神秘的なイメージで語られることの多いケルト人。彼らはドルイドと呼ばれる宗教的指導者を中心に、神に生贄を捧げて呪術的な儀式を行うなど、後に広まったキリスト教とは大きく異なる信仰を持っていました。
今回はケルト人の信仰についてご紹介しましょう。
目次
ケルト人の宗教観とは?
【ケルト人はどんな宗教観を持っていたの?】
・基本は祖霊崇拝・精霊崇拝。
・魂は不滅で、死後は別の人間に生まれ変わると信じていた。
・神々や妖精の住む異界と現実世界の区別が曖昧だった。
ケルトの人々は先祖を崇拝し、部族の神として大切に扱っていました。
また同時に、森や泉、河川、海など自分たちをとりまく自然も神だと考え、生贄や供物を捧げ崇めています。
ケルト人たちは、魂は不滅で、死後は別の人間に生まれ変わると信じています。天国や地獄といった概念は薄かったようです。
また、彼らの中では神々や妖精の住む異界と現実世界の区別も曖昧でした。
こうした考え方から、ケルト人たちは死への恐怖が薄く、戦士として勇敢に戦うことができたといいます。
伝わらなかった「ケルト神話」
ケルト人たちの間には、宇宙の誕生と滅亡に関する創世神話があったと考えられています。
しかし彼らはこうした神話を文字に書き残さず、口伝えで伝承していたため、どんな内容だったのかは残念ながらわかっていません。
とはいえ、ギリシアやローマの著述家が残した記録から、その内容を断片的に類推することはできます。ここではふたつの例をご紹介しましょう。
・「ドルイドは、いつか火事と洪水が起こるとしていた。しかし大破壊の後でも魂と宇宙は不滅だとも考えていた」
Byローマの著述家ストラボン(紀元前63年頃~23年頃)
・「ケルト人戦士たちは、天がいつか落ちてくること以外に恐れるものは何も無いとした」
Byアッリアノス(2世紀頃)
こうした記述から、ケルト人たちはいつか大規模な災厄が起こるという伝承を持っていたことが推測できます。しかし不滅の魂や異界の存在を信じていたため、滅亡への恐怖を強く感じていたわけではないようです。
ところで、ケルトの神話は文字で残されておらず、内容を推測するしかないとお話しましたが、よく知られている「ケルト神話」は? と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は「ケルト神話」の内容は、アイルランドやウェールズといった島嶼部に伝わる資料をもとに、後世になってから作り上げられたものなのです。
10~16世紀頃のキリスト教修道士たちは、島嶼部で口伝されていた神話を文字に書き残していました。これらが、現地で民話として伝えられていた内容とともにまとめられ、「ケルト神話」として広まるようになったというわけです。
そのため、「ケルト神話」は必ずしも本来ケルトの人々が持っていた神話や信仰を正確に伝えているわけではありません。
ドルイドってどんな人?
ケルトの宗教的指導者といえばドルイド。フードやマントを身に着けた神秘的なイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
【ドルイドってどんな存在?】
・ケルト人たちの宗教的指導者。
・ドルイドになるには長期間の厳しい修業が必要。
・儀式では金属製の冠、笏や杖、楽器などを使用。
ドルイドとはケルト語で「オークの知識がある者」という意味で、様々な儀式を行って神と人とを繋いだり、討論の場で裁定を行う宗教的指導者のことです。
カエサルによると、彼らはブリテン島からフランス・ブルターニュ地方へとやって来て、その教えをケルト社会に広めたといいます。
ドルイドになるには長期間にわたる厳しい修業が必要でした。人によっては20年もの年月を費やし、詩、法律、歴史、秘儀などはもちろん、天文学、数学などの知識や教養も全て暗記したといいます。
現代では老賢者のようなイメージがあるドルイドですが、実際の服装は他の者たちと大差なかったと考えられています。
しかし各地で行われた発掘調査の結果などから、儀式の時には青銅製の冠を被ったり、若神や雄牛の彫物が施された飾り笏や杖、がらがらのような青銅製の楽器シストラムやラッパなどを使用していたことがわかっています。
こうした持ち物は、ドルイドのシンボルといえるかもしれません。
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ドルイドはどんな儀式を行ったの?
ドルイドたちはどんな儀式を執り行っていたのでしょう?
【ドルイドの行う儀式とは?】
・季節祭での豊穣祈願、無病息災を願う儀式や、王権授与の儀式。
・ゲッシュと呼ばれる約定を与える儀式 など。
ドルイドの役割は神の声を聴き、物事の吉凶を占うことでした。
彼らは鳥の飛び方や鳴き声、生贄の動物の内臓状態などから未来を読み解いたり、願い事を彫った石版や金属板、彫像を祭壇に供えて神に祈りを捧げるなどします。時にはお守りを作ることもありました。
様々な伝承に登場する呪術的な儀式のひとつに、「ゲッシュ」があります。
ゲッシュとは、英雄や王に与えられた宿命的なタブーです。たとえばアルスターの英雄クー・ホリンは「犬を食べてはいけない」というゲッシュを持っていましたが、これを破ったために左腕が麻痺してしまいました。
後の時代になるとゲッシュは変化し、対象に投げかける祝福や呪いのようなものになります。
この他、ドルイドたちは季節ごとの祭祀で行われる儀式や王権授与の儀式なども執り行っています。
こうした儀式で重要とされたのが生贄です。中でも人間の生贄は重要視されていました。カエサルによると、人間の生贄を捧げることで、神の力を無力化したり、支配したりできると考えられていたといいます。特に罪人が好まれ、様々な方法で神に捧げられていました。
後に広まるキリスト教とはかなり異なっていたケルトの信仰。後世の資料や発掘調査などから推測するしかない部分も大きいですが、その分、神秘的なイメージもあり魅力的です。キリスト教など他の宗教と比較してみるのも面白そうですね。
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