作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる武器コラム。
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
10.バスタード・ソード -片手剣と両手剣の中間に位置する剣?-
――もう一つ、刺突を主目的としたラテン風の剣と、斬撃を主目的としたゲルマン風の剣の特徴を兼ね備えた武器として名づけられたとも言われています。
刀身は1メートル前後と長く、刀身の厚さも1センチから3センチと分厚く作られています。日本刀の打刀が8ミリ前後の厚さであることを考えると、如何に頑丈に作られたかが想像できるかと思います。
どちらでも使えるようにそうなっているのよ。片手で使う場合に、柄が長いことで振り回す時にバランスを取りやすくしているのね。長い棒を握ってみるとわかるけれど、端を持っているよりも中心に近い位置を掴んでいる方が、ずっと持ちやすいのよ。
――とはいえ、利点ばかりではありません。
柄が長いということは、振り回したときに自分の身体に柄頭が当たってしまう可能性が高くなるので、通常の刀剣類とは取り回しに独特の癖があります。
また、バランスが取りやすいと言っても重量は3キロ弱あり、片手で振り回すためには剣の重さを上手く利用するようにしないと、すぐに疲れてしまいます。
――バスタード・ソードはこの点、両手で使う分には楽でした。柄が長いので、柄の上端と下端を握っていれば止めるのも振るのも楽だったのです。
ですが、馬上での使用において片手で振るうとなると話は別です。
長大な剣を振り下ろすまでは良いですが、しっかりと止めなければ馬や自分の足に当たってしまうのですから。
だから、長い柄を前腕や肘に沿えるようにして勢いを止めたり、回転させるにしても前後に振る様にしたりして馬や自分に当たらないようにするのよ。慣れれば、日本刀のように自分のお腹に引き込むようにして勢いを殺すことも可能だけれど、腰が据わった状態じゃないと本当に難しいわ。
――バスタード・ソードは13世紀ごろに登場したとされています。
汎用性が高いこともあり、メイスなどと並んで騎士や兵士が戦場で補助の武器として使うようになりました。 分厚い刀身に両刃が施され、鋭く尖った切っ先はタックのように刺突でも充分な効果を発揮します。
重さもあるので斬撃でも相手の骨を砕く威力を誇り、金属鎧が相手でも、斬撃は通じずとも殴りつければ衝撃は十分伝わります。
――日常の携行品としては大きすぎ、護身用にしても長大すぎる武器でした。
この点に関しては、腰に提げて携行できるショート・ソードやナイフ、メイスなどと比較すると使い難い武器になります。
また、先述の通り使いこなすにも訓練が必要な武器であり、他の剣を使い慣れていてもバスタード・ソードに関しては使い勝手が異なり、専門の訓練をしなければなりません。
――戦場武器だったために、重さで振るうことや馬上から地上の相手に届く長さを持つなど、馬上戦闘を想定して作られた側面があるのです。
バスタード・ソードが活躍した時期は、金属鎧が発達した時代でもあります。
チェーン・メイルに対して鋭い突きや重い打撃のような斬撃で活躍してきたバスタード・ソードは、金属板を使用したプレート・メイルの時代でもその重厚さと打撃力で活躍し、巧者であれば鎧の隙間を狙える武器ともなりました。
――サーベルなどの片手剣に多く見られる護拳ですが、両手剣や長柄の武器にはあまり見られません。
これは戦闘の最中に手の位置を頻繁に移動させるためです。
片手に持ち手首と腕で振り回す片手剣と違い、両手に掴む武器は、振り回している最中、柄に対して手首の方向が大きく変化するのです。
***
――というわけで、『ルリちゃんの聞きかじり武器講座』はここまでとなります。
言葉足らずな部分などもあったかと思いますが、楽しんでいただけましたでしょうか。
世界のあちこち、時代や目的で全く違う、あるいは不思議とそっくりな、多くの武器が生まれました。そのいくつかは今でも継承され、いくつかは姿を消しました。
それらは戦争を生き抜くため、勝利するため。あるいは命を守るため、誰かを排除するため。人々が訓練し習熟し、あるいは無理矢理に持たされて戦いに使われました。もちろん、戦いには使われず、装飾品として最後まで飾られていた武器もあったでしょう。
そんな、無数に存在する武器のごくごく一部を紹介しただけではありますが、この機会にほんの少しでも興味をもっていただき、調べてみようと思っていただけたなら、本コラムを書いた者として、武器を扱い、愛する者として、とても嬉しく思います。
それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
◎ルリちゃんの聞きかじり武器講座
第1回:サーベル
第2回:タック
第3回:ショテル
第4回:スピアー
第5回:ウォー・ハンマー
第6回:メイス
第7回:バグ・ナーク
第8回:ショート・ボウ
第9回:マン・ゴーシュ
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収して売買することを生業としている。
2人の活躍する小説『よろず道場のお師匠さん』もよろしくね!
◇参考書籍
『武器と防具 西洋編』
著者:市川 定春
>Kindle で読む
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。