文:斜線堂有紀
「幻想キネマ倶楽部」とは?
毎月28日にお届けする、小説家の斜線堂有紀先生による映画コラムです。
月ごとにテーマを決めて、読者の皆さんからテーマに沿ったオススメの映画を募集します。
コラムでは、投稿いただいた映画を紹介しつつさらにディープな(?)斜線堂先生のオススメ映画や作品の楽しみかたについて語っていただきます!
今月は「学園映画」観てみない?
春は出会いと別れの季節。そういうわけで今回のテーマは「学園映画」である。誰もが通ってきた道であるはずなのに、振り返ってみると異世界としか思えないあの奇妙な場所を扱った名作映画を紹介したい。ちなみに私が一番最初に浮かんだ映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』であり、2番目に浮かんだ映画は『着信アリ FINAL』だった。色々と偏り過ぎである。
きゃりーぱみゅぱみゅさんではありません。スティーブン・キング原作のホラー映画。監督はブライアン・デ・パルマ。キング、パルマとも後のビッグネーム。若き日の ジョン・トラボルタも必見!伝説の傑作B級ホラー!(Troll)
キャリー
『キャリー』(1976)
監督:ブライアン・デ・パルマ
製作国:アメリカ
監督:ブライアン・デ・パルマ
製作国:アメリカ
最初にこれを持ってくるのもいかがなものかと思ったのだが、個人的に学園映画といえば『キャリー』なので、触れざるを得ない。思春期、スクールカースト、親との確執、学園という異空間、それを全部超能力で破壊し尽くすのが『キャリー』である。原作であるスティーブン・キング氏のファンであることもあり、この映画の端正な歪みには喝采しか送れない。いじめられっ子のキャリーは鬱屈とした日々の先のプロムで、豚の血を掛けられるという最大級の悪意を向けられる。長らく虐げられていた彼女の感情は爆発し、キャリーはその場にいる生徒達を超能力によって虐殺してしまう。
この映画が学園映画として秀逸だと思うのは、登場人物の揺らぎの描き方だ。虐めの首謀者であるクリスやビリーはともかくとして、その他の生徒や先生たち、そしてキャリーがプロムに参加するきっかけとなったクラスの陽キャであるスーまでもが思春期の未成熟な子供なのだ、というのが節々から伝わってくる。ノリで虐めをしてしまう、見て見ぬふりをしてしまう、けれど罪悪感も確かにあって不意に善人になろうとしてしまう。根から悪人じゃないから、その空気さえあれば「今までごめんねキャリー」が出来てしまう心の土壌がある。何故なら彼ら・彼女達はまだ成長途中だからだ。
けれど、その成長の芽は虐殺で摘まれ、痛くて切ない青春は断裂してしまう。もしかしたらいい方向に向かえたのでは? と少しでも思わせる部分がある未熟さの描写が『キャリー』は上手いのだ。
ところで、リメイク版の『キャリー』(2013年版)でキャリーを演じているのは『キック・アス』で人気を博したクロエ・グレース・モレッツなのだが、正直彼女がキャリーだとあまりに美し過ぎていじめられっ子に見えない……と鑑賞するまでは思っていた。しかし、あのビジュアルがあるからこそ覚醒した後のキャリーの凄絶さと迫力は筆舌に尽くし難かった! 全身で悲鳴を上げているかのようなあのシルエットを見ると、知らず知らずに涙が溢れてくる。
1. シェイクスピア「じゃじゃ馬ならし」が原作(だいぶ違う)
2. 若い頃のヒース・レジャーがとにかくかっこいい
3. 原題に対してダサい邦題、しかも原作のシェイクスピア作品と違う作品名に……
4. 終盤の感動シーンで、服に変な日本語が書いてあって大爆笑(台無し)
5. イギリス人の友人たちに言わせると、今でもティーンが必ず1回は観る映画らしい
(関東シェイクスピア劇スケジュール)
2. 若い頃のヒース・レジャーがとにかくかっこいい
3. 原題に対してダサい邦題、しかも原作のシェイクスピア作品と違う作品名に……
4. 終盤の感動シーンで、服に変な日本語が書いてあって大爆笑(台無し)
5. イギリス人の友人たちに言わせると、今でもティーンが必ず1回は観る映画らしい
(関東シェイクスピア劇スケジュール)
10 Things I Hate about You(恋のからさわぎ)
『恋のからさわぎ』(1999)
監督:ジル・ジュンガー
製作国:アメリカ
監督:ジル・ジュンガー
製作国:アメリカ
今回の投稿を受けて観た1本がこれだ。投稿者は「関東シェイクスピア劇スケジュール」さん。まさにぴったりの投稿内容だと思う。百点満点だ。
これを『キャリー』の後に取り上げてしまったことで、あまりの気圧差に心の扉が吹き飛んでしまいそうである。ご機嫌なタイトルで暗示されているように、この映画は圧倒的な〝陽〟の映画であり、内容も陽の者たちが高校を舞台に恋愛をわちゃわちゃ楽しむ代物である。あまりに馴染みの無い明るさであるが故に気楽に見れるラブコメディということで、本当に楽しい映画だ。
これを観ている時に、同じく学園映画である『ウォールフラワー』を思い浮かべたのだが、あれに比べるとあまりにアッパーな映画だ。アメリカの高校生活の良い部分だけを固めて揚げたような味がする。特にヒース・レジャー演じるカースト最上位の問題児パトリックが歌で愛を告白するシーンがお気に入りだ。こういう王道でストレートな愛の物語を見ると、学生生活って物凄くいいものだったんじゃないかと思ってしまう。
ところで、コメントにもあるように、この映画は原作である『じゃじゃ馬ならし』と結構違う筋立てになってい。(そもそも時代背景も違うので映画にすると別物に見えてしまうのだ)。某所で見かけた〝主人公たちが全員金持ちボンボンなところが一番原作準拠〟という言葉にいたく納得してしまった。確かに出てくる車がやたら高級車だもんな……!?
コメントなし(かたくりこ)
サスペリア
サスペリア(1977)
監督:ダリオ・アルジェント
製作国:イタリア
監督:ダリオ・アルジェント
製作国:イタリア
投稿頂いたタイトルの中で一番好きかもしれない魔の映画が『サスペリア』である。この映画は、2018年にリメイク版も公開されたホラー映画の金字塔だ。大枠で分類すると“魔女モノホラー”なのだが、その独特の世界観が有名な1本である。憧れのバレエ学校に入ったスージーを待ち受けていたのはアイカツめいた切磋琢磨や楽しいルームメイトではなく呪いと殺戮と魔女だった! というのが大体のあらすじだ。
この映画を作ったダリオ・アルジェントはとにかく登場人物に容赦が無く、ねっとりとした不幸で彼らの自我を叩き潰していくのだ。具体的に言うなら天井から蛆虫が落ちてくるとか信頼している盲導犬が襲い掛かってくるとか、そういう「やられたら嫌だな~」というタイプの攻撃なのである。ホラー映画における監督は登場人物にいかに効果的な嫌がらせを出来るかに腕が出るので(※個人の所感です)、その点でダリオ監督は他の追随を許さないと思う。
この時点で“春に似合う学園映画”らしい紹介じゃなくなっている気がするのだが、学園生活には陰が差すものなので、ある意味そぐっているのかもしれない。
ちなみにこの映画のキャッチコピーは「決して一人では見ないでください」というおどろおどろしいものなのだが、日本でこの映画が公開された時はそのキャッチコピーに掛けて“ショック死保険”なる企画が用意された。即ち『サスペリア』を観て怖すぎてショック死したら1000万円を贈呈するという企画である。今だったら確実に炎上しそうな代物であるが、当時はこの企画がヒットに繋がったらしい。実際に1000万円を受け取った観客はいなかったようだが、『サスペリア』公開の30年後、『パッション』の上映中にショック死が引き起こされたのを思うと……。
ところで、ここまで来たら同監督の『フェノミナ』も学園映画の佳品として挙げたい。何故かGYAO!で配信されている確率が高い(気がする)ので、その都度ツイートで宣伝してしまう程度には好きな一本である。しかし、これは『サスペリア』に輪を掛けて人を選ぶ映画でもある。というのも『サスペリア』が魔女ホラーなら『フェノミナ』は虫ホラーだからだ。寄宿学校で暮らすジェニファーの学園生活に付きまとう虫と奇怪な殺人事件!
美少女に容赦なく降りかかる苦難や、あまりにも有名なクライマックスのプールシーンを思うと、ダリオ監督のホラーの手つきの美しいおぞましさに思いを馳せずにはいられない……(この辺りがツボな方は『ダリオ・アルジェント 鮮血の魔術師』というドキュメンタリーを観るととても楽しい)。
***
というわけで今回は毛色の大分違う上記の3本をピックアップさせて頂いた。
余談だが、春に味わう寂しさは何とも言い難いものがある。取り残された夏の寂しさでもなく、果ての無い冬の寂しさでもない春独特の寂しさ……。春を迎える度に「春に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ」という井伏鱒二の訳文を思い出す。願わくば花を散らすほどの嵐ではなく、穏やかな出会いだけを楽しめる春を迎えたいものである。
=了=
(パンタポルタからのお知らせ)
4月のテーマは「ヒーロー映画」
4月末から5月頭にかけてのイベントといえば……そう! ゴールデンウィークです! ゴールデンウィークに予定がなくて困ってるみなさん、そんな時こそ映画を観ましょう!
今回は、家族と一緒に観てもひとりで観ても楽しめる「ヒーロー映画」を募集します。
大好きなヒーローたちについて語りませんか? あなたのイチオシの1本を教えてください。タイトルだけでも大歓迎です。
※募集期間:4月5日(金)17:00 まで
今回のはみだし映画語り
殺人を行う女子高生二人組というところからもう最高です。
がっつり殺人シーンがあってグロいのですが、ポップな血の色と映像、雰囲気でそれを打ち消していて観やすいです。
しかもめちゃくちゃ可愛い女の子がめちゃくちゃ可愛い服を着て映っているので目の保養になる……!! 良質な百合の香りがしました。(ご飯)
がっつり殺人シーンがあってグロいのですが、ポップな血の色と映像、雰囲気でそれを打ち消していて観やすいです。
しかもめちゃくちゃ可愛い女の子がめちゃくちゃ可愛い服を着て映っているので目の保養になる……!! 良質な百合の香りがしました。(ご飯)
トラジディ・ガールズ
未視聴なので取り上げられなかったのだが、今回最も気になった作品。殺人を行う女子高生二人組、それだけで完成された百合ですね。そういう系統のポップさでまず浮かんだのが『親切なクムジャさん』なのですが、それと似た感じの共犯感がある……。
コメントなし(鱏)
少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録
テレビシリーズのウテナもいいんですが、『アドゥレセンス黙示録』も好きです。大胆に構成し直してすっぱりまとめたところと、装いを新たにしたアンシーが美しい。こちらの方がストレートなメッセージ性があるよな、と思います。しかし、主人公が車になる作品というのはこれを除けばトランスフォーマーしかないのでは?
おバカなブロンド娘が彼氏を見返すため、ハーバードの法学部に入るはなし。落ち込んだときに観ると元気になれます。神田沙也加さん主演の舞台も絶賛上映中!(マリリンはお好き?)
キューティー・ブロンド
この映画も大好きな1本である。キュートな女が勝ち上がっていく様、それも純然たる実力でのし上がっていく様ほど心の柔らかいところに刺さる描写も無い。努力が報われる物語は、何処か私達の人生を救ってくれる。まあ、それにもまして単純な部分で、キューティーブロンドが法学部に入るの、観たいんですよね。長らくブロンドというのが否定的なアイコンとして扱われていた部分を考えても美しい。舞台やるんですね!?
(※舞台は3月31日まで)
エイリアンものなのにスクールカーストやスクールラブが物語に深く絡んでいて、青春映画として最高の一作。
手の甲に鉛筆を突き刺したあと、「一回やってみたかったの」と言い放つシーンは必見だ!(水戸コンドリア)
パラサイト
実はこれも未視聴なのだが、それはそれとして「一回やってみたかったの」が言いたくなってしまう気持ちが分かる。
*作者紹介*
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に発売された『私が大好きな小説家を殺すまで』も大好評発売中!
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に発売された『私が大好きな小説家を殺すまで』も大好評発売中!