美しい少女グィネヴィアは英雄アーサー王に見初められ、10代前半にしてブリテンの王妃となります。しかし彼女を待っていたのは、誰もが羨むような幸せな結婚生活ではありませんでした。
今回はグィネヴィアとアーサー王、親友の騎士ランスロットとの悲劇の物語をご紹介しましょう。
目次
ざっくり解説・グィネヴィアの生涯
- カメリアドの王レオデグランスの娘として誕生。
- 10代前半でアーサー王と結婚し、ブリテンの王妃になる。
- 円卓の騎士のひとり・ランスロットと不倫し、王国を破滅へ導いた。
グィネヴィアはイングランド中西部・カメリアドの王レオデグランスの娘として誕生します。
早くに母親を亡くしましたが、高潔で清廉な父王のもと、彼女はすくすくと成長しました。
グィネヴィアが13~15歳になった頃、カメリアドの国はウェールズのリエンス王からの激しい攻撃にさらされます。必死に防戦する父王の元に駆けつけたのが、ブリテンの少年王アーサーでした。
アーサーは伝説の剣エクスカリバーを振るい、獅子奮迅の働きであっという間にリエンス王の軍勢を退却させました。
その勇ましい姿に、グィネヴィアはすっかり見とれてしまいます。アーサーもまた、彼女の美貌と美しい金髪に惹かれていきました。こうして若きふたりは恋に落ち、めでたく婚約することとなったのです。
アーサー王とグィネヴィアの結婚式は、アーサーがブリテンを統一した年に、キャメロットの王宮にある聖ステファン教会で厳かに執り行われました。
キャメロットの広間には、花嫁の父から贈られた円卓が置かれ、そこに列席する騎士たちは「円卓の騎士」と名付けられます。
よくあるおとぎ話なら、ここでハッピーエンドとなるでしょう。ところが、ふたりの場合はそうはいきませんでした。ふたりの気持ちはすれ違い、やがてブリテンの国を巻き込む戦いにまで発展してしまうのです。
一体何があったのか、次項からご説明しましょう。
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甘くなかった新婚生活
幸せいっぱいの結婚式も終わり、夢にまで見た甘い新婚生活が始まる――はずでした。
ところがアーサーは今やブリテン全土を治める国王ですから、キャメロットの居城にいる間は王としての責務を全うせねばなりません。新婚といえど、グィネヴィアがひとりで彼を独占できる時間はほとんどありませんでした。
またアーサーは、戦争が起きれば何日も城を留守にし、新妻を置いて危険な戦場へと出かけて行ってしまいます。グィネヴィアはひとり孤独と不安に耐えなければなりませんでした。
それにグィネヴィア自身もブリテンの王妃として、人々に目を配り、夫を支えて立派に振舞わなければなりません。彼女は国民たちから、常に理想の女性であり続けることを求められたのです。
こうした暮らしは、まだ10代だったグィネヴィアにとって、とても過酷なものでした。彼女は必死で頑張りましたが、アーサーとの間にあった愛情は色あせ、しだいに献身や憧れの気持ちに変わっていってしまいます。
そんな時、彼女の前にひとりの男が現れたのです。
ランスロットとの出会い――そして破滅へ
ランスロットはアーサーの盟友であり、親友でした。元はフランス・ベンウィック王バンの息子でしたが、戦争で父を亡くした後、湖の妖精に育てられ、ブリテンでアーサー王に仕えることとなったのです。
ランスロットはアーサー王に深い友情と忠誠を捧げました。彼はまた、親友の妻であるグィネヴィアにも無償の愛と献身をもって尽くしました。
気高く、強く、優しいランスロットに、グィネヴィアはあっという間に夢中になります。王妃として立派に振舞わなければならなかった彼女にとって、ランスロットは唯一の甘えられる存在でした。
ランスロットは親友から妻を奪う気などありませんでした。彼はあくまで親友の妻として、グィネヴィアに無私の愛を捧げます。アーサーもまた、親友を信頼し、ランスロットにわがままを言うグィネヴィアを優しく見守っていました。3人の関係は微妙なバランスの元に成り立っていたのです。
ところがアーサーに恨みを抱く人々にとって、こうした状況は格好のネタでしかありません。彼らはグィネヴィアとランスロットを何度も罠にかけ、ついに不倫を暴くことに成功します。
こうしてランスロットとアーサー王との信頼関係はついに崩れてしまいました。
さらに、不倫の罪で死刑になろうとしていたグィネヴィアを救う際、ランスロットは誤って友人であるガウェイン卿の弟たちを殺してしまい、ガウェインとの友情までも失ってしまいます。
一連の出来事がきっかけで、円卓の騎士団は崩壊し、騎士たちは争いを始めてしまいました。さらにアーサー王が他の女性(姉のモルゴース)との間にもうけた息子モードレッドが反乱を起こした結果、アーサーは斃れ、王国は崩壊してしまいます。
戦いの後、ランスロットは全てを捨て、僧籍へと身を転じたといわれています。
グィネヴィアもまた修道院に入り、尼僧となりました。ふたりが会うことは二度となかったということです。
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