ける展開がとても熱いのと原作リスペクト全開で最高なのと劇場版限定フォームと仮面ライダーエターナルがすごいかっこいいです。
W本編はダブル主人公のひとりフィリップくんの謎が大きく絡んでくるのですがこの映画はおもに彼にスポットライトを当てたものになります。菅田将暉さんの演技が素晴らしいです。どの平成ライダーもそうなのですがとても悲しくて温かい話です。
先ほど送ったオーズに比べて敵サイドも感情移入できるようになっていると思います。ぜひ見てみてください。(あらふねくん)
すみません(オーズ熱が入ってしまって上手く書けませんでしたすみません。本編は怪人がひたすらに悲しい話です)。 電王ぶりに本編サイドストーリーの劇場版なのですが。
ライダー映画の中でも「知らない人でも楽しめる」に一番あう映画だと思います。
本編でいつも助けられるばかりだった風都の街がWを助ける展開がとても熱いのと原作リスペクト全開で最高なのと劇場版限定フォームと仮面ライダーエターナルがすごいかっこいいです。
W本編はダブル主人公のひとりフィリップくんの謎が大きく絡んでくるのですがこの映画はおもに彼にスポットライトを当てたものになります。菅田将暉さんの演技が素晴らしいです。どの平成ライダーもそうなのですがとても悲しくて温かい話です。
先ほど送ったオーズに比べて敵サイドも感情移入できるようになっていると思います。ぜひ見てみてください。(あらふねくん)
仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
この熱い投書を読んで、観ようと思いました(本編とMOVIE大戦を観ていながらワンダフルもガイアメモリも観ていなかったという体たらく……)。何処かおかしい火野映司、何度か読者の方にご指摘頂いてるんですが性癖のキャラです。好きなんですよね、ああいうキャラが……!
『アンブレイカブル』『スプリット』に続くシリーズ3作目にして、終幕の物語。
シャマラン節全開の傑作でした! 人生をかけてヒーローを追い求め、その存在を世に知らしめたミスター・ガラスこそ、我らのヒーローなのだ。(コサイン)
シャマラン節全開の傑作でした! 人生をかけてヒーローを追い求め、その存在を世に知らしめたミスター・ガラスこそ、我らのヒーローなのだ。(コサイン)
ミスター・ガラス
正直これは奇作の部類に入ると思うんですが、三部作全てで楽しませて貰ったので私も好きな映画です。このコメントを読んでいるあなたは『スプリット』だけは知っているかもしれません……何故ならあの映画は1つだけかなり話題になったから……! 話題になったのに、あれが3部作の2作目であることは事前にあまり周知されていなかった気がします。というのも、私も観るまであれが『アンブレイカブル』の次作にあたる作品だと知らなかったから……! 3本観るとまた趣が違ってくるのも良い感じ。ちなみにこの3本なら『アンブレイカブル』が一番綺麗な狂人の論理という感じで好きです。
2011年公開作品。70年代特撮番組の映画化作品です。監督は『片腕マシンガール』の井口昇。
個人的に刺さったのは“音”ですね。主題歌や(子門真人のED「俺の兄弟ザボーガー」が劇中に流れたときには目が潤みました)BGMだけでなく、効果音も当時のものをかなり再現しています。バイク形態のザボーガーが走行するときの「キュルルル」って電子モーター音とか、変型時の「ジャキーン!」って音とかですね。「確かにこんな音してた!」と映画館で興奮しました。音の記憶って意外と深いんですね。(モーニングスター)
電人ザボーガー
モーニングスター先輩、一体どんな映画知識の蓄え方を!? 全く知らない映画だったのですが、この熱量に圧倒されたので今度観てみようと思います。フェチズム満載のスプラッタアクション映画『片腕マシンガール』があたかも超有名作であるかのような紹介コメントがツボでした(でも、Netflixで配信された辺り、実は人気作なのかもしれない……)。
*作者紹介*
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に発売された『私が大好きな小説家を殺すまで』も大好評発売中!
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に発売された『私が大好きな小説家を殺すまで』も大好評発売中!