もしあなたが中世ヨーロッパの世界に転生したら、稼いだお金は全て自分で使ってよいのでしょうか? いいえ、残念ながら全額自分のものになるわけではなく、様々な税金を支払わなければなりません。
今回は中世ヨーロッパの税金についてお話しましょう。
目次
農民たちが支払っていた税金
中世ヨーロッパでは、農村も城塞都市も基本的には地元の領主の所有地とされています。そのため人々は領主に対し、納税や労働といった義務を果たさなければなりませんでした。
当時の税金制度にはどのようなものがあったのでしょう? まずは農民たちが課せられていた主な税をご紹介しましょう。
・人頭税
住民1人1人にかけられた税。
・地代
農民が耕作する農地にかけられた税。穀物で徴収される他、金銭で支払われることも。
・保有地移転料
他の農民に農地を譲渡する際に支払う税金。譲渡する前に領主の許可も必要だった。
・死亡税・相続税
親が耕作していた土地を継承する時に支払う税金。跡継ぎになる者は税金を納めた上、自分の所有する1番良い家畜を領主に献納しなければならなかった。
・施設使用料
水車小屋、パン焼き釜、葡萄圧搾機などを使う時にかかる税金。
・賦役
週に2~3日程度、領主の直営地で耕作や機織り、運搬などの労働を行う。時代が進むと金銭を支払えば免除されるようになった。
この他、農奴が結婚する時に支払う税金や、教会に支払う10分の1税(収穫の10分の1を収める)、臨時の労働など、農民たちが課せられていた税金には様々な種類がありました。
都市の住民に課せられていた税金
続いて、都市の住民たちが支払っていた税金もご紹介しましょう。
・納付金
市当局に支払う税金。現在の住民税のようなもの。
・通行税・市場税・間接税
街道の関所を通過する度に徴収される「通行税」、定期市に参加する時に支払う「市場税」、流通商品にかけられる「間接税」といった、商売に関連する税金。
この他にも人頭税など、都市の住民たちも様々な税金を納めながら生活しています。とはいえ、市当局は自分たちが納める税金を少なくするため、全体的に税率を低めに設定していました。
城塞都市は元々、領主の所有地ですが、都市が発展し国王や領主から特許状を貰えれば、自治都市になることもできました。こうした都市では領主ではなく、「自由市民」(ブルジョワ)と呼ばれる市民たちが主導権を握ることになります。
【自治都市で自由にできること】
・市長や市議会員を自分たちで選出する。
・独自の法律を制定する。
・自分たちで裁判を行う。
・市場を開く。
都市の商人や職人たちはギルド(同業組合)を結成し、互いに助け合いながら政治的な発言力を身につけ、自治都市になるための特許状獲得を目指しました。
続いてはそんなギルドの仕組みもご紹介しましょう。
守れなければ罰金も ギルドの仕組み
城塞都市では、ギルド(同業組合)の会員でなければ商売をすることはできません。
ギルド会員になれるのは基本的に男性のみで、入会時に次のようなものを提出しなければなりませんでした。
【ギルドの入会に必要なもの】
・加入金
・その都市の市民権を取得していること
・賤民でないことの証明
・親方就任披露の宴会を開くための費用
・(職人の場合)親方になるための技量がわかる作品の提出
これらの条件をクリアしギルドに入会した者は、ギルドの規則を守りながら仕事をしていくことになります。
【ギルドの規則】
・城塞都市ではギルドの会員しか商売してはならない。
・夜間の商売禁止。
・勝手な値下げ禁止。
・製品の品質を一定に保たねばならない。
こうした規則を設けることで、ギルドは製品の数を抑え、価格水準を上げることができました。
規則を守れない者には罰金が科せられる他、ギルドから追放されることもあったといいます。
規則が厳しい分、ギルドは福利厚生も充実しています。
【ギルドの福利厚生】
・学校を開設する。
・老人ホームを運営する。
・貧しい会員の葬式代を支払う。
・聖日には娯楽を手配する。
たとえばロンドンの織物商ギルドでは、週6ペニーを各会員から徴収し(当時の労働者の賃金は1日あたり4ペニー程でした)、貧しい会員を助けるために使用していました。
都市に暮らす商人や職人にとっては、こうしたギルド加入・運営にかかる費用も一種の税金のようなものだったといえるかもしれません。
実にたくさんの種類があった中世ヨーロッパの税金制度。もし中世ヨーロッパに転生することがあっても、税金から逃れることは難しそうですね。
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