18世紀イギリスに誕生した秘密結社「ヘルファイア・クラブ」(業火クラブ)。後の財務長官やロンドン市長といった錚々たる面々が顔を出していたこの秘密結社では、黒ミサや悪魔崇拝といた背徳的な儀式が執り行われた他、秘密の活動も行われていました。
今回はそんなヘルファイア・クラブの秘密をご紹介しましょう。
目次
ざっくりまとめる! 「ヘルファイア・クラブ」
- 18世紀中頃のイギリスに誕生した秘密結社。
- 主宰者はイギリス貴族のフランシス・ダッシュウッド。
- テムズ河畔のシトー会修道院を改装し、黒ミサや悪魔主義的な儀式を行った。
- その実態は有閑貴族たちが乱痴気騒ぎを繰り広げる秘密社交クラブだった。
「ヘルファイア・クラブ」(業火クラブ)はイギリス貴族フランシス・ダッシュウッドが主宰した秘密結社です。
ダッシュウッドは1753年頃に友人からテムズ河畔にあったシトー会修道院の廃墟を譲り受けると、大がかりな改修工事を行い、ヘルファイア・クラブの活動拠点とします。
ヘルファイア・クラブでは有名貴族や金持ち、政治家、芸術家などが集まり、キリスト教の神を冒涜するような黒ミサや、悪魔崇拝のための儀式を行っていました。
しかし彼らは本気で悪魔を崇拝していたわけではありません。彼らがヘルファイア・クラブに参加していた本当の目的は、道徳や社会常識、理性の束縛から逃れ、堕落と快楽にまみれた乱痴気騒ぎを繰り広げることでした。ヘルファイア・クラブの実態は有閑貴族のための秘密社交クラブだったのです。
次項からはそんなヘルファイア・クラブの実態をもう少し詳しくご紹介しましょう。
ヘルファイア・クラブの淫猥な内装
修道院だった場所を改装して作られたヘルファイア・クラブ。一体どんな場所だったのでしょう?
入口の門には「汝の欲するところを為せ」という一文が額入りで飾られています。これはフランソワ・ラブレーの『ガルガンチュワ物語』に登場する標語です。
改装された礼拝堂の天井にはエロチックな壁画が描かれ、壁も12使徒の淫猥な戯画で飾られています。
大ホールの壁には歴代イギリス国王の肖像画が掲げられていました。図書室にはダッシュウッドが蒐集した艶笑文学やポルノ画などのコレクションが並べられていたといいます。
これらの部屋はゴシック様式のアーチや蔦の這う柱廊などに囲まれています。館内のあちこちには「歓楽きわまりて、ここに死せり」「この場所にて、数限りなき接吻を交わせり」といった文言が彫り込まれていました。
「修道士」と「修道女」
ヘルファイア・クラブに集う者たちは「修道士」を気取っていました。その顔ぶれは政治家から詩人まで幅広く、たとえば次のような人物が知られています。
・ジョン・ウィクルス(政治家、後のロンドン市長)
・サンドウィッチ伯爵(後の海相)
・トマス・ポッター(青年代議士、後の財務長官)
・チャールズ・チャーチル(英国国教会の牧師、風刺詩人)
・ポール・ホワイトヘッド(詩人)
・ロバート・ロイド(借金王)
彼ら「修道士」たちは次の2種類に分けられました。
①「低位聖職者」
会員の紹介で連れてこられた”ふり”をした客です。こうした客の中には後にイギリス国王ジョージ3世となるウィリアム・フレデリックや、後の首相ピュート伯といった大物も含まれています。
②「高位聖職者」
クラブの本会員は「高位聖職者」と呼ばれます。彼らは当番制で「司祭」役を定め、館内の個室の設備を整えたり、料理人や給仕を監督する役割も担っていました。
本会員といっても、彼らがクラブに出入りするのは多くて年に2回程度、1回あたりの滞在も15日以下だったといわれています。これは周囲の目を引かず、秘密を守るための配慮でした。
この他、クラブには大勢の「修道女」も集められています。彼女たちは本物の修道女ではなく、その正体は娼婦です。中には会員が連れてきた上流婦人や貴族の娘もいましたが、仮面で顔を隠していたため身元はわかりませんでした(ということになっていました)。
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ヘルファイア・クラブの実態とその後
政治家や金持ち、娼婦たちが集まるクラブ――そう、ヘルファイア・クラブは有閑貴族たちのための秘密の社交クラブでした。そこでは男女の遊びや酒や煙草の他、賭け事、麻薬なども行われていたといいます。
ヘルファイア・クラブでは、黒ミサや悪魔主義的な儀式も執り行われています。たとえば体液や子どもの小便を葡萄酒に混ぜて神に捧げたり、逆さに掲げた十字架を引きずり下ろして踏み付けるといった、神を冒涜する行為です。
しかし彼らは本気で悪魔を崇拝していたわけではありません。こうした儀式は道徳や常識といった日常生活の枷を外し、乱痴気騒ぎを繰り広げるための一種の「遊び」でした。
ヘルファイア・クラブはその後、十数年ほどで閉鎖され、会員名簿や規則などの書類は全て焼却処分されてしまいます。これは主宰者のダッシュウッドが大蔵大臣に指名され、身辺整理が必要になったためだといわれています。
秘密結社といえば「黄金の夜明け」団や「薔薇十字団」のような、魔術や神秘主義の発展に貢献した団体が有名ですが、中にはこのヘルファイア・クラブのような、一種独特な団体も存在していたのです。
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