ファンタジーRPG入門㊷
3/16/2019
D&D TRPG コラム ファンタジーRPG入門 上田明(HobbyJAPAN)プレイヤー・キャラクター(以降"PC")のレベルが5レベルくらいまでを対象とするアドベンチャー・シナリオの作成では、国や世界を左右する力ではないので世界設定までカバーせずとも楽しめるアドベンチャーを作ることはできる。
だが、小規模な物語から世界設定を組み込みたい向きもあるだろう。ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版には、サプリメント『ソード・コースト冒険者ガイド』がある。D&D第5版はフォーゴトン・レルムを主要世界としている。その中でも過去のD&Dのサプリメントやアドベンチャー、小説、デジタル・ゲームなどで舞台となる場所が多い、大陸西海岸のソード・コースト地方を詳しく紹介している(*1 。
同書については、ファンタジーRPG入門 第23回、ファンタジーRPG入門 第24回で詳しく紹介している。 続くファンタジーRPG入門 第25回では、D&D第3.5版の世界設定サプリメント、ファンタジーRPG入門 第26回では第4版のサプリメントも紹介している。
アドベンチャーの背景設定としての活用はもちろん、『大口亭綺譚』『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』の“大口亭”主人ダーナン(*2 や、『ウォーターディープ:狂える魔道士の迷宮』に登場する問題の魔術師やその弟子たち(*3 は、D&D第3.5版、D&D第4版のサプリメントにも記述があり、魔法の存在するファンタジー世界の歴史を感じさせてくれる。
特に『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』は、複数ルートが作り込まれた何度も遊ぶことのできる傑作シティー・アドベンチャーであると同時に、ウォーターディープという都市のガイドブックしての記述も多くある。同書の「ヴォーロのウォーターディープ旅行ガイド」の章は充実した都市案内であるし、アドベンチャーのデータとして、登場する組織や貴族家とその構成員のデータや関係図、野心や望み、たくらみなども解説されている、密度の高いサプリメントでもある。
『ソード・コースト冒険者ガイド』には、このウォーターディープの周辺地域の設定があり、『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』は市中に詳しい。その地下の広大なダンジョンは『ウォーターディープ:狂える魔道士の迷宮』で作り込まれていて、そろっていれば1~20レベルまで遊びつくすのにも万全だ。作成するアドベンチャーのフック、敵、事件の材料に事欠くこともない。
ハック・アンド・スラッシュのダンジョン・アタックな探険を越えて、その世界の人々や地域、国といったものと付き合う物語を作るとき、その周囲や過去までも自作することは必須ではない。公式の世界設定を使えば、君とプレイヤーたちで拡げていく未来の足元には、盤石な土台が用意されているのである。
(*1 『ソード・コースト冒険者ガイド』をはじめとする第5版でのフォーゴトン・レルムの"現在"は、デイル暦1,489年である。もちろん、自作アドベンチャーの出来事が何年に起きることなのかは自由に設定してよい。
(*2 ダーナンについては第3.5版『ウォーターディープ 壮麗な都』P.50 に(当時の)経歴や人間関係が紹介されている。第5版『大口亭綺譚』にあるアンダーマウンテンから生還したという出来事は『ウォーターディープ 壮麗な都』でデイル暦1,302年と明記されている。彼が持ち帰った富でアンダーマウンテンへ通ずる穴の上に大口亭を建てた事は『大口亭綺譚』に書いてあるが、そこが何の跡地であるのかを知ると『ウォーターディープ:狂える魔道士の迷宮』を見るとき、興味深い繋がりが見えるだろう。ダーナンのウォーターディープでの立場は到底、いち宿屋の主人にとどまるものではない。彼のNPCとしてのデータは、『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』「付録B モンスターとNPC」P.203 に掲載されている。
(*3 魔術師たちとアンダーマウンテンについては第3.5版『ウォーターディープ 壮麗な都』が詳しく、同『フォーゴトン・レルムワールドガイド』、『フォーゴトン・レルム・プレイヤーズ・ガイド 第4版』、『フォーゴトン・レルム・キャンペーン・ガイド 第4版』でも紹介されているが、『ウォーターディープ:狂える魔道士の迷宮』からすると驚くようなことが書いてある。件の魔術師についてや、アンダーマウンテンという地下の広大な空間があるのに、ウォーターディープが崩落しない理由などだ。
※記事中の日付は記事公開時のものです。
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