アーサー王伝説といえば誰を思い浮かべますか? 英雄王アーサー、湖の騎士ランスロット、魔法使いマーリン……いずれも皆、魅力的なキャラクターですよね。
では、ボールスはどうでしょう? そんな人登場するの? と思った方もいるのでは。影の薄い騎士ですが、実は彼、アーサー王の物語の前半から登場し、聖杯探究を成功させたひとりなのです。
今回はそんなボールスの物語をご紹介しましょう。
目次
そもそもボールスって誰?
【3行でわかる! ボールスって誰?】
- 円卓の騎士のひとり。湖の騎士ランスロットとは従兄弟であり親友。
- ガラハッド、パーシヴァルとともに聖杯探究を成功させる。
- 円卓の騎士たちの数々の冒険に登場。伝説の目撃者であり、生き延びた語り手。
ボールス卿は南フランス(ガリア)の出身で、湖の騎士ランスロットの従兄弟です。
若い頃にブリテンへと渡った彼は、初陣でアーサー王のローマ遠征に参加します。やがて円卓の騎士の一員となると、他の騎士たちの数々の冒険を助け、彼らの成功や失敗を見届けました。
その後ボールスはガラハッド、パーシヴァルとともについに聖杯探究を成功させます。それからも彼は円卓の騎士としてアーサー王に仕え続け、王の死後も生き延びた数少ない騎士のひとりとなりました。
このように、ボールスはアーサー王の物語の前半から最後まで度々登場しているのですが、主人公として描かれる場面は少なく、影の薄い存在です。
なぜなら彼は優秀な騎士でしたが、決して英雄ではありませんでした。アーサー王の物語の中で、ボールスは伝説の目撃者として英雄騎士たちと読者の間を繋ぐ役割を果たした騎士なのです。
とはいえ、今回の記事はボールスが主役です! 次項からはボールスの活躍ぶりをご紹介しましょう。
ボールス、聖杯探究の旅に出る
ボールスは穏やかで友情に篤く、謙虚で誠実な騎士でした。ちょっと地味ともいえるその性格のためか、若い頃にブランデゴア城の王女とたった1度だけ恋に落ち息子をもうけた以外は女性に縁が無く、他の騎士たちが女性や名誉をめぐって争っている間も、清廉な人物として成長を続けます。
円卓の騎士たちが聖杯探究をはじめた頃、ボールスもまた聖杯を求めて旅に出ましたが、やがて何度も幻を見るようになりました。
たとえばある夜彼は、古びた椅子と小さな花が並んでおり、威厳のある声が「枯れた木を救おうとして、花を枯らすことなかれ」と話すという幻を見ます。
その数日後、ボールスは弟のライオネルと美しい女性が襲われているところに遭遇しました。彼は悩んだ末、弟よりもさらわれていく女性を優先して助けに行きます。
女性を助け戻ってみると、弟はすでに亡くなっていました。するとそこへ僧侶が現れ、「そなたは正しい選択をした」と言うではありませんか。ボールスが幻の中で見た枯れた木は弟を、花は女性を暗示していたのです。
こうした試練を経て、ボールスは聖杯へと近づく資格を得ました。彼は、聖杯を得るためには肉親を失うような試練も乗り越えなくてはならないこと、どんな誘惑にも耐えなければならないことを学んだのです。
ボールス、聖杯探究を成功させる
その後ボールスは、弟の死もまた幻で、本当は彼が無事だったことを知ります。ボールスは弟との再会を喜びますが、弟は自分を見捨てた兄を許してはおらず、突然襲いかかってきました。
なんとか弟から逃れたボールスは、森の中で円卓の騎士パーシヴァルと出会います。海へ行け」という声を聞いたふたりが海辺へ向かうと、そこへ円卓の騎士ガラハッドが現れました。
こうして3人は小舟に乗って海へと漕ぎ出し、漁夫王のいる聖杯城へ、さらには聖杯があるサラスという国へと向かうことになりました。
ボールスはパーシヴァルとともに、ガラハッドが試練を乗り越え聖杯を手にする様子を目撃します。
その後、ガラハッドは聖杯を抱いたまま「聖人」として天に召され、パーシヴァルは地上の聖杯王となりました。
ボールスは彼らと別れると、ひとりキャメロットへと帰還します。アーサー王は彼に「聖杯の記録者」という地位を与え、彼が体験したことを全て書き残すよう命じました。
ボールスは聖杯探究を成功させましたが、若い頃に女性と恋に落ちていたため、自ら聖杯を手にすることは叶いませんでした。彼はあくまで「聖杯の記録者」であり、奇跡を目にすることを許されただけの存在だったのです。
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「目撃者」であり続けた男、ボールス
キャメロットに帰還した後も、ボールスは円卓の騎士としてアーサー王に仕えています。従兄弟のランスロットや王妃グィネヴィアからは特に頼りにされ、親友として彼らを支え続けました。
後にランスロットと王妃の不倫が発覚すると、ボールスはランスロット側に付き、火あぶりの刑に処せられそうな王妃を助けるための策を練ったり、ガウェイン卿と一騎打ちをしたりしています。
アーサー王の死後、ボールスは生まれ故郷の南フランスへ帰ると、父の領地ガリアの王となりました。最後は十字軍に参加し戦死したとされますが、定かではありません。
ボールスは決して派手で目立つ英雄騎士ではありませんでした。しかし、彼は聖杯伝説の目撃者であり、激動の時代をアーサー王の傍で生き延びた数少ない騎士でした。どんな伝説も、彼のような目撃者がいなければ後の時代に伝わることはないと言う意味で、彼もまた物語に欠かせぬ登場人物だったのです。
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